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春の訪れと新入生
僕とヘタリーチェ伯爵家
しおりを挟む事の始まりはヘタリーチェ伯爵夫人の病だった。
それまでは健康すぎると言っていいほど健康だった夫人。野原へ馬を走らせて一人で散策するほど元気な方だったのが、ある日とある地方に旅行に行った際に怪我をしてきた。
怪我と言ってもかすり傷程度のもので本人も気にしていなかったのだが、そのかすり傷が膿はじめてその傷口からどんどん体の方に何かが侵食してきたのだ。
それに伴い発熱や嘔吐等を繰り返す様になっていった。
すぐに呼ばれた医師が言うには傷口から何がが入り込み侵食していっているのだとか。
医師は夫人が行った旅行の行動歴を詳しく分析してとうとうとある寄生虫のせいだと判明した。この寄生虫は傷口から脳に向かって侵食して最終的には死に致しめるものだとまだ腕の段階なので切除すれば命は助かるかもしれないと告げられ、判断するのに一週間貰ったとか。一週間過ぎたら腕を切っても助けられない可能性が高いとの判断だ。
そんな時に旅行先の森にその寄生虫を殺す薬草があるのを知ったのだ。すぐに伯爵はその森に向かったのだが3日経っても音沙汰がない。焦れた弟が探しに行こうとし何処かから冒険者になると良いと聞いて突撃したのだという。
「母親のためですか。」
「だからと言ってあいつの行動はしてはいけないものでした。爵位をひけらかして行動するなどしてはいけないと教えてもらっていたのに。」
「夫人に残された時間は?」
「あと3日です。」
「シン。」
「多分アメーバ系だと思う。効果はあるかわからないけど腕を冷やして活動の低下させて時間を稼ごう。」
なんか嫌な予感がする。
森の話しを聞いたときの心の奥のざわめきが感じられた。こういう予感は当たるからな。
これからギルドに行くと言うなら僕達も一緒に行かせてもおう。
遠くで実は控えてたウォルターに合図を送って近くに来てもらうとアキさんをギルドで待ちあわせ出来るように伝言を頼んだ。
「クオラさん。冒険者に依頼を出したらどうですか。」
「依頼を出す?」
「そしたら僕達が依頼を受けます。すぐにその森に向かいます。」
「わかりました。」
このあとすぐにギルドに行った。
そこにはアキさんと事情を説明してくれたらしいウォルターが居た。そしてその脇にはあの時の少年がいた。謹慎していると言っていたがまたギルドに来ていたようだ。しかし昨日の様なギスギスした雰囲気はしていない。
タリスさんも受付の所に来ているようだがどことなく雰囲気は良い。
クオラさんが、慌てて少年の所に行って何やら説教をしている。まあ、謹慎中に抜け出せばそうか。
「事情は聞いているしこの少年から謝罪も受けました。依頼はグランドオールでの薬草採取です。」
「はい。僕達の初遠方依頼とさせていただきます。アキさんも突き合わせて悪いけど。」
「いえ、シンリ様のためなら。」
手続きとかはギルドの出来る職員さん達に任せて僕達は時間が無いのですぐさま出発する。
「準備はできてます。」
「有難うアキさん。」
「ここからグランドオールまでは早馬でも一日はかかります。」
「うん。ちょっとした裏道を使うから大丈夫。クオラさん夫人の問題の手を冷やしておいてね。」
「はい。医師の管理下の元で試してみます。」
荷物を最小限にして我々はウォルターの用意した馬に乗る。馬車は急ぐときには邪魔だからね。
今回のメンバーは僕と兄上とアキさんとウォルターの四人でさっさと終わらすつもりだ。本当はちゃんとした手順でやりたかったけどこの任務のタイムリミットは3日以内だ。
馬の脇腹を軽く蹴って馬を走らせる。
久々の乗馬だけどいい感じ。
「おい。」
「わかってる。だからウォルターを連れて来たんじゃないか。」
馬の蹄の音が城外に移動し誰も見ていない森の中へと移動する。しばらくして開けた場所になったら一旦行動をとめ皆が後ろに視線を向けた。
すると止まっていてしないはずの蹄の音が聞こえてきた。その音と共に現れたのはあのギルドを騒がせた少年、クオラの弟だった。
クオラと同じ色素の薄い茶髪に健康的な肌、新入生のはずだから年齢は8歳は超えているだろう。僕と同じぐらいだから10歳くらいか。何処からか連れてきたのか馬を乗りこなす姿はそれなりに見える。
意思の強い眼がこちらを見ている。
「ウォルター。」
「はい。さあ、戻りましょうか。」
「嫌だ。」
「足手まといしかならないんすよ。」
「ぼくの家の事だ。ぼくも行く。」
「新入生なら新入生のやることがあるだろ?」
「絶対に帰らないぞ。無理やり返したら一人で森に向う。」
それはめんどくさい。
ウォルターに見張らせても良いけど、あの場で誰にも悟られずに馬を用意した所を見るとまかれそうなんだよな。
それで一人で森に行って行き違いになったらまた騒ぎになるだろうしな。
でもこれから行くところは魔界と人間界の狭間に位置する広大な魔の森のグランドオールである。どのぐらいの強さのモンスターがいるのかはわからないが、嫌な予感はするんだよな。
「連れて行きましょう。」
「アキさん?」
「向こうで早くヘタリーチェ伯爵を見つけて押し付けましょう。」
それが一番か。
「分かった。今からワープを多用して移動するから酔うなよ。」
「馬さんも頑張ってね。」
兄上が術式を展開させる。
魔法を膨大な魔力でコントロールしづらいはずなのにこういった難しいやつは得意なんだよな。感覚でやれば良いんだなんて言われたことがあるけどやっぱりチートなのかな。
展開された魔法が目の前に陣を作る。ワープは位置関係の理解が必要な魔法だけどどこまで飛ぶかね。
ワープの陣を5人で一斉に越えた。
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