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それではさよなら またいつか
しおりを挟むそれは突然の事だった。
その日は雨が降り、周辺は色とりどりの傘の花が咲いていた。それに伴って視界は狭まっていたのだろう。
赤信号に足を止めていると、反対の道から黄色い傘をさした少女が笑い声を上げて飛び出してきた。
少女と面影が似た女性はまだ気づいてはいない。
身体が思わず動いた。
後ろから声を掛けられたがそれどころじゃない。少女に迫るトラックが見えたから。
運転手からは少女が見えていないのだろうトラックのスピードは落ちていない。
少女に手が届いたとき、回避するには間に合わない距離だった。反射的に少女を押し出す様に行動すれば次に身体を襲ったのは大きな衝撃。
一瞬だけ意識がとんだものの自分の身体から響く、大きな音ですぐに気が付く。周りからの悲鳴と、かひゅっという何かから空気がもれる音がした。
身体が少し弾み、トラックの手前に飛ばされた。
運転手はパニックを起こしていて巨大な鉄の塊は止まらない。ふと視線の先には一緒に買い物に来ていた男と目線があった。思わず笑みを浮かべれば、驚いたように目を見開かれる。
── ぐちゃぁ
トラック身体の上を通ったのだが、どうやらまだ意識が有るようだ。本来感じる筈の痛みは既に脳が拒否しているのか感じない。身体を動かす事は出来ずただ、死に逝くのを待つだけ。
人混みから、男がゆっくりと近寄ってきた。
その男の姿を見て、内心微笑んでしまった。ゆっくりと俺の側まで来ると黙って見下ろしていた。
おいおい、もう少し慌ててくれてもいいだろ。
「……何勝手なことしてんだよ。」
わりぃな。それより女の子は?
「女の子は無事だよ。今は、母親のに抱き締められて泣いてる。」
良かった。
「良くねぇよ。オレを独りにしやがって。」
喋れないけど意識があるのが分かるのか、どことなく会話が出来ている気がする。もう既に表情も動かないのに良く分かるなと感心していると、雨とは違う暖かい滴が頬に当たる。
まだ、感覚が残っているのかただそう感じるだけなのか分からないが奴が泣くのはなかなか珍しいな。
ふふん、慰められないのは残念だが、良いものが見れた。冥土の土産としては最高だな。
そんな事を思っていたら段々と意識にノイズがはしりはじめた。どうやら俺の意識はそろそろ消えようとしているみたいだ。
奴が喋っているが何を言っているのか分からなくなってきているしな。走馬灯とやらは見れなかったが、むしろ良かった。大切な友人とお別れが出来たからな。
また来世で会えたら良いな。
と、意識が消えて次に目覚めるのは天国かと思っていたんだが、目の前には木木木木木。
謂わば森に俺は居るのだけど、どういうことですか?
トラックでぐちょぐちょの筈の身体はなんか綺麗になっているし、服はなんか青色の小綺麗な服に変わってるし、ナニコレ?さっきのは夢かしら。
いやいや、衝撃は凄かったし、もしかして実はここが天国?
……とりあえず考えててもしょうがないので身体をまさぐってみる事にする。もしかしたら、六文銭があるかもしれないし。
わしゃわしゃと手を動かしていると少し違和感を感じるが、それはあとで確認しよう。
わはー、すげぇ。事故の跡がないわ。むしろ肌がツルツル。
しばらく、わしゃわしゃしてたら何処からか瓶が転がり落ちた。
慌ててそれを拾うと『開けろ!』と紙が張ってある。まあ、危ないものでは無いと思うし、手がかりだろうから開けてみるしかないよね。
きゅぽん
良い音。
とか考えてたら、中から仙人みたいな長い髭のおっさんが現れた。
うん、魔法のランプの魔神みたいにもわもわじゃなくてきゅぽんって現れた。
おっさんは、即座に俺の身体にすがり付く。
俺にそんな趣味は無いよ。えっ、違うの?
「申し訳御座いませんんん!」
……すごく汚いげふんげふん。涙と涎でべしょべしょになっているおっさんに謝られました。
端からみたらすごい光景だろうな。
とりあえず、べしょべしょの顔を袖口でぬぐってやり綺麗にしてやる。あっ、鼻水ついた。こいつになびりつけよう。
「悪ノリが過ぎましてごめんなさいぃ!」
「いやいや、意味わかんないから。最初から説明してくれよ?」
今度は綺麗な形の五体投地を繰り出したおっさん。本当、意味が分からないよ。
ということで、おっさん(自己紹介で自称神様だと判明)による説明が始まった。
説明によりますと、どうやら俺が死ぬことは予想外の事であったらしい。
もちろん予想外の死というのはたまに起こることであり、対策もされているのだという。神の未来視は確実ではないのだそうだ。
予想外の死の場合、その死は無いこととされ時の神に時間を戻してもらい、損害も修復するというのだ。ただし、時の神な戻せるのは時間のみなのでそれ以外は他の神が戻すらしい。
そこら辺は世界の創世神の成せる技か。すげぇ。
今回の事故もいつもと同じような手際で戻す予定で、いつも通り時を戻してもらい辺りの損害を直し、俺の身体も綺麗にして人混みに戻す手はずであった。
しかし、現場の修復をしている最中僕の身体はへべれけに酔っぱらっている神様達(おっさん含む)に色々と改造されてしまったのだという。
いやいや、酔っぱらってる神様ってなによ?と思わず突っ込んだ俺は悪くない。
どうやら、時期は世間でいう神無月だった事も原因らしい。神様達が某地域で集まり、ひゃっはーと宴会をしていたらしく、そのテンションで弄られた僕の身体は神属性の機械になっているのだという。
詳しく聞くと、事故で両腕がぐちゃぐちゃだったため昔遊び半分で作ったヒヒイロカネとオリハルコン、ミスリルを混ぜた鉱石を腕の形に整形して繋げたり(肌がツルツルの訳が分かった!)、目が片方潰れかけていたから取りだし、これまた遊び半分で作った賢者の石を流れ出た物質の変わりに入れ眼腔に戻したり、さらには右膝下がちぎれていたから、仲の良い魔王(仲良いのかよ!)からもらった魔鉱石とオリハルコンをハイテンショのままに混ぜ新しい足を作ったのだという。
うん、ほぼ俺の身体は人間じゃないわ。
すこし、酔いが覚め始めた神々が最悪の状況に気付き始めたものの、その時は既に俺の身体は神の造りし機械に馴染み始めており、魂もこの身体を拒否することもなく受け入れたのだと言う。
この、やっちゃった感だらけの身体を元の世界には置いておけないよねぇと話し合い、それなら剣と魔法の異世界があったじゃん。そこに置こうぜ。と決まったのだとか。
ちなみに事故は、俺がいないままで無かった事にしたらしい。一緒にいた友人の記憶からも俺の存在を消したらしいが、甘いな。あいつは絶対俺を覚えてるぜ。
話を戻すがその後、俺への説明を誰がするよ。と誰かが気づき、改造したメンバーだしとそのときまだ半酔いだったおっさんが無理やり役目を押し付けられ瓶に入れられて俺ごと送られたのだという。
瓶の中でしばらくして正気を取り戻し、やってしまった行動を思い出せば思い出すほど罪悪感だらけになってしまい、そんな反省モードの最中に俺との再会。
まあ、それじゃあ、あの再会になるわな。
「うう、本当に申し訳御座いませんでした。」
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