上 下
1 / 6

どうやら婚約破棄の様です。

しおりを挟む



「婚約破棄をしたい。」
「分かりました。」


 特有の膨大な書類仕事を捌いているくそ忙しい時に、普段は挨拶どころか顔を見せもしない男がノックもなしに入ってきたと思ったら、質素なエプロンドレスを着た少女を腕に抱きしめて冒頭の言葉を言ってきた。

 男を一瞥することもせずに勝手にしなさいなとばかりに了承し、いましがた目を通していた書類を完了箱に投げ入れる。はしたないなどは考えてはいられない。それほど今は忙しい。
 そこに、ノックがあり新たな書類を持った私の父親が入ってきた。
 父親は男だろうが女だろうが魅了する銀糸の髪で紫暗色の瞳の美形さん。作り物の様な美貌の彼が入ってくると空気が張りつめた様に変わります。
 父親は書類を捌く私と少女を腕に抱く男に視線を巡らしたが、父親が入ってきてもろくに挨拶もせずに固まってしまっている男に興味が失せたのか書類を私の机に置く。色んな意味で思わずため息を漏らしてしまいそうになりました。


「多過ぎですわ。」
「しょうがないだろ。捌ける者が少ないのだ。」


 それもそうね。と呟いて新たな書類の束に結局はため息をつくはめになってしまいましたが、どうやら置物ごっこをしていた男がやっと正気を取り戻し動きはじめた様だった。
 そのまま出ていってくれるのかと思いきや私の机の前に偉そうに仁王立ちしてこちらを睨むように見てきた。
 部外者に見せられない書類もあるため書類捌きの手を止め男を見る。そもそも、この部屋には関係者以外は入れてはならない筈なのに。エプロンドレスの少女が入っているなんて後で部屋の護衛にお仕置きね。


「婚約破棄をすると言っている」
「はぁ、ですから分かりました。」
「なんだ、婚約解消か。」
「そうだお父様、丁度良いので手続きをお願いしますね。」


 丁度、父親も居ることだしさっさと男の望む事を終わらせれば書類を捌きを再開できると父親であるこの国の王に視線を向けた。


 その言葉で分かるように、私はこの国の王女であるシシリア・アシュリー。まあ、第二と付きますが。そして、書類を持ってきたのはこの国の国王陛下であるディクトール・アシュリー。
 我が父親ながらその美貌は羨ましいくらいに綺麗です。
 えっ、私ですか?私は銀糸の髪は父親と同じですが他は可愛い系の母親に似ているのですが何故か平凡な容姿をしています。
 ちなみに父親があらわれてからエプロンドレスの少女は頬を染めて見ています。

 そのうっとりとした表情にむっとしているのは、ほんの数秒前迄私の婚約者であった、ベルジュ・オーランド。
 オーランド公爵子息、いえ、今は侯爵子息に変わったのだったわ。
 我が父親に比べたら遥かに劣りますが金糸に碧眼の王子さまルックの美形は美形です。
 そして、立場を理解していないお馬鹿とも言いますね。王族に向かってそういう態度が出来ていたのは私の婚約者であったおかげだと言うのにまったく。
 

「では、早急に侯爵家にきてもらい手続きをしてしまおうか。」
「そうですわね。」
「ちょ、ちょっとまて。」


 ポンポンと簡単に婚約破棄の話が進むのに、どうやら先に言い出したベルジュは戸惑いを隠せないようだった。
 もしかして、私がベルジュが好きで無理やり婚約していたのかと思っていたのかしら。そんなわけないのにむしろ……。


「本当に丁度良かった。隣国の者がシシリアを妻にしたいと言ってきていたからな。」
「あら、そうなの?」
「婚約者が居る知って悔しがって、独身をつらぬくと宣言しておったぞ。隣国の貴族は慌ててたぞ。」
「あらあら。」


 それほど私のことを気に入ってくださるなんて嬉しいですわね。
 しかも、隣国なら国際的にも有用なことだから反対も少ないでしょう。早速身の回りの整理をしなくては。あら、でも私が居なくなったらこの書類を捌くのが大変になっちゃうわ。
 その想いが表情に出ていたのか父親は私の頭を優しくポンポンしてくださいました。


「その男は書類仕事が得意だ。」


 父親よ。それはその方にも書類捌きをさせると言うことですね。というか婿に来てくださるの決定ですか。
 

「で、いつまで此処にいるんだ。目的は終えただろ?」
「あ、いや、あの。」
「後程、応接室で侯爵様を交えて話しましょうね。」


 父親が諌めるように目を細めベルジュを見れば、やっと自分がどこで何をしてしまったのか理解したらしく顔を青ざめさせている。エプロンドレスの少女は頭にハテナを浮かべてベルジュの服に皺を作り引っ張っている。どうやら状況をわかっていないようである。


