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記憶を求めて奥底に

僕と僕(前世)の交わり

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 矢が放たれて、向かう先のウォルターの名を呼べば、心得たとばかりに大剣を目の前に立てて矢をガードする。
 矢は大剣の刃に拒まれ地面にバラバラと落ちてゆく、だけどこれは目眩ましの攻撃だ。本当の目的は相手の懐に入る事。スピードタイプは前も変わらずといったところだ。まあ、剣を使うあたりバランス型に近いかもしれないけど。

 姿勢を低くして相手が気が付いたら目の前に現れて、背にある刀を一閃。
 あちらの僕は暗器ではなく王道の攻撃の仕方だ。確かに一時期はこちらの姿が常だったからな。観察していると暗器も腰に隠してあるはずだけどあえて使わないのか。
 変に攻撃されるよりはあしらい易いからウォルターはラッキーだな。



「スピードは本物の方が速い。パワーは年齢の関係か偽物が強そうだ。」
「偽物ってある意味彼奴も僕ですよ。」
「いや、動きが全く違う。お前の動きは美しい。」
「いやいや、なんかフィルター入ってますよね。」
「‥…っ!雑談してないでフォロー頂戴よ。」
「「やだ。」」



 僕(前世)の攻撃をいなしては、また攻め込まれているウォルターが何か吠えているが、一撃入れるまでは放置しようと決めている。

 念の為こちらに攻撃が来ないように暗器を張り巡らせて結界代わりにしているが、どうやらヘイトはウォルターに向かっているようでこちらには見向きもしない。



『貴方では彼らを守れないよ。』
「奴等はオレが守るなんて言えないぐらい強いから。」
『当然です。』
「だけど学んだ事は見せる。」


 ガンッと大剣と刀が混じり合いお互い力を込め合い拮抗している。その拮抗を崩すべく大剣の重さを生かし押し切るように力を込めるウォルター。細身の剣でそれを支える僕(前世)は、その力を忌々しそうに刀を斜めにして力を逃がす。力を逃がすような行動に刃にそって大剣が地面に向かって滑る。

 そのまま大剣が地面にのめり込んでしまっては、ウォルターは負けるだろう。

だけど

 地面に当たる寸前で大剣はピタリと止まり、折り返すように僕(前世)の方に大剣を振り上げた。

 その戦闘の動きから未熟と判断しただろうウォルターの思いがけない一撃に僕(前世)は驚いた顔をして後に飛び退く。微かに掠った刃先は彼の髪の毛を数束地面に落とした。


『これは、少し甘く見ていたみたいだね。』


 いい感じだ。
 ウォルターとダンジョンを潜った最初と比べ、ちゃんと大剣を使。大剣に振り回される訳ではなく、この使いこなせているのは兄上の修行のお陰だろう。筋力、体力がついたことで余計な動作、剣の重さに遊ばれる事がなくなったのだ。
 もう少し鍛えれば普通の剣のように扱えるだろうよ。



 『なら、少し本気を出そうかな。』


 切られた髪が服に付いているのか手で払う動作をしたあと、略印、いわゆる両手で組む印ではなく片手で印を組む方法を使って自らが持つ刀に炎を纏わせた。略印は組成は早く組むことはできるが、威力は落ちるだから威力を上げるために武器にエンチャントみたいに使うのか。
 それは僕は考えた事が無かったな。

 これは魔力と違う力だからか魔力の感知には引っかからないし便利かも知れない。



「ハンドサインの様な物か。」
「確かに認識的に印ってそうかも。ああ、そうかだからにとってはあっているのかも。」
「あれも言霊ってことか。」
「そゆこと。」


 うん。これは研究しがいがあるな。たりしても対応できるというのは強みだ。

 刀に炎を纏わせた僕(前世)は早い攻撃を連続で繰り出す。受け流すのは簡単だが、連続でしかも火で炙られながら受けるのはスタミナが削られていく。

 集中力も切れてきたようで段々と斬撃が荒くなるウォルターにカウンターで蹴りを入れた僕(前世)。

 そのカウンターがバッチリ決まったウォルターが後方座り込む様に倒れて、お腹を抑えて咳き込んでいる。そこに、刀を振りかぶっているボスが迫る。

 ウォルターは目を閉じて最後の瞬間を待っているようだ。

 言ったでしょ?
 
  死なせるようなことはさせないって。


 キィン


 甲高い金属音をさせて僕の糸が刀を弾き出す。
 弾かれると同時に後に飛ぶ僕(前世)は流石だ。追撃が避けられてしまった。
 音がして目を見開いたウォルターがこっちを見ている様なのでニコリと微笑んでみた。



「まあ、一撃は食らわせたみたいだから許してあげる。あとは僕がやるよ。」



 シュルシュルと糸を触手の様に動かしながら、庇う様にウォルターの前に出る。
 何のことか分かってないウォルターに髪をヒラヒラさせてみたら、音にならない声であっと言ったようだ。

 
『貴女は彼等に気に入られているのにどうして。』
「何のことか分からないけど、僕はもう一人の僕、君を倒さないとならないんだ。」
「『助けはいるか?』」
「いらない。」


 僕の糸を警戒して弓を構える僕(前世)。
 疑問だらけの様な表情をして僕と宵月を見るからに、僕の記憶の欠片はどうやら宵月を知っているようだ。
 戦いの意思が変わらないと判断した彼は、一度顔を伏せて、その後決意したように弓を持つ手に力を込めて、まっすぐこちらを見つめた。

 そうこなくっちゃ。


 


 
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