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残り幾日かの狂騒曲

慟哭の情景

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 空には雷鳴が響き、雲が黒く日を覆う。
 今頃人々は混乱し新しき世界になるという喜びを知らずに不安を心に過ごしていることであろう。

 日木々から微かに漏れ入っていたこの森はまるで夜のように暗闇に覆われている。森に住む獣や魔獣は怯えて、巨大な体躯を持つこの森の主は空の向こうに見える世界に警戒しているようだ。

 未知なる存在に恐怖を抱くのは当然だ。
 ムラキ様に出逢った頃のオレは正にそのような気持ちだった。


 オレが産まれたのはこの場所から程遠くない魔族と人族の集落だった。
 そこで産まれる者達はとても良い、良質な魔力を持って産まれるのだ。彼らが放つ魔法はその良質な魔力に惹かれた妖精や魔素達でこんな辺鄙なところから世界中で引っ張りだこの魔法師が排出される。
 だが例外もいる。
 それが俺だ。

 両親はとある大国で魔法師として有名になった奴らだったと聞いたがその子供は魔法の使えない子だったと言うことだ。母親はオレが産まれた後に産後の調子が悪く死んだと聞かされたが、本当はオレに魔法の才能が無いとわかりショックで死んだのだ。

 父は表面ではいい親のフリをしていたが影ではオレを恨んでいた。最愛の人を奪われたのだそれも当然だ。

 小さい頃は意味もわからず周りからの好奇の視線の意味を知らなかったが、一度父親が酒を飲みすぎたときに教えてくれた。オレは数千年に一人のゴミカスだと。
 翌日父親の記憶は無かったけどあの日からオレは周りの視線の意味を知った。

 魔法の練習をしても上手くならないわけだ。

 この身体には魔法の排出する機能がないのだとか。いくら魔力があっても、どれだけが鋭くても意味が無かった。そのまま果物や野菜を売りながら無気力に生きてきたオレの前にあの方が現れたのは丁度数年前。

 土竜のようなモンスターに襲われていた時だ。
 もう駄目だと思ったときに呪文も技の名前もなく不思議な札を飛ばしてモンスターを燃え上がらせた。


 老人の様に白い髪に日に光る眼鏡、胡散臭そうな笑みを携えたその男は周りが下卑するオレの手を引いて助け起こしてくれた。
 男、ムラキ様は不思議な技を使ってモンスターや魔獣を倒しながら行商をしているらしい。もともと別の世界の住人らしく来てしまった世界で大切な人を探しているらしい。

 オレはその大切な人の話よりも不思議な技の方に惹かれてしまった。
 何せ魔力を少しも感じなかったのだ。ムラキ様は優しく身の上話を聞いてくれてならばと札を数枚渡してくれる。試しに札を投げ教わった特定の言葉を発すると目の前のは火に包まれた。初めて魔法を使ったかのような高揚感が襲う。

何と美しいのだろうか。

 炎の奥から声が聞こえた様な気がしたが気のせいだろう。

 オレはそれからムラキ様の元で働き始めた。
 この魔力を感知する能力はとても素晴らしいのだという。ムラキ様が本気で隠れられるとわからないが特訓でモンスターの居場所などを分かるようになってきた。更にムラキ様の特別な術を学び簡単なものなら札と術名で発動出来るようになった。将来は札だけで使えるようになりたいところだ。


 世界を周り、ムラキ様はもう一つの世界のことと探し人についてよく話してくれる。

 もう一つの世界では基本魔法は使えない。だけども鉄の塊を空に飛ばせるし魔法を使わなくても巨大な戦争は起こる。ムラキ様の一族は不思議な力を使える人達の一派でここで言う王の背後で世界を調律しているのだとか。

 探し人も不思議な力を持っているのでこの世界に居ても心配はしていないと言っていた。自らよりも強い人でだけど誰よりも壊れやすい愛しい愛しい人だと。

 一度だけ、魔道具に浮かび上がる青いその方をみたことがあるがとても奇麗な少女だった。確かにこれならば心配であろう。でもこんな可憐な少女がムラキ様より強いなんて想像がつかなかった。


 とある日、ムラキ様は言った2つの世界を繋げようと。
 この世界の神に邪魔はされるだろうが魔法を使えないオレでも向こうの世界では普通なのだ。世界が交われば行くことが出来る。

 魔法を使えないオレは普通になれるのだ。

 ムラキ様が頷いた気がした。

 オレの能力で数か所の魔力の濃い場所を探し出す。その中でも要のこのグランドオールは中で最も良い奴にこの石を飲ませなくてはならなかった。そこでオレ自身が森に赴かなくてはならない。まあ、手下を餌にしながら飲ませれば良いと思って結局はこのざまだ。

 どうせなら一度だけでも向こうの世界に行ってみたかったものだ。



 グランドオールの森で漆黒の獣はため息を漏らしてゆっくりと迫る向こうの世界に想いを馳せた。
 その背後には沢山の骨が積み重なっている。まるで迫りくる世界に飛び込むためのバベルの塔のように。




世界が交わるまで 残り5日









 
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