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別れと淡い想い
しおりを挟むあの町中の事件から数日がたち、明日には卒業式を控えている。
次期王妃教育から外されたわたくしはこれからの事を考えていた。というよりそれくらいしかやる事が無いのです。
あの日の出来事は平和だったこの国にとっては一大事であり、リーダー格の男にはきびしい取り調べがあったとか。
わたくしも一度だけ事情を聞かれたが、そもそも何故悪女なんて呼ばれていたのかさえも分からないのです。
しかも助かる事に大体の事情は仮面の男が説明してくれていたらしく大体の流れを話しただけですぐに解放された。
その際にあの時のリーダー格の男についてさえ何も説明されなかったのである。もしかしたら怖がると想っての考慮かもしれないが。
わたくしはその後、黒幕が捕らえられるまでは家に居なさいと、買い物の約束をしたことを気にしている母に言われてしまい、今日に至ったのです。
『姫さんに伝える事がある。』
部屋でのんびりと父の本棚から拝借した冒険者の心得という本を読んでいたとき、真剣な声でレオに呼ばれた。顔を向けるとわたくしは本を落とし慌ててレオの元に駆け寄る。そこには何時もより姿が薄いレオの姿があったのです。
ああ。とうとうこの日が来てしまったのですね。
『今日がこの姿で逢う最後になると思う。』
やはり、彼は消えてしまうのですね。
最近の彼は何やらそわそわとしていて、時おり考える姿が見えました。もしかしたらと思っておりましたが、レオあくまでも幽霊で、いずれは天に召されるというのは当然の流れです。
でも、こんな急になんて酷いわ。
わたくしは、あの町中の事件でレオを好きになってしまった事を自覚しました。切り捨てられると思った時に想ったのはレオだったのですの。
王子殿下の言葉で言うなれば真実の愛ということでしょうか。
「そうなのですね。寂しくなりますわ。」
でも、その事はわたくしの心に秘めておきましょう。伝えた所で未練を、残してしまわないように。それに、彼にはエルザ様という愛する方が、おりますので。
あら、そういえばエルザ様の事は区切りがついたのかしら。区切りがついたから消えるのよね。
まあ、レオが満足なら良いのですけど。
「わたくしは貴方と出会えて楽しかったですわ。王子殿下にフラれた時は貴方が居なかったら、おかしくなってしまったかも知れませんから。」
『姫さんは心が強いから大丈夫さ。』
「あら、失礼しちゃうわ。」
いつもと変わらない軽口をたたき合う。
でも、彼の身体はだいぶ薄くなってきていた。
「そういえば、あの日にレオに似た色のペンダントを買ったのですよ。」
『へぇ。くれる予定だったのか?惜しいことをしたな。』
「幽霊がつけれるわけないでしょう。わたくしが御守りとしてつけますので。でも、貴方が生きていたらプレゼントしていたわ。ライオンの形で貴方にピッタリだから。」
この日が来ることがなんとなく分かってしまったから、きっとあの日、あの時、あのペンダントを買ったのです。
心が折れそうなときあれを見て、励む御守りとして。
そう言ったわたくしの頭に優しい彼の手が伸びる。だけどその手がわたくしに触れられる事は無かった。
微かな光が辺りに浮き上がり蛍火の様に何も残さずに消えてしまったのです。
彼が消えたあとの空間にに手を這わせながら胸元に密かにつけているラピスラズリのネックレスを握る。
「心が強いなんて嘘ね。こんなにも苦しいもの。」
頬に冷たい感触を感じながらわたくしは彼の名を呟いた。
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