わたくしは貴方を本当に…

SHIN

文字の大きさ
上 下
7 / 34

買い物は危険がいっぱい (前)

しおりを挟む


 レオの様子がここの所おかしい。
 実際にそう感じたのは陛下が来訪した翌日だった。学園の屋上で出会ってからほぼ一緒に過ごしているのだけど、最近はわたくしの側を離れて数日帰って来なかった事もある。今も側には居ない。
 まあ、それが何と言われたら別に何でもないのですけど。

 前の生活に戻っただけだと言うのにそれが少し寂しかったりするのです。

 可笑しいですわね。大好きな王子殿下と何日も離れて、誕生日さえ物だけ贈られて放置された事もありますのに、その時は王子殿下の心配したのみで、こんなに寂しいと思ったことはなかったのですけど。

 はふうと本日何回目かもわからない溜め息をつけば、一緒に居た母に心配そうな目で見つめられてしまった。


「母との買い物はつまらないかしら?」 
「いえ、とても楽しいです。」


 そう、わたくしは今、約束通り母と買い物に来ているのです。こんなにため息ばっかは駄目ですわね。せっかくの久々の城下町での買い物なの。

 目の前に広がる様々なお店は、声を張り上げて客を取り合う。人々には笑顔が溢れて、こちらまで元気をもらえそう。これはちゃんと国が色々と整備して治安も良くしようと働いている証拠。
 こうして国が発展してくれるからこそ安心して買い物も出来るのよ。

 今の王に変わってからは特に稀にみるもので、他国からの評判も良い。

“僕は父上の様な笑顔を作れる王になるんだ。”

 小さな頃の王子殿下はいつもそんな夢を語ってくれてたわね。それがとても微笑ましかったのを覚えてるわ。ああ、懐かしい。

 思い出に浸りながら商店や出店を見ていると、キラリと光る青色の石をあつらった小物のお店を見つけた。別の店を見ていた母に断りを入れて、そのお店に足を向ける。

 遠目では青だけに見えたその石は、良く見ると金色が混じった派手さはないが、綺麗な石だった。
 石を見ていると側にいてくれたあの人を思い出して、クスリと自然と笑みが浮かんだ。


「お嬢さん、その石が気に入ったのかい?」


 小物を売っていたのは、結構なお年のお婆さんだった。お婆さんはしわしわな手で青色と金色の石の在庫小物を見せてくれる。
 わたくしはその中でも一際色が鮮やかな物を見つけて手に取った。

 それは、例の大きめの石をライオンの形にあしらった首飾りだった。


「わたくしの知り合いに似てますわ。」
「そうなのかい?」
「はい。ライオンレオーなんて特に。それにしても綺麗な石ですね。」
「そうだろ。その石はねラピスラズリという名でね。海や星、この世を閉じ込めてあるみたいだろ?幸運を運んでくれるよ。」


 うん、気に入った。
 

「これを頂いても?」
「似ているという知人に贈り物かい?」


 ふぇへへと笑う。お婆さんに返し笑いをして綺麗に包まれた品を受けとる。でもこれは渡されることのないプレゼント。


「見つけたぞ!この悪女め!」
「えっ。」


 母の元に戻ろうとしたら、いきなり剣を装備している男達に囲まれた。
 悪女呼ばわりしている男にはどこかで見たような気がする。でも、こんな目に会う理由など思い当たらない。
 そんな事よりもこの場をどうにかしないと。
 辺りが当然の出来事に悲鳴を上げてパニックになっている。

 こちらに来ようとしている母の姿も見えるが、逃げる人もいてなかなか身動きが取れないみたい。

 買ったばかりのプレゼントを胸元に抱き締めて、空いている手で魔法具を取り出す。でも、わたくしは…。


「人を巻き込むのか?さすが悪女だな。」


 この人、わたくしの事情を知っている。
 わたくしの魔法は範囲魔法。
 大勢を倒したり回りに人が居ないなら効果を発揮する。こんなところで発動したら。

 こちらの思いを知ってかリーダー格の男が剣を抜く。それに習って他の者もキラリと光る刀身を取り出す。
 その冷たい光に斬られるかも知れないと恐怖が襲い足が動かない。

 こんな時はどうするんだっけ?

 頭に浮かぶのはいつの間にか頼りにしていた人の顔。

 助けて“          ”────




「いたいけな女性を襲うお前達の方が悪だろ。」







  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚なんて無理だから初夜でゲロってやろうと思う

風巻ユウ
恋愛
TS転生した。男→公爵令嬢キリアネットに。気づけば結婚が迫っていた。男と結婚なんて嫌だ。そうだ初夜でゲロってやるぜ。 TS転生した。女→王子ヒュミエールに。そして気づいた。この世界が乙女ゲーム『ゴリラ令嬢の華麗なる王宮生活』だということに。ゴリラと結婚なんて嫌だ。そうだ初夜でゲロってやんよ。 思考が似通った二人の転生者が婚約した。 ふたりが再び出会う時、世界が変わる─────。 注意:すっごくゴリラです。

【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む

むとうみつき
恋愛
「お父様、どうかアラン王太子殿下との婚約を解消してください」 ローゼリアは、公爵である父にそう告げる。 「わたくしは王太子殿下に全く信頼されなくなってしまったのです」 その頃王太子のアランは、婚約者である公爵令嬢ローゼリアの悪事の証拠を見つけるため調査を始めた…。 初めての作品です。 どうぞよろしくお願いします。 本編12話、番外編3話、全15話で完結します。 カクヨムにも投稿しています。

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

全ては望んだ結末の為に

皐月乃 彩月
恋愛
ループする世界で、何度も何度も悲惨な目に遭う悪役令嬢。 愛しの婚約者や仲の良かった弟や友人達に裏切られ、彼女は絶望して壊れてしまった。 何故、自分がこんな目に遇わなければならないのか。 「貴方が私を殺し続けるなら、私も貴方を殺し続ける事にするわ」 壊れてしまったが故に、悪役令嬢はヒロインを殺し続ける事にした。 全ては望んだ結末を迎える為に── ※主人公が闇落ち?してます。 ※カクヨムやなろうでも連載しています作:皐月乃 彩月 

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

信用してほしければそれ相応の態度を取ってください

haru.
恋愛
突然、婚約者の側に見知らぬ令嬢が居るようになった。両者共に恋愛感情はない、そのような関係ではないと言う。 「訳があって一緒に居るだけなんだ。どうか信じてほしい」 「ではその事情をお聞かせください」 「それは……ちょっと言えないんだ」 信じてと言うだけで何も話してくれない婚約者。信じたいけど、何をどう信じたらいいの。 二人の行動は更にエスカレートして周囲は彼等を秘密の関係なのではと疑い、私も婚約者を信じられなくなっていく。

処理中です...