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買い物は危険がいっぱい (前)
しおりを挟むレオの様子がここの所おかしい。
実際にそう感じたのは陛下が来訪した翌日だった。学園の屋上で出会ってからほぼ一緒に過ごしているのだけど、最近はわたくしの側を離れて数日帰って来なかった事もある。今も側には居ない。
まあ、それが何と言われたら別に何でもないのですけど。
前の生活に戻っただけだと言うのにそれが少し寂しかったりするのです。
可笑しいですわね。大好きな王子殿下と何日も離れて、誕生日さえ物だけ贈られて放置された事もありますのに、その時は王子殿下の心配したのみで、こんなに寂しいと思ったことはなかったのですけど。
はふうと本日何回目かもわからない溜め息をつけば、一緒に居た母に心配そうな目で見つめられてしまった。
「母との買い物はつまらないかしら?」
「いえ、とても楽しいです。」
そう、わたくしは今、約束通り母と買い物に来ているのです。こんなにため息ばっかは駄目ですわね。せっかくの久々の城下町での買い物なの。
目の前に広がる様々なお店は、声を張り上げて客を取り合う。人々には笑顔が溢れて、こちらまで元気をもらえそう。これはちゃんと国が色々と整備して治安も良くしようと働いている証拠。
こうして国が発展してくれるからこそ安心して買い物も出来るのよ。
今の王に変わってからは特に稀にみるもので、他国からの評判も良い。
“僕は父上の様な笑顔を作れる王になるんだ。”
小さな頃の王子殿下はいつもそんな夢を語ってくれてたわね。それがとても微笑ましかったのを覚えてるわ。ああ、懐かしい。
思い出に浸りながら商店や出店を見ていると、キラリと光る青色の石をあつらった小物のお店を見つけた。別の店を見ていた母に断りを入れて、そのお店に足を向ける。
遠目では青だけに見えたその石は、良く見ると金色が混じった派手さはないが、綺麗な石だった。
石を見ていると側にいてくれたあの人を思い出して、クスリと自然と笑みが浮かんだ。
「お嬢さん、その石が気に入ったのかい?」
小物を売っていたのは、結構なお年のお婆さんだった。お婆さんはしわしわな手で青色と金色の石の在庫を見せてくれる。
わたくしはその中でも一際色が鮮やかな物を見つけて手に取った。
それは、例の大きめの石をライオンの形にあしらった首飾りだった。
「わたくしの知り合いに似てますわ。」
「そうなのかい?」
「はい。ライオンなんて特に。それにしても綺麗な石ですね。」
「そうだろ。その石はねラピスラズリという名でね。海や星、この世を閉じ込めてあるみたいだろ?幸運を運んでくれるよ。」
うん、気に入った。
「これを頂いても?」
「似ているという知人に贈り物かい?」
ふぇへへと笑う。お婆さんに返し笑いをして綺麗に包まれた品を受けとる。でもこれは渡されることのないプレゼント。
「見つけたぞ!この悪女め!」
「えっ。」
母の元に戻ろうとしたら、いきなり剣を装備している男達に囲まれた。
悪女呼ばわりしている男にはどこかで見たような気がする。でも、こんな目に会う理由など思い当たらない。
そんな事よりもこの場をどうにかしないと。
辺りが当然の出来事に悲鳴を上げてパニックになっている。
こちらに来ようとしている母の姿も見えるが、逃げる人もいてなかなか身動きが取れないみたい。
買ったばかりのプレゼントを胸元に抱き締めて、空いている手で魔法具を取り出す。でも、わたくしは…。
「人を巻き込むのか?さすが悪女だな。」
この人、わたくしの事情を知っている。
わたくしの魔法は範囲魔法。
大勢を倒したり回りに人が居ないなら効果を発揮する。こんなところで発動したら。
こちらの思いを知ってかリーダー格の男が剣を抜く。それに習って他の者もキラリと光る刀身を取り出す。
その冷たい光に斬られるかも知れないと恐怖が襲い足が動かない。
こんな時はどうするんだっけ?
頭に浮かぶのはいつの間にか頼りにしていた人の顔。
助けて“ ”────
「いたいけな女性を襲うお前達の方が悪だろ。」
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