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カペルを止める者は
しおりを挟む手を伸ばされれば捕まれそうな距離にいるカペルをじっと見据える。
口の中が緊張でからからになっている様に感じた。
誰もが動けない状態で時間だけがすすむ。
遠くの方ではアリアが先程の術の余波に煽られたのか気絶していた。
ということは意識を反らすにはわたくし達がやらないのいけないのですね。
「こう、近くで話すのは初めてですわね。」
「大体は邪魔が居たからね。ああ。本当に綺麗だぁ。」
「この際、どうせなら質問しますけど、なぜわたくしを殺さないのです?この距離なら一瞬でしょう。」
力の差なんて初めから分かっていたわ。
人の裏てバレないようにあんなに巧妙に隠せるのは頭が良いのとそれなりに力があるということ。
口調は馬鹿みたいなものだけど、アリアの異世界の話をすんなりと受け入れて、尚且つ利用のためにストーリーを組み立てるのはさすがと言うしかない。
そんな相手がただ、心休まるからとわたくしを欲っするなんて信じられないわ。
「殺すものか。魔王も言っていただろラスレア嬢の魂は極上だって。穢れをしらない綺麗な魂だって。」
「穢れを知らない?」
そんなわけないじゃないですか。
穢れなんて人なら誰だって持っているのもよ。
わたくしだって、アリアが現れてティグリスが彼女に惹かれて離れていくのをただ見ていた訳じゃないわ。
彼女が憎かったし、濁った感情を抱いていた。
でも彼が幸せならと感情に蓋をしていたの。
そんなわたくしが穢れなき魂?
「こんなにも嫉妬深いわたくしが穢れを知らない魂?」
「そうさ。どんなに嫉妬しようが、醜い感情を持とうがラスレア嬢の魂は変わらない。」
「ふふ。」
「こんな状況で笑うなんて、とうとう壊れたか?」
「いいえ。わたくしは大丈夫ですわよ。ただ、『偽善』という言葉を思い出していたのですわ。」
陛下は優し過ぎると命取りだなんて言ってましたけど、そんなことは無いのですよ。
裏では色々と渦巻いている。そう、裏では。
きっとわたくしの本性はその様なものなのです。表面だけが綺麗で中はどろどろ。
「まさに、わたくしが偽善者ですわよね。ティグリス?」
はっとして周りの者がカペルの背後に注目している。そこにはナイフのような小刀をカペルの背に刺しているティグリスの姿。
カペルはティグリスを子虫を払うかのように吹き飛ばしました。だけどその吹き飛ばされた先では父が待ち、受け止めて下さいます。弾かれた衝撃で咳き込みながらもわたくしに向かってにこり。
「魂まで鉄仮面なんだね。」
「な、なぜ。」
「アリアが教えてくれた。魔王を倒すのには僕とアリアの血だと。」
アリアはパーティーの時に言っていました。
わたくしと魔王が繋がりアリアを襲うと。そのストーリーのままでしたらその後にアリアを助ける存在が必要ですわ。
その存在が魔王を少なくとも退けられる力を持つ。
話の途中でゆっくりとティグリスが近いて来るのが見えました。手には赤く染まった得物。
思わず笑ってしまったのをどうにか誤魔化したりもしました。
カペルも思わなかったでしょうね。自分が駒にした者に攻撃を受けるなんて。
「な、何をした?」
「ゲームだとね。魔王をどうにかするのに聖女の血が必要なのよ。」
「はあ?お前みたいなのが聖女だと?…くっ。」
「魔王の体内に聖女の血が入り眠りにつくのよ!」
なるほど、内側から侵食していくということですね。
一度入れられてしまえば魔王、いえ、カペルもどうにも出来ないでしょう。
カペルの動きがだんだんとぎこちなくなってきた。
最後の足掻きだというようにわたくしの元に手を伸ばしてきましたが、わたくしはレオに引き寄せられてその手から逃げることに成功しました。
ああ。やっと終わります。
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