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霊峰と深緑の山
新緑のツクバネ 受付
しおりを挟む雪山から数日、わりかし早く一年中豊かな新緑の山、ツクバネに着いた。噂の通り一年を通して緑深く季節外れの花が咲くこともある。温泉も近くにあるようで観光としても人気の場所である。
冬でも雪がふることはなく、動物も多く見られ食料が豊富ゆえか人を襲う事が無いという。ここで発生するモンスターも気性が穏やかで研究者が訪れて観察する姿が見られた。
「あ、ハイキングですか?今日は紅葉がきれいで特に銀杏が輝いていますよ。」
「こちらは規制とかは無いのか。」
「はい。料金さえ頂ければ。傾斜も穏やかで運が良ければ神獣と呼ばれている神々しい鹿にも会えますよ。」
こちらの受付ではニコニコと笑顔の女性が対応してくれた。
観光としても機能しているからか説明もその日のおすすめや探したくなるような物を教えてくれるなど商売上手だ。僕達は料金を払い説明を受けていた。
山の中に入るのも誓約書等はないようで遭難しても分かるように名簿を書くだけ。
周りにも観光客が多くフジネとは異なり装備も軽装だ。
「門は10時頃から18時頃まで開いています。3日戻らない方には捜索隊が出動しますよ。」
「へえ。」
「ああ。勿論申請とご寄附によりましては日にちを伸ばせますよ。」
「女神様からの使いなんだけど。」
「あはは。面白い冗談ですね。」
他にいる観光客に知られるわけにはいかずそっと書状を渡せば、笑いながら中身を確認して凍りついた。そして雪山でもあったように慌てた様子でお偉方に連絡を取りにむかう。周りからざわざわと興味があるような視線が送られてきた。
まあ、受付をしていた女性が慌てたように奥に引っ込めば誰しも何があったか気になるというもの。
暫く、好機の目でさらされていたら奥から糸目の宮司が現れた。
先頭には先程の受付嬢が歩いている。
僕達の眼の前に来た宮司はあの雪山の宮司に比べてどこか偉そうな感じがする。速急の旅路で草臥れた様子の僕達をまるで汚らわしい物を見るかの様な視線。
受付嬢から見せられた書状を流し読み、盛大な溜息がつかれた。
「たまに居るんですよね。神の使いだと言って料金を踏み倒す奴。」
「料金は払い済みだけど。」
「じゃあ、山を荒らしに?神の使いだと言って何をやっても良いと思われたら困ります。」
「そんな人も居るんだ。」
「ワタシは忙しいのですよ。からかいなら‥…。」
「チェンジお願い致します。」
人気の場所であるのは分かった。
よく料金をなんだかんだで誤魔化そうとする客もいるかも知れない。だからと言ってお使いを疑われるのは何かムカつく。
別の者に変わってもらおうかと受付嬢を見るとこちらは申し訳無さそうにしている。
「他の者は今は不在でして。」
「こんな偽物に何を言っているんだ。早く追い返せ。」
本当に帰ってやろうかと思ったが、それで困るのは山の神たちだ。
それにしても書状には特別な細工がされていて宮司程の者ならば見れば分かるはずなのだが、この眼の前のコノヤロウは本当に宮司なのか。
「おい!ケンキ!」
「これは、ノドグロ様。」
「本当にすみません。」
事もあろうに宮司は顔なじみの者が来たと同時にその場を離れて行ってしまった。
受付嬢から謝罪をされるもこの状況は彼女のせいではない。というか別に宮司に対応してもらわなくても大丈夫だとおもう。
「先程見せた通り、僕達はカトレア様の使いで来ていて、暫くこの山に滞在をする予定だ。3日では終わらないかもしれないから念のため目的を教えるために書状を出したんだ。」
「そうでしたか。」
「本来なら上の者が居たほうが楽だったから君の対応は問題ないよ。」
「有難うございます。では帰山日は一週間以内としておきます。」
「それで頼むね。」
宮司が顔なじみの客に何か袋を貰っているのを見て、密かに魔法をかけておいた。子供でも出来る簡単な錬金術の応用だ。
中身は何かは知らないけど開けたらびっくりするだろうな。
「では、こちらから山に登れますのでお通りください。」
「別の宮司が来たら先程の件は相談したほうが良いよ。」
「はい。」
僕達は受付を通り、山に踏み入った。
山は噂通り緑が眩しく辺りの木々には樹の実が生っていてそれを食べようと小動物が木登りしている。受付で話していたとおり、紅葉が起こっている場所もあり、イチョウの輝きはまさに黄金のようである。
傾斜も緩やかで初心者の山登りにはもってこいだろう。
そして、山に入ってすぐのところには何も無かったフジネと違い温泉宿まであり、観光に力を入れているのがわかる。
「これなら早く山神の元に行けそうだな。」
「そうだね。あと、原因の奴にも会えそうだ。」
こうしてツクバネの山登りが始まった。
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