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春の訪れと新入生
僕とアキンドさん
しおりを挟む神の国に帰ってきてすぐにヘタリーチェ伯爵の所に弟君を届けに行った。体調が回復した伯爵夫人が出迎えてくれて感動的な再会となっていた。その後に伯爵と病弱なお兄様の説教が待っているのだけどその姿を楽しむ前にギルドに向かった。
ギルドにはタリスさんが待っていて、僕達の姿を確認して嬉しそうに微笑んでくれた。ハーフエルフの笑顔はとても綺麗で心臓に悪い。
今回の出来事と残りの薬を買い取ってもらい、平民なら数年は贅沢出来る位のお金も頂いて、今は小部屋に通された。
タリスさんがアキさんの少し落ち込んでいる姿に事情を察して話し合える部屋を用意してくれたのだ。
鍵のかかる部屋に防音と認識阻害の魔法をかけて、お茶を用意された机に向かいあって座る。
しばしの沈黙が訪れた。
先に口を開いたのはアキさんだ。
僕達は彼が口を開くのを待っていたのだから当然ではある。
「私はドラゴニュートです。純粋ではなく半人前の。」
ドラゴニュート、竜人と呼ばれる種族でありその力は筋力、瞬発力共に人族より遥かに強い。見た目は竜の顔をしていたり鱗が体に生えていたりと見た目でもわかりやすいのだが、アキさんはそんな見た目はどこにもない。服の下にあったとしても身体を拭いたりするときに目立ちそうなのだが、そんな話など聞いたことはなかった。
更には戦闘を見ていてもそのドラゴニュート特有の力など無いように見える。でなければ僕もアキさんが何者かなんて察しがついたはずだ。
「私の両親はドラゴニュートの母とクォーターエルフの父なんです。タリスとはその父の繋がりでして。」
「へえ。」
「ドラゴニュートの力はほぼ受け継がれませんでした。この血の様な髪と頭に小さな角があるぐらいです。ドラゴニュートの里では擬物と呼ばれています。」
生まれた里でそんなふうに言われていたからアキさんは髪や頭を人前で隠すようになったのか。
フードを外し沈みゆく太陽の様な綺麗な色の髪やそこから確かにちょこんと見える翠色の結晶のような角。神秘的で僕は好きだけどな。
それでも気にしていたアキさんは里を出て行商人をしていた父と共に色んな地域を回り冒険者となったという。冒険者になってからはその剣術の才能が開花して更には精霊眼も持っていることが分かり、メキメキとギルド内で頭角を現してきたのだとか。
そのうちこの神の国で知り合いのタリスさんも居るため定住することに決めて、職を求めて王城に勤めた。
王城では髪や角について誰も何も言わないし、役職を貰うときも皇帝陛下は笑って受け止めてくれ一時の平和を楽しんでいた。
しかし、どこも子供っぽい奴らはいて、若いのに役職を得たアキさんをからかう貴族の奴らがいたらしい。らしいというのは今はシアさんや総団長が排除していないとか。まあ、その貴族のボンボンがアキさんの髪や角を馬鹿にして権力を使って色々と口に出来ない事もしたようでまた髪や角をフードに隠す様になったのだと。
僕は目の前に晒された髪に手を這わす。ふわさらな髪が屋内灯に照らされてキラキラとしている。小さい角を触ると擽ったいのか身じろぐが振り払おうとはしない。
「前も言ったけど夕髪は陽の様で綺麗だよ。角は宝石みたいでなんか僕の大好きな若葉みたいだよ。」
「本当ですか。気持ち悪くありません?」
「勿論。馬鹿にするやつは僕も懲らしめてやる。ね、兄上。」
「ああ。優秀な人材を失うことになったかもしれない原因は懲らしめないとな。」
「もういませんよ。」
「なら隠しておく必要は無いだろ。」
兄上もアキさんの髪に触り珍しくふわりと笑う。どうやら手触りと色が気に入った様だ。アキさんと出会ってもう何年も経つのに初めて知ったその姿に満足気なご様子。腐の付くお方達には好評な状態だろうな。後で皇帝妃様にお知らせしよう。
後日その事で呼び出された僕はなんか皇帝妃から色々と褒美を貰った事を記憶しておく。
アキさんの胸のつかかりが取れたようでお茶のおかわりを持ってきたタリスさんもアキさんの様子にほっとしているようだ。どうやら周りでも何度も話していたようだが、頑なに否定していたようだ。僕やコウにぃだからこそ受け入れたのじゃないかと言っていた。そんな力は僕は無いのだけど。
それからは王城に遊びに行ったときや冒険者の先輩として同行してくれるときなどフードなどがない姿でたた目撃されているアキさん。
「所で、あの謎の集団なんですけど。」
「なに?」
「どうやら至るところで何かをしているようですよ。」
「へえ。」
アキさんとシアさんの手合わせを見学に来ていた僕にウォルターがそんなことを言ってきた。こいつがそう言っていると言うことはそういうことなのだろう。確かに魔法でなく札で術を使っている集団。しかも魔力などの残り香もしない集団なんて目立つにきまっている。
調べてくれとは言っていないがわざわざ報告してくるくらいには世間を騒がせているのだろう。
魔法が使えない者が札で魔法が使えるなんてのめり込むのもわかる。だが、普通は代償のない術式なんてあるわけ無いだろう。言っては何だが僕は『魔神の愛し子』であるからリスクは無に等しいが、本来なら他人が気軽に使える札何て代物はとんでもない物である。ムラキは何を考えているのだろうか。
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