 そもそもこの国は民主化されているため王政ではなく政事は選ばれた平民によって執り行われている。王族はその政事に口を挟まないが、国の顔として国際の対応をしている立場です。双璧として国を支えている我々に本来ならばベルジュの様な態度は許されることでは無いのですが、私の婚約者と言うことで後の王族と判断されていたのです。
 なので、今後彼は今までの様な態度はできないのですよ。

 私が机の上にあるベルを鳴らすとすぐに侍女が現れる。そしてベルジュの姿を視認した途端に先ほどまで華やかな笑みを浮かべていたのに一瞬で無表情へとなった。
 その変化にベルジュの頬がひきつる。


「彼と婚約解消することになったの。」
「!」
「悪いけど、オーランド侯爵様に連絡と彼らを応接室に案内してもらえる?」
「はいっ!すぐにでも。」


 侍女の無表情が崩れ、きらきらと輝き希望溢れる目付きになった。本当にすぐにでもオーランド侯爵をつれてきそうな勢いのため、仕事の関係上一時間後に応接室に集合とすると、侍女はベルジュと少女を応接室に監禁しときますね。と返事をして部屋から関係ない人々を連れて出て行った。
 彼女は優秀なので、問題も起こらないでしょうし私は書類捌きを再開する。父親もいつの間にかいなくなっていたので、おそらく隣国に連絡をしに行ったのだろう。



「そういえばあの少女は何だったんでしょう。」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子に婚約破棄され奈落に落とされた伯爵令嬢は、実は聖女で聖獣に溺愛され奈落を開拓することになりました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

わたくし、今から義妹の婚約者を奪いにいきますの。

みこと。
恋愛
義妹レジーナの策略によって顔に大火傷を負い、王太子との婚約が成らなかったクリスティナの元に、一匹の黒ヘビが訪れる。 「オレと契約したら、アンタの姿を元に戻してやる。その代わり、アンタの魂はオレのものだ」 クリスティナはヘビの言葉に頷いた。 いま、王太子の婚約相手は義妹のレジーナ。しかしクリスティナには、どうしても王太子妃になりたい理由があった。 ヘビとの契約で肌が治ったクリスティナは、義妹の婚約相手を誘惑するため、完璧に装いを整えて夜会に乗り込む。 「わたくし、今から義妹の婚約者を奪いにいきますわ!!」 クリスティナの思惑は成功するのか。凡愚と噂の王太子は、一体誰に味方するのか。レジーナの罪は裁かれるのか。 そしてクリスティナの魂は、どうなるの? 全7話完結、ちょっぴりダークなファンタジーをお楽しみください。 ※同タイトルを他サイトにも掲載しています。

一度目は悪役令嬢、二度目は鍼灸師、三度目はもう一度悪役令嬢、今度は聖女に陥れられたりしません。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 マクリントック公爵家の令嬢アイリスは三度目の人生を歩んでいた。一度目は聖女ゾーイの陥れられ、婚約者のネイサン王太子に斬り殺される悲惨な人生だった。二度目の人生は、遥か未来の異国に生まれ、鍼灸師と幸せな生涯だった。三度目は、一度目と同じマクリントック公爵家の令嬢アイリスとして生を受けた。二度目の知識の影響か、秘孔術という天与のギフトを得たアイリスは、前前世の轍を踏まないように備えるのであった。

男爵家四姉妹は婚約破棄され、侯爵家に領地を侵攻され、追放されてしまった。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 バーリー男爵家は強欲な侯爵家に目をつけられてしまった。領地を狙われ、年長の四姉妹は婚約破棄され、世継ぎの末弟は暗殺されそうになった。ついには五万の大軍に攻め込まれることになった。

婚約破棄されましたが、

太もやし
恋愛
私、伯爵令嬢のマリー・ブラウンフィールドは、婚約者から婚約破棄されました。 婚約を破棄されるとき、公衆の面前で罵られる私は婚約破棄がショックすぎて、ぼうっとしていました。 すると学校で有名な氷の貴公子が私たちのそばにきて、元婚約者に怒りました。 氷の貴公子と呼ばれた彼と私の馴れ初めのお話です。

婚約破棄の報いを与えたら、母にお仕置きされました。

王加王非
恋愛
あらすじ: 公爵令嬢マリアはパーティー会場で婚約破棄を言い渡される。 それは2つの世界が滅びるきっかけとなった。 ※「小説家になろう」様にも投稿しております。

婚約破棄で落ちる者

志位斗 茂家波
ファンタジー
本日、どうやら私は婚約破棄されたようです、 王子には取りまきと、その愛するとか言う令嬢が。 けれども、本当に救いようのない方たちですね…‥‥自ら落ちてくれるとはね。 これは、婚約破棄の場を冷ややかに観察し、そしてその醜さを見た令嬢の話である。 ――――――― ちょっと息抜きに書いてみた婚約破棄物。 テンプレみたいなものですけど、ほぼヒロインも主人公も空気のような感じです。

悪役令嬢は小説を書いて稼ぎたい!!

csilacpass
恋愛
例によって婚約破棄された悪役令嬢は小説家として稼ぐことを目指すのだった

処理中です...