8 / 10
通じ会う想い
しおりを挟むドランとアイリスが居なくなった客間で、私は声をあげずに時おりしゃくりあげながら、エルの胸の中で泣いていた。エルは優しい手つきで私の背を撫でて落ち着かせてくれる。
こうしていると、感情が高まり泣いたことが段々と恥ずかしくなってきた。
さらには、エルに愛する人と言われた事にそれが本心かそれとも私を助けてくれる為の嘘なのか確認するのが怖くて、顔を見せなくて良いこの状況に甘んじている。
「お嬢、このままで良いから聞いてくれる?」
「……。」
「ユーリ、私は君を愛している。ドランがいるから諦めて居たが、ユーリに前世の話を聞いたとき歓喜した。」
「……。」
「酷い男と思われるかもしれないが、私は貴女が婚約破棄されるという事を聞いて本当に嬉しかったんだ。」
確かに私は、エルに前世の記憶を持っていることを伝えた時に、婚約破棄の事も伝えてあった。
その時からエルが吹っ切れたような表情をしてたのは、そういう事であったのか。
「貴女を私の手で幸せにしたい。」
そんなのずるいわ。
「わ、私もエルを幸せにしたいわ。」
きっと酷い顔をしている私にエルは見惚れる様な甘い笑みを浮かべて、優しく恥ずかしがる私にキスを落とした。
「それにしてもあの女は何を考えているんだか。」
「エル、怒っているの?」
「当然。」
エルが落ち着いた私を膝の上に乗せて、手を腰に回して拘束している。
抵抗などする気は無いが恥ずかしいのはかわりなくつい、飲み物に手を伸ばしてしまう。
そうそう、我が家の有能な侍女が隙をみて軽い軽食と飲み物を用意してくれたんです。その時はエルとの姿に微笑ましい表情をされてしまいました。
きっと、夜には父にも話がいっちゃうわね。ううっ。
軽食をつまみながらエルを覗きみると、エルは少しむっとした表情をしていた。先程の会話から本当にアイリスにイラついているのがわかる。
「あの女、最初からユーリを悪役扱いして……。」
「まあ、原作では悪役令嬢と言われてましたしね。」
「そもそも、その原作を聞いても私には悪役令嬢とは思えない。」
そうなのです。
それは、私も思っていたこと。
前世ではユーリは悪役令嬢と呼ばれていましたがそれは一部の者でした。その一部以外では私は『お人好し令嬢』と呼ばれていました。
よくよく考えてください、悪役令嬢のいちゃもんや苛めの結果、主人公が成長し周りに認められてゆくのです。
それって、私が恨まれても良いという想いでアイリスが公爵令嬢になれるように指導している様じゃないですか。
だから、お人好し。
他の物語の多くの悪役令嬢だって踏み台になって主人公を成長させてるし、悪役令嬢ってなんで言われてるのかしらね。たしかに、命を奪おうとする悪役令嬢もいるけどさ。
でも、私は違うわ。
「彼女も転生者だと思うわ。」
「ああ、悪役令嬢って叫んでたからね。」
「彼女も本当にドランと結婚するなら色々と手を打てば良いのに。」
「そういえば、ユーリの苛めってどんなのがあった?」
そうねぇ。
まずは、挨拶やマナーが出来ないことを詰って、次にダンスや貴族達の名前を知らないのを馬鹿にしたわ。
それから、楽器の1つも出来ない事や国々の言葉が分からないことを哀れんで見せるはず。
他にも細々とあったけど、どれも貴族になるなら必要なことよね。
「確かに、貴族になるにはそれぐらいは出来ないとな。マナーや挨拶にしては今時の平民は出来るものも多いが。」
「彼女、できなかったわね。」
「公爵夫人が反対なされるのもわかるよ。」
「公爵夫人は最後の砦だから。」
「たしか、あの女が色んな国々の集まる大会で優勝して、スピーチするんだっけ。」
「そうよ、そこで大国の言葉でスピーチして優勝トロフィーを公爵夫人に渡して私は負けを認めるのよ。役目が終えたってことだと思うけど。」
今考えるとやっぱりユーリってばお人好しだわ。
大会はあと1ヶ月後に行われる。
それまでに自分から行動を起こすかしら。あの感じでは想像はつかないけど。
しかもこの大会、私も出るのよね。
あらこれって対決?
やだなぁ、関わり合いたくないのに。でも、国から選ばれた者だからボイコットも出来ないし。というか、彼女はそもそも出れるのかしらね。
10
お気に入りに追加
938
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はもらい受けます
SHIN
恋愛
会場に響く声に誰もが注目する。
声を発したのは少し前に留学してきた美しい少女。
彼女は、婚約破棄され濡れ衣を被せられた悪役令嬢を救えるのか。
という婚約破棄物です。
欲望のままに書いたからながいです。
なんか、話が斜め横にいきました。あれぇ、主人公くんが暴走してる。
10/2完結。
10/9捕捉話。
SHIN
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!
睫毛
恋愛
よくある婚約破棄ものです
公爵令嬢であるナディア・フォン・サルトレッティは、王家主催の夜会の最中に婚約者である王太子ジョバンニ・ダッラ・ドルフィーニによって婚約破棄を告げられる。
ええ、かまいませんよ。
でもしっかり反撃もさせていただきます。
それと、貴方達の主張は全部ブーメランですからね。
さっくりざまぁさせていただきます!
ざまぁ本編は一応完結(?)です。
ブーメラン後の話の方が長くなってます(;'∀')
元婚約者が反省したり(遅い)
隣国の王族が絡んできたりします!
ナディアが段々溺愛されていきます(笑)
色々と設定は甘め
陰謀はさくっと陰で解決するので、謎はあまり深堀しません
そんな感じでよろしければ是非お読みください(*´Д`)
何だか長くなってきたので、短編から長編に変更しました・・・
辺境伯と悪役令嬢の婚約破棄
六角
恋愛
レイナは王国一の美貌と才能を持つ令嬢だが、その高慢な態度から周囲からは悪役令嬢と呼ばれている。彼女は王太子との婚約者だったが、王太子が異世界から来た転生者であるヒロインに一目惚れしてしまい、婚約を破棄される。レイナは屈辱に耐えながらも、自分の人生をやり直そうと決意する。しかし、彼女の前に現れたのは、王国最北端の辺境伯領を治める冷酷な男、アルベルト伯爵だった。
【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。
鏑木 うりこ
恋愛
クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!
茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。
ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?
(´・ω・`)普通……。
でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
もふきゅな
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した
葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。
メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。
なんかこの王太子おかしい。
婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる