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海の国と泡と消えゆく想い

僕と別れ、消えゆく思い

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「お帰りになるのですね。」



 荷物を纏めて港町の出口まで来た僕達はバルスさんにウォルターを呼びに行かせて待っているところだ。ウォルターは勝手についてきただけだから置いていっても良いのだけど良心の塊であるバルスさんがどうしてもと言っていたので待っておいてやっているのだ。
 その間に何処からか聞いてきたのかアクアやフェンを始め顔見知りになったメンバーが声をかけてくれた。


「それにしてもアクアは良かったね。憧れの陸地を自由にこれてどうだい?」
「そうですね、嬉しいです。ですが、フェンが困難があっても私と共に有りたいという気持ちのほうが嬉しかったりします。」
「わお。惚気かい。」
「うふふ。」


ちなみにイリヤはこの度の騒ぎの原因としてラメール家の一室に軟禁されているそうだ。今までと同じじゃないかなんて思わないほうが良い。なんていったって彼女の仮病はバレているし、なにより会場で僕が適当に『禁断の果実』の効力で病気は治ったと宣言してしまったし本人もそれを否定はしなかったしね。神の果実を口にして効力が無いとなると困るのは加護を貰っている国である。イリヤはこれから病気になることはよく思われなくなってしまっている。神の果実を口にしてその効力が失ってしまっても奇跡は残り続ける。

 イリヤの周りの者が彼女の様子をずっと見ていることだろう。


「イリヤは大切な妹だけど、なんかスッキリしたの。」
「そう。」
「今までは弱い妹の為に私は我慢しないとと思っていたけど、フェンが教えてくれた。私は私らしく生きて良いって。」


 晴れやかに笑う彼女がとても眩しい。
 今まで我慢した分いっぱい楽しんでくれたら良い。


「そうだ。本当は結婚記念にでも与えるように伝えたのだけど見送りに来てくれたから教えとくね。」
「何かしら。」
「海沿いに家が出来るからプレゼント。」
「うええ!」
「き、聞いてない。」


うん。言ってないもの。
 将来子供が出来てその性質が受け継げば良いけどどちらかによってしまった場合、また悩んでしまうだろう。そこで、部屋の中で海につながる家をラメール夫妻と相談して作ってもらっているのだ。何気にクローデット商会のフェンの父親も乗り気で色々と準備をしてくれている。


 将来似たような境遇の者たちが参考になるようにしっかりと造らせてもらった。


「それと例の魔法のレシピとアクセサリーについてはもっと検証してからアシュレイ商会との共同で売り出そうと考えているよ。」
「ああ。こちらは申し分ない。」


 あの水中行動できる魔法はアクセサリーとセットで一つにしようと考えている。魔力がつづかないなら供給をすればいい。アクセサリーに周囲の魔素を魔力への転換する仕組みを設ける。それならもしもアクセサリーが外されても暫くは自分の魔力で水中で行動できるのでその間に陸地に戻ってもらえば良いと考えたのだ。

 アクセサリーの材料に必要な素材はクローデット商会でしか取り扱っていなかったので共同でと申し込んだ訳である。


「お待たせしました。」
「おまちどう。」


 雑談をしているとバルスさん達が戻ってきた。
 その後ろにはポリプスさんの姿もあるので別れは済んでいるようだ。
 ポリプスさんは僕達に近寄って残念そうな顔をしている。


「あっという間で残念だ。」
「色々とお世話になりました。」
「気を付けるんだよ。」


 多くは語らなかったが彼女とはまた会える気がするのでこれぐらいで良いだろう。そろそろ出発をしないと日が暮れるまでに休憩所に付かなくなってしまう。

 最後に改めて皆にお礼を行ったあと、各々荷物を持ち港町を後にした。ムラキと関わりを持つのは得策では無いとは今でも思っているがあの石に込められた物をみてしまうと嫌な予感しかしない。

 早く帰らないと。








 シンリ達が帰路についた頃、とある場所にあのときの女性が来ていた。
 その目の前にはラメール夫妻を襲ったの男達が倒れている。侵略者として海の国で裁きを受けることになった彼らは魔法薬も切れ呼吸が出来なくなるので浅瀬にある牢獄に連れて来られたのだ。だが身体は長時間の海水に浸かっていた事によりふやけて見るも無惨な姿である。

 意識はあるようでその苦しみに呻いていた。


「石は取り返したか?」


 女の質問に海風に晒されて喉を駄目にしたのか首を振って返事をする。
 女は舌打ちをしたあと、彼らを助ける事なくその場を後にしようとした。唸る声が激しくなる。
 ふと、足を止めた彼女が振り向いたと思ったら手を一閃させる。彼らの喉から血飛沫があがった。もしも、治療され自分たちの事を知られる事を避けたのだ。 

 血飛沫は女の顔まで飛んできた。
 それを乱暴に拭い何もなかったかの様に歩きだす。


「それにしても‥…。」


 女がうっとりと呟いた。
 彼女が思い出すのは襲いかかってきたときの感情の無い冷たい瞳。人を殺すのをなんとも思っていない冷酷なその姿はまさにムラキ様が言っていたとおりである。

 色んな人と絡んでいるから甘くなったのではないかと危惧されていたが、そんなことはない。は話の通り冷酷な人だ。


「早く、ムラキ様の命を完遂させなくてはね。」


 うふふと笑う彼女の真っ赤な唇は歪に歪んでいる。そのまま彼女は何もない暗闇に消えて行くのだった。














______

 
 皆様いつもお読みいただき有難うございます。
今回の章はここで終わりです。
 
 少し休息を挟みまして、次はシンリの最後の記憶探し編になると思います。

 次回は7月の31から再開します。

 またよろしければ読みに来てください。


SHIN
 
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