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勇者という存在がもたらすもの

僕の勇者のお披露目会 後

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「何故に拒まれないと聞いているのだ。勇者以外が触ると電撃が走るのだぞ。」
「そうなんですね。それなのに触れると仰ったのですか。」
「い、痛いが触れぬわけでは無い。まさかお主にも勇者の血が入っているのか。」
「こいつは遠く離れた神の国の住民だ。囲っている勇者の血がここまで来るとは思えないが?」


 今にもこちらに向かって飛びかかってきそうなのを兄上が肩を引き寄せてかばってくれる。先程までは勇者の力を使いたいときはいつでもお声掛け下さいとにこやかにしていたのに。
 原因が僕なのだがあくまでも勧められたから剣に触れただけなのだ。それは周りで見ているもの達も証言してくれよう。

 顔を赤くして息を荒くしている王の元に宝石まみれで成金の様に見える男が近寄って落ち着かせていた。ちらりとラウルス侯爵に視線を向ければ頷くのが見えたので彼が勇者の骨で作られた楽器を流通させた公爵の様だ。

 赤茶の髪はそっくりだがその野心に溢れた目は翡翠色を呈している。視力が悪いのか片眼鏡を装着している。至るところに宝石が散りばめられていて趣味が悪いなと思いながら、王を落ち着かせてから耳打ちを何している公爵を見ていると公爵が笑顔を貼り付けながら挨拶をしてきた。


「まさか他国にも聖剣が持てる人が居るとは王も驚いたようです。あ、わたくしこの国の宰相も勤めますダウニー公爵です。」
(自分で公爵って名乗ったぞ。)
「もし宜しければこの剣が持てる理由を教えて頂いても?」


 ああ。目付きがなめっこい。
 欲しかった聖剣が手にはいるかもしれないとなれば目の色を変えてもその技術は欲しいらしい。


「こいつはとある神の加護を持っているからこの程度の阻害じゃ関係ないのさ。」
「コウラン様の『魔神の愛し子』からの加護には劣りますよ。」


 どちらも同じ『魔神の愛し子』だけどな。

 魔神の愛し子である僕らが魔神達が創った世界の物が拒むわけはない。聖剣も元は違う世界のものであったとしても修理し制約をつけたのはこの世界の者たちだ。兄上も触れる。


「その加護はどちらで受けたのですか。ワタクシたちも受けれますかね。」
「生まれたときから受けてるからな。神の国で加護を受ける人は多いから万が一もしかしたら受けれるかもしれないぞ。」

 
 なあ。と護衛の二人に尋ねると二人はコウにぃの言葉に同調するように頷き、更には勇者がもつ聖剣にも触れてみせた。そうすれば二人の手は火花と共に弾かれしまう。

 全員が望んで加護を得られないという僕たちの返答が気に入らなかったのかこめかみをピクリと反応させるダウニー公爵。


「僕たちも聞いてもいいですか?」
「どうぞ。」
「勇者ってなんのためにいるのですか?」
「な、何のために?」


 御伽ばなしの勇者では魔王がいてそれを倒して行く。はたまた世界の危機でその原因を取り除くために行動する。
 ではこの世界では?

 モンスターを倒すため?
 倒すだけなら冒険者でもいいじゃないか。
 悪の組織を壊滅させる?
 別に勇者に負担をかけなくても良いじゃん。

勇者という名が欲しいのはあくまでも国。平和を願うならまだしも勇者の名で脅すなんて許されない愚行だ。勇者という名称はあくまでも後に人々が敬いつける渾名の様なものだと認識している。それだけの偉業を成し遂げて初めて勇者という肩書を得れるのだ。


「僕はね。勿論グレイが現れたことは偶然じゃないとは思うよ。」


 コウにぃが開いた木細工の箱から白い鈴を手に取り彼等の目の前に突付けてリンっと鳴らす。その途端にキーンとした金属音の様な音が会場に響く。それで何人かが異変をかんじた様で立ち上がる。
 

「これはの骨?」
「何を言っているのですか。そもそも我々はそんなものっ」


 入れていないとでも言うつもりだったのかもしれないけど、納品時にラウルス侯爵家がいたことは報告に上がっているのだろう言葉が途切れてしまった。納品時にラウルス侯爵は中に変なものがある可能性を指摘してすべての箱状の物を開けさせたのだ。
 そして空であることはその場にいた他の人も確認済。
 中身を贈り物として持っていってもらおうとしていたとはいえ、その中身が骨だと言われてしまえばそんなものを用意したと思われるのはまずい。そしてとっさに出たのが先程の言葉だ。
 
 きゅると僕の瞳が変わり鈴の怨念が更によく見えるそれに伴いどんな苦しみがあって誰が憎いか訴えかけてくる。前世も今世もひとの怨念というものは慣れるものではない。


「オホン。芸術的でしょう?を加工したのです。お土産にと思いましてね。」
「流石は芸術の国ですね。芸が細かい。しかしこれルクタ・の骨だそうです。状態からして弟ですか?」
「はは。何を仰っているのか分かりませんな。」


 視えた名前を呟けば公爵は勿論王様も動揺を隠せずにソワソワしていた。明らかに人の名前が出てきて素晴らしい細工を見ていた他の招待客が箱を机にそっと戻す。箱を振って中身を確認している人もいてカラコロと入っていると分かるとやはり机においていた。


「僕の加護はこういうのを見極めるのが得意でして宜しかったら具現化しますよ。」


 フフと笑って祝詞をあげれば鈴から黒い靄が出て甲高い声でキーキーと喚いている。自分が何者でどんな目にあって世界が憎いと話すその存在にこの場にいる誰もが動きを止めた。というより止めざる得なかった。甲高い声は頭に響き例の症状を引き起こし気分が優れず座り込む人が出て来た。


「悪いけどこの人の縁を聖剣で断ち切って楽にしてあげて。」
「‥…コクリ。」


 僕も兄上も浄化することが出来るけどここはグレイの出番だと思った。グレイは頷くと聖剣を鈴に向かって一閃する。
 勇者の剣は綺麗に怨念と鈴を切り離し怨念が一掃されたようだ。静まり返る会場にワナワナと怒り心頭の王様。

 王様がガッと顔を上げると目が血走り恐ろしい顔になっている。そしてその手には誰かの頭蓋骨が握られていた。






 
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