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春の訪れと新入生

僕と特殊依頼

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 アキさんがタリスさんの作った依頼書を広げる。
 依頼書には秘境の花とかかれていて詳しくは載っていない。
 それは特殊な依頼だからだそうだ。特殊な依頼は内密に勧めてほしい事や色々とあるために詳しくは書かれない。しかし依頼で来ている証明としてこうした依頼書は渡されているのだとか。
 
もしも依頼の証明を頼まれた際はギルドのマークのある依頼書の前半部分を開示すれば良いため内容までは見せる人はいないそうだ。
 こうして特殊な依頼を受けることができるのだが、今回は更に長距離依頼も混ざっている。

 本来なら長距離依頼なら準備期間に数日設けて準備をしてもらってから出発が基本である。
 そういえば父様達に言えずにコウにぃまで連れて来ちゃったけどと心配を口に出せば、こういうときはギルドから連絡されると聞いて、後々の説教を覚悟しておこうとおもう。

 長距離の際の交通費は依頼人持ちが多いが準備の方は冒険者が用意することにしてある。それは費用の節約で準備が疎かにならないためだ。護衛とかならまだ自分の命もかかっているから出し渋らないが、人によってはギリギリでの依頼をしてくる。まあ、色々と有るんだなと覚えておこう。

 僕や兄上は今の立場が無くなり平民となったとしても稼ぐことは可能だ。もちろん悪どいことはしないよ。冒険者でも稼げるし、ちょっとした事業もやれるだろう。経済学とかは前世から兄上が何でいるから心配ないし。
 なので大抵の準備は問題ない。
 冒険者も依頼料と準備の割合で身の丈にあった依頼を選んでやれるという訳だ。


「皆さん、伯爵が起きそうだよ。」
「お父さん!」
「うっ‥…。」


 冒険者の心得みたいのはウォルターには退屈だった様で伯爵の様子を見てくれていた。その伯爵が意識を取り戻した様だ。

 少しうめき声を上げたあとに閉じられていた瞼が上がる。奥からは空の様に青い瞳が視点を定まらずキョロキョロとしていた。そのうち何度かパチパチとまばたきがされ弟君を視界に捉えた瞬間に驚愕した表情に変わって飛び起きた。

 それに驚いた弟君が転ばないように支えながら伯爵が警戒しないようにゆっくりと声をかける。


神の国フェーリス国の冒険者でシンリと言います。周りにいるのは仲間達です。」
「ふ、フェ‥…ーリス国?」
「ヘタリーチェ伯爵で合ってますね。」
「はい。なぜここにモンド、いや息子がいるのだ。」
「勝手についてきたんです。」


 この場所がどこであるかの把握もできているようなので、意識の感覚は大丈夫そうだ。
 それならばと、なぜ僕達がここにいるのかと、息子さんの愚行と奥様に時間が無いことと手に持つ花は使えないことなど今わかっていることを伝えた。

 そのことに花を握りつぶし新たな花を確保しようと身体を起こすがまだ疲労が残っているようで座り込んでしまう。
 ここがダンジョンでいうセーフティルー厶の様な場所だと説明をして花が生えている場所を聞く。
 するとあのモンスターと謎の軍団が争っている場所ではないか。
 まだ争っているかは分からないが、花が荒らされて居ないことを願う。

 
「僕達が取りに行きますのでこのウォルターと息子さんといてください。」
「君の様な子供に頼むとは不甲斐ない。」
「大丈夫です。なんたってこっちには魔王様とアキンドさんがいるんですから。」
「辺境伯爵子息もな。」


 その言葉に僕達の正体に察しがついたのか、ふははと笑って身体の力を抜いた。どうやら花の回収は任せて貰えるようだ。
 そう決まったら行動を移さなくては。
 もうすぐ夜の帳が降りてくる。先程も言ったがここはダンジョンのセーフティルームの様な所だと判断しているが獣の唸り声や怪しい雰囲気の森の姿に何時までも居たいとは思わない。

 さっさと退散するのが吉。

 採取は僕が隠密しながら行くとして兄上とアキさんはいざというときのために控えていてもらおう。

 
 例の場所にくるとモンスターと謎の集団の戦いは終わっていた。恐竜の様なモンスターが血塗れで地に伏せていて息を切らせながら謎の集団が刺さっている剣を抜いている。
 兄上が手でしばらく様子を見るぞと合図を出しているのを頷いて了承すると、謎の集団は何やら打ち合わせの様な物を始めた。

 要約するとこの森の主を探している。この獲物をおとりとして使おう。血を森中にばら撒くぞ。

 てな感じだった。この謎の集団のいう森の主に何をするかは分からないが不穏な空気があるのは否めない。止めるべきか?
 胸の奥のざわめきの警報がより強くなっていた。
 指示を仰ぐため兄上に確認すると首を振って、まずは花だという合図をもらう。
 まだ主を見つけていないなら時間はあるという判断だろう。分かったと合図をして花の行方を探す。
 花の形とかは実物を見たし、葉の形はタリスさんの用意した資料に乗っていた。

 と、そっとアキさんが指を指した先に黄色に輝く例の花があった。数は3本だけだがモンスターの血を避け謎の集団にも踏まれる事もなく健気に咲いている。鑑定で確認しても間違いないのでふまれる前に回収がしたいところだ。


(私がおとりになります。)


 アキさんがそう合図をして止めるまもなく移動してしまった。僕はため息をついたあと気配や呼吸を潜めてなるべく花の側に近寄る。糸を準備していつでも取れる体勢になるとアキさんの行動を待つことにした。


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