警護者キリュウ

どらんくうざ

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二十一才 漁の成果と望んでた試験の結果

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 久しぶりに晴れている夕方。
最近は曇りや雨、雪が多く天気が不安定だった。
キリュウは地平線に沈みゆく太陽と青空、流れる雲の比率を見つめて空気を吸った。

 ひんやりした空気が彼の鼻腔をつたって体に充満する。
リリポットの周辺の大地を一日中走った後の、体がクールダウンさせ終わった後であった。
夜の闇に包まれる前に家路につくために体を村に向けた。

 キリュウの二十一才の冬。
前に警護者の資格試験から脱落してから三年ちょい経っていた。
彼はその期間を、精神と肉体を充実させるための修業期間と位置づけていた。
そして、単身で数多くの特訓をしてきた。
稀の知人に協力を仰いだ時の返答は、大体の場合は好意的なものでもあった。

「遂に合格できるはずだ」

 太陽により導かれる影をを地面に映しながら、漁村リリポットを目指した。
そこは、今の生活地。
彼は冷えゆく空気を身に浴びつつ、風邪も引かないように軽いペースで駆けだした。
彼の日頃の特訓の賜物で、疲労が重なってきてからの粘り強さが遥かに増していた。

 数日後。

 舟の櫂を鮮やかに操る先輩。
キリュウはいつか自分も上手くなってやると思いながら、海面の先を見つめていた。
視線とは違う先に陸地が広がっている。

 舟に同乗するのは、キリュウとさらにもうひとりの先輩、そして元師匠の爺さんだった。
爺さんは、最近腰が弱くなり乗船中に座っている事が多かった。
そのため、引退して息子に養われる予定だというのがもっぱらの噂であった。

「サトル、素早く網をあげろ」

 キリュウにとって先輩に当たるサトル。
彼と二人で網を手繰り寄せていく。
舟の上で指令を与えるのは、もう引退の迫る爺さんの役割であった。

 網にはジタバタと動く魚たちが掛かっている。
引き揚げがおわり二人でに一匹ずつ網から引き剝がしていく。
掴んだ鱗のぬるぬるした感触。
引き揚げ終わった網を舟の上に片づけると、次の引き上げポイントまで向かうように爺さんが指示した。

 そこにもう一艘の舟が近づいてきた。
船上にいたのは三人。
それは、併走するように側に近づいてきてから、一人の女が魚籠ふたつを交互に持ち上げて軽く手で叩いていた。

「船長が年寄りだと成果も芳しくない感じね。
こちらの成績は上々」

 発言と魚籠を持ち上げている者は、キリュウと同期のサナエであった。

 新人の頃をのぞいて、どの舟に乗り込むかのチーム組みは決まっていた。
そのため、サナエと共に乗ってたのは新人の教育期の頃だけだった。
キリュウはそのままに、彼の指揮の執るチームに配属されていたのだった。
キリュウとサナエ以後、誰もここでは正式に協漁業会に入会していなかった。

「俺たちはこれからが本番なんだよ」

 爺さんは少々自信過剰になっている彼を諫めると、自分らの魚籠を見せつけるように合図した。
その中身は相手より多かった。

「当然の帰結だわ。
小物や大衆魚狙いだと数は多くなるから。
つまりどちらの方がより獲物が珍しいか、漁が難しいかが問題なのよ」

 相手の女船長は自分で頷きながら悦に入った顔をしている。
彼女は現在のここの地元の漁師の中では古株の部類であり、支部長の娘でもあった。

「本日の投入ポイントは、俺の見立てで師匠は良しとしてくれたのさ。
つまり、本日は俺の成績ということなのさ」

 キリュウは舟の上で胸を張った。
さらにそれの上に乗る三人を順番に見つめてから、叫んだ。

「キリュウ、そんなに漁に熱をあげていいの?
それにこちらの本日の最高の収穫は、これ」

 同期で入ったサナエが舟越しに一匹の魚を魚籠から持ち上げて、見せつけた。
背鰭が長く銀色の光沢を放つ魚。
彼女の手から放れようとして尾鰭を動かし続け、さらに鰓を開き口をパクパクと動かしている。
冬季の近海で獲れる、祝いの席で食べられる高級魚のキンロであった。
身の味が濃く特に焼くのが焼いても旨いと言われるが、煮ても味が染みだし美味しいといわれていた。

「サナエ、あんまり自慢がすぎるわ」

 併走する舟の船長は彼女に座るようにも促している。
左右に舟が揺れて水が側舷を飛び越えて少し入っているようだった。 

「さて、アヤ。
わし達は別の引揚げポイントに向かう。
そこにおぬし達も来てキリュウの漁師としての腕前を見てみるかな?」

 彼女はその言葉を聞くと、櫂を動かしてぶつからない様に離れていった。
最後に舟から叫び声がしたようだったけど、よく聞き取れなかった。

 キリュウはもう一艘の遠ざかっていく様子を眺めてから、自らの役割に戻った。
彼らは若者の選んだ次の引き上げポイントに向かう。
周りには他の舟はない、もっともここの支部にあるのは四艘だけだった。



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