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精霊たちの秋祭り

僕と探し人

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「それで、どういった用事ですか。受付嬢から聞いた話だと探しものしか分から無かったのですが。」


 流石に王族が来ているとわかった以上、書類片手に話しを聞くなんて野暮なことはしないようだ。
 ソファーに座るように促されて二人で隣合わせに座ると、気を取り直した副ギルマスがお茶を用意してくれた。

 向かい合わせになるように反対のソファーにどしりと座りこちらの意図を読み解こうと質問をしてきた。
 探しものと言えば探しものだけど。
 お茶を一口飲み口の中を湿らせる。


「とある冒険者を探しています。」
「冒険者?」
「最近、赤子を拾った冒険者はいませんか。」


 赤子を拾ったと言うワードに顔をしかめる。
 まあ、この話しを持ちかけた所でなんとなく事態を把握したようなので要点だけでも話は進むかな。
 

「それはこちらが盗んだのですかね。」
「それを含めて調べるよう頼まれまして。」


 今の想像では盗んだというより保護したと言う感じではないかと思っている。

 少し、考えている素振りのギルマスが副ギルマスを側に呼びヒソヒソと何やら話している。その口の動きを見ていたコウにぃが耳元で囁いてくる。


(どうやら、心当たりあるみたいだぞ。)
「それは、最近で間違いありませんか。」
「そう伺ってます。」
「赤子を拾ったと言う話は30年前と5年前だけだ。後は私達の耳には入ってきていないな。」
「30年前と5年前ですか。念の為にその冒険者の名前を教えて下さい。」


 最近と言うにはだいぶ離れている出来事だ。
 それでもなにかの手がかりになるかもしれないから名前だけは聞いて訪ねて見るのも良いかも知れない。

 ギルマスが、手を上げると副ギルマスはため息をついて部屋から出ていく。


「今、当時の資料を持ってきて貰う。言っておくがちゃんと赤子を拾ったと申し出てくれている者はいいやつだぞ。むしろ攫ったやつは黙っている。」
「それは想像つきます。今回はきっと申し出る様な人なのではと想像しているのです。」
「ほう。」


 森にひとり放置された子を連れて行くのは結構勇気がいる。悪どい奴が売り飛ばすのに連れて行ったのなら、働けない赤子よりも成長した子供の方が良いだろう。
  勿論絶対かと言われたら否と答えるが、今回はこれであっていると予感がざわめいている。

 副ギルマスが戻るまでに沈黙が流れる。
 お茶は温くなってしまったが、時間の経過を誤魔化す為にチミチミと飲んでいると、ギルマスが深刻な顔つきで声をだす。
  その姿は重大な事に思い立ったかのよう。


「その調査を依頼したのはどこの国だ。」


 なるほど、依頼主によっては国際問題だもんね。しかも調査しに来ているのは王族とその王族と仲の良い辺境伯子息ときた。

 善意での誘拐とはいえ最悪は戦争のきっかけになりかねないと思っているのだろう。
 何と答えるのがいいだろうか。ちらりと兄上に伺いを立てれば、お茶を飲むふりをして許可の合図。


「精霊族の赤子だ。」
「なっ、もっと大変な事案じゃないか。」
「大丈夫。恐らくどうにかなるから。」


 以前も話になったが精霊と魔素が魔法の根源であると言うことは、大体のものが知っているものだ。魔法を使う過程で精霊魔法と元素魔法に別れることがある。それの違いがその2つなのだが、勿論2つの要素のいいところどりするものもいる。
 そんな状態でもしも精霊が反発したのなら魔法の暴走につながるだろう。それに、精霊の加護で大地が豊かになっている所では目にも当てられない事になるはずだ。

 今回は僕達が動くのだからそんなことにはさせないが。


「その話はタリスには言わないようにしてくれ。」
「エルフだからですか?」
「そうだ。」


 エルフという種族は精霊と共に生きる種族だ。魔力を魔素に捧げるのを苦手とし、精霊魔法を使うものが多いのだ。きっと彼もそうなのだろう。
 そのため、エルフ族は精霊を神聖視する。その子供が人間にかどわかされたなんて聞いたのなら取り乱す未来しか見えない。


「わかった。」
「彼奴の落ち込む姿は見たくないからな。」
「見た目に反して優しいな。」 
「余計なお世話だ。」
「お待たせしました。」


  コンコンコンとノックの後にガチャリとドアが開き、2冊の冊子を持ってきた副ギルマスが入ってきた。

 冊子は古い色合いのものと新しめのものがそれぞれ一冊ずつで、月日の流れが分かる存在だ。目の前に置かれたそれをさっと目を通して、兄上にも渡す。大切に保管されているようなので借りれることは無いと判断した。
 兄上に読ませておけばほぼ内容は写す必要もないチート頭脳だ。
 


  2冊の内容の要点はこうだ。

 5年前 冬

 街郊外の草原に赤子が放置されていた。
 近くにモンスターのゴブリンの巣があり、妙齢の女性の遺体があったため、恐らく親は死亡していると思われる。
 赤子は冒険者の生活環境から孤児院預かりとする。

 冒険者 アイリーン


30年前 秋

 街郊外の森に赤子が放置されていた。
 周囲には親らしき人物は無し、赤子の状態が悪く即座に病院にかけこんだ。
 親らしきものの問い合わせが無いため、冒険者の希望もあり冒険者の養子となる。

冒険者 ダリオ

 
とそんな感じだ。

 年代的に最近ではないので違うと思うが、名前や特徴といったものがないので父上が教えてくれた内容からは判断つかない、実際合えば分かるだろう。


「うん。このダリオに会ってみよう。」
「30年前ですよ。」
「似たような状況の様なので。」


 ダリオの家の場所などを聞くと直ぐに登録表を出してきて家の場所を教えてくれる。それにお礼を伝えると、ソファーから腰を上げる。

 僕達の正体を知ってもあまり態度が変わらないここのギルマスは目をかけておく事にする。


「情報有難うね。冒険者になるときはまたお話ししようね。」
「お待ちしております。」




 




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