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海の国と泡と消えゆく想い

僕と催し物

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 騒ぎがあったものの、その後は特に問題もなくすごしている。暫くの雑談等が行われた後に王が自らに注目させた。
 視線が彼に集まる中王様はウホンと咳払いをして声を張り上げる。


「一通り食事を楽しんだことと思う。ここでちょとしたイベントを行おう。」


 その言葉にザワザワ。
 宰相の様な魚人が頭を抱えて項垂れているのを見るに王の思いつきのようだ。人の制限時間がまだあるとはいえいまからイベントとは。
 案の定人間達に不安そうな人もちらほらいる。
 

「人間は僕達抜いて十人か。」
「まさかですけど魔法を使う気ですか?だめですよ。」
「えー。」
「これは持続系の魔法なんです。貴方の魔力量知ってますよね?」
「‥…50。」
「そうです。いくら消費量が少ない性質だとはいえ十人にもかけたら消費量は多くなります。優しすぎるんですよアンタは。」


 珍しくバルスさんがキレてらっしゃる。
  ひそひそ話であったが側にいるウォルターにも聞こえている様で苦笑いをされている。僕が悪いのか。別に優しくはないと思う。これも実験のためだと思うし兄上と血の契約を結んでいるから魔力も心配しなくても大丈夫だと判断したのだ。
 確かにバルスさんは僕達3人に一括で魔法をかけようとしたときから渋っていた。その時はどうにか掛けてしまったのだけど。


「血の契約での魔力譲渡については距離がまだ不明なのです。万が一を考えください。」
「分かったよ。バルスさんには弱いんだよな。」



 記憶が戻ってからの付き合いで何かと気にかけてくれるバルスさん。兄上も気に入っているようだしそんな彼がこまった様な顔をしているとなんか悪者になったような気がしてしまう。
 やれやれと人間達に魔法をかけるのを諦めた僕は成り行きを見守ることにする。


「なあに、そんなに長い時間はかけんよ。」


 人間達の思いを読み取ったかのようにそう言って王様は話をつづける。


「せっかくの加護が持たされた喜ばしき日のなので希望者で歌を競ってもらおう。勿論賞品も出す。可能な限りの願いを叶えるのはどうだろうか。」



 一国の王ができる限りの願いを叶えるというのは破格の待遇である。種族や性別についても言われていないので誰でも参加が出来ると言うことだろう。
 王様の言葉にそれならばと参加を表明する者たちがちらほら。流石は船を沈めるとまで言われる人魚達の参加は多い。
 そこにはアクアの姿もあった。
 決意をしたらしい凛とした一輪の花のような姿はとても美しい。


 総勢数十人の参加が表明された所で王はどこにでもある貝殻を会場の全ての者に渡す。参加した者たちが全て歌い終わってから良かった人にその貝を投票する形式にするようだ。確かにそれなら一々止めなくて良いので時間は短くて済みそうだ。

 さて、早速一人目が歌い始めようとした。
 ステージなんてものがないのでその場で歌う事になる。
 そんなときに会場の扉が思いっきり開いた。
 そこにいたのは先程退場した筈のイリヤだった。イリヤは息を切らせて扉を潜り深呼吸をして整えたあとどこから聞いたのか王様に自分も参加すると言い出した。


「まあ、良いだろう。さあ、一番目の者よ中断させて悪かった。つづけよ。」
「あ、はい。」


 駆け込んで来るなんて凄く元気になったな。なんてイリヤの参加を他人事の様に思いながら、出鼻をくじかれた人魚のお姉さんが改めて歌い始める。
 人魚の歌は初めての聞くが魅了され船の舵を切り間違えるのがわかるほどに美しい。変に高音でも耳障りな怪奇音でもなくのんびりと聞いていたい声だ。
 終わると同時に短いながらの盛大な拍手が鳴り響く。


「素晴らしい。はじめからこのような歌が聞けるとは。だが余韻を楽しむには時間がないのは残念だが次も素晴らしい歌であろう。」


 次々と色んな人が歌ってゆく。
 上手い人もいれば味のある歌を歌う人魚もいる。人間の中にも人魚達が目をみはる歌唱力の少女もいた。

 そして次はいよいよアクアが指名された。

 アクアは緊張をしているのか震える手を押さえて呼吸を整える。フェンがそんな彼女の肩を抱き小さくハミングを口ずさむ。それはなにかの曲ではなく彼女を応援するように。

 そのヘンテコなハミングに彼女はくすりと笑うと息を吸い歌い出す。
 それは今までの人とは比べ物にならないほど澄んでいて会場内に響き出す。その曲は優しい子守唄。誰もが聞いたことのあるようなそれでいて初めて聞くような歌だ。
 それを聞いた者たちが嬉しそうに邪魔のならないように追走をしたり海ではその目元の涙がわからないが泣くものもいた。

 アクアの歌は色んな人に寄り添い包み込む素晴らしい歌だった。終わったあとには弾けんばかりの拍手に迎えられ、アクアが驚いてフェンに抱きついた。
 誰が見てもこの催し物の優勝は誰だがはっきりとしている。

 案の定アクアの後に控えていた者たちが両手を上げて棄権を示す中、一人だけ顔を真っ赤にして踏み止まる少女がいる。
 

「とても素晴らしかったぞアクア。お主のお陰で他のものはほぼ戦意喪失したようだ。次が最後となろう。イリヤだったな。歌いなさい。」


 王様に名前を呼ばれびくりと肩を揺らす少女。
 イリヤはブルブルと身体を震わせてそれでも自分のことを一番だと思い息を整えて歌い出す。
 あのアクアの異母妹だからとは興味津々の者たちが耳を傾けた。





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