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小さな怪獣くん
しおりを挟む先の茶会で、ろくなプロポーズもしていない事がわかったイェシル殿下は、王妃にこってり兄弟ともども怒られた。
王様に関してはとばっちり感が否めなかったが優しい王妃の大きな声が城中に響き、何事かと見に来る家臣が、王をしかる王妃の姿になぜか納得した顔をして戻って行った。
フィシゴいわく、王族の種族はライオンであるらしく、ライオンは雌が婚姻の主導権を握るのだという。
優しい王妃さまも、王妃になると頷くまでに相当王が苦労したらしい。
私は気にしていないので大丈夫だと言ったのだが、周りが良しとしてくれない。これ以上ごねると、カインまで出てきそうなので、あとを任せてしまおう。
王妃の権限でイェシル殿下に命じられたのはプロポーズをちゃんと行うこと。
そのプロポーズでキュンときたら、結婚を受けてほしいと私にまで話が来た。
その話が来た翌日から、何やら視線が向けられているのに気がついた。
視界の端にはチラチラと明るい茶色のふわふわがある。彼が視線の主なのはわかるが、誰もそのふわふわを止めないところを見るに、常習犯なのかもしれない。
くきゅっ。
3時のおやつが過ぎた頃、可愛らしい音が耳に入り、とうとう対面する事にした。
「こんにちは。クッキーはいかが?」
「!」
怖がらせないようにそっとしゃがみながら声をかければびっくりしたように飛び上がる。
昔、猫でよく見たような飛び上がり様だ。
クッキーを差し出せばそろそろと手を伸ばして受け取ってくれた。そのままじっと待てばおずおずとクッキーを口に一口入れて、その後に勢いよく食べ始めた。
「探検にはオヤツが必要よ。持っていきなさい。」
「……ありがとう。」
袋ごとクッキーを渡せば、素直にお礼を言ってくれる。
年の位は小学校ぐらいかな。翡翠色の瞳に、可愛らしい八重歯のライオンの獣人さん。
まあ、関係者だよね。
でも、お互い名乗ってもいないのでそっとしておこうと思う。これから私はブーケの花を精霊の国の人と相談することになっている。
クッキーを食べている可愛らしい子に手を振って先に急げば後ろからテクテクとついてくる音がする。
このまま、連れて行ってもいいのか迷いながらも気がついていないふりをして庭園に向かう。
庭園には漆黒の姿の男が、優雅にお茶を飲んで待っていた。彼が、精霊の国の次期当主になるレオナルドさんだ。
薄っすらと輝く羽が美しく、日の光を透かして虹を作っていた。
「お待たせしました。」
「待っていた。美味しいお茶は美しい女性と手作りのクッキーで楽しみたいね。」
「今日はスノーボールにしてみました。」
先程、小さな獣人さんに渡したのと同じ包を渡し、温くなってしまった紅茶を入れ直してもらう。
袋を開いて一つクッキーを食む、レオナルドさんは幸せそうに笑ってもう一つと手を伸ばしてゆく。
その途中に私の分がないのに気がついたらしく、眉間にシワを寄せて見つめている。せっかくの幸せそうだったのに残念だ。
「お前の分はどうした?いつも多く作って食べていただろう。」
「気にしていただき有難うございます。私の分は可愛らしい探検家に有効活用してもらいました。」
「…ふむ。その可愛らしい探検家とは背後の子ライオンか? 」
「ふふ。可愛らしいでしょ?」
自分の話とは思っていないのだろうピロピロとお耳が草むらから覗いていてほんわかする。
私のその幸せそうな顔を見たのか、レオナルドさんは軽いため息をつきながら、言葉を飲み込むようにお茶を飲んだ。
「では、ブーケの花でも決めようか。」
「はい。」
「その髪に合うように花も散らすのなら、ブーケにはその花に近い物を含めて合わせるのもいいだろう。」
「ドレスには緑の生地が使われる予定らしいです。」
「では、白い花が基本でもいいな。」
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