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第39話 この人だけはまもらないと

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 わたしは山小屋で隠れているようにタカシに言われていました。

 だけど、ドッカンドッカンとすごい音が何度も聞こえます。

 タカシのことがすごく心配になって、気が付いたら森の中を走っていました。

 森の中はタカシと何回も歩き回ったので、道に迷う心配はありません。

 もちろん怖かったけど、タカシが死んでしまうのは、もっと怖かったのです。

 だって、こんなにも元気に走れるようになったのは、タカシのおかげ。

 わたしに人間の生き方を教えてくれたのは、全部タカシなんです。

 だから絶対に助ける。そう決めました。

 しばらく走っていると、ものすごく大きな音が近くで聞こえました。

 息を切らせながら覗いてみると、タカシが倒れているのが見えました。

 木にもたれかかって、ぐったりしています。

 そんなタカシに誰かが近づいていくのが見えました。

「やめて!」

 夢中になって叫んでいました。

 頭の中はなんにも考えられなくなって、タカシのほうへ走ります。

「ころさ、ないで! おねがい!」

 そう叫んでタカシのほうへ近づく人を見上げました。

 体全部を鎧で包み込んでいて、まるで絵本の中に出てくる巨人のようです。

両赤眼ブラズドの少女。そうか、君がそうなのか!」

 わたしのことを見た巨人さんは、なぜかとっても嬉しそうでした。

「クフフフ……会いたかったよ、ルナちゃん」

 バケツのような帽子を脱ぐと、その人の顔が見えます。

 立派なおひげを生やした男の人でした。

 右目は、わたしみたいに赤い瞳をしていましたが、何故がギラギラと光っています。

 なんだか、とても恐ろしいものを見ている気分になりました。

「あなた、だれ……?」

「私はザルディス・エレイン侯爵。君の新しいご主人様だヨ♪」

「ごしゅじん、さま?」

「ええ、そうですヨ。かわいそうな君を買い取った、えらーい人なんですネ♪」

 この人は、とっても優しそうにほほえんでいます。

 だけど、タカシの笑顔と違って、まるでそういうお面をかぶっているみたいに見えました。

「もしか、して。わたし、買った、人?」

「ええ、そうですヨ♪」

 この人が。

 この人が、わたしを奴隷として買った貴族様……。

「実を言うと私はですネ、君の同胞なんですヨ」

「どうほう……?」

「ほら、私の目。赤いでしょう? そう! 何を隠そう私も赤眼ブラドなんですネ」 

 驚きました。

 わたしは「お前は赤眼ブラドだ」と、ずっと悪口を言われてきました。

 この人も、同じような目に遭ってきたのでしょうか?

「あなたも……?」

「ええ、そうです。とはいえ幸い、生まれつきではなかったのでネ。戦場で片目を失ったことにして、眼帯で隠してきました。しかし、この眼を受け入れたと同時に素晴らしい力が手に入ったのですヨ! それがそう、バゾンドの力!」

 聞いていないのに、この人は自分の話をいっぱいしゃべり始めました。

赤眼ブラドになったことで性欲が強くなりすぎてしまいましたが、そんなことはどうでもよろしい! だって、女なんて、いくらでも手に入れられるのですから! 金も! 地位も! そして力もある! 私はこの世のすべてを踏みにじっていい権利を赤き月から与えられたのです! だから私以外のバゾンドはすべて殺さなくてはならない! 私の他にバゾンドがいていいはずがない! 英雄は私一人でいいのです!」

 ……よくわかりました。

 この人は、とっても悪い貴族様です。

「そういうわけですから、どいててくださいネ。そいつを殺さないといけないですから」

「だめ!」

 わたしはタカシに覆いかぶさります。
 この貴族様がわたしなを欲しがってるなら、わたしごとタカシを殺すことはしないはずです。

「クフフフ、たまらない! その涙! 本当にかわいいですネ!」

 だけどこの人は、わたしの首ねっこをつかんで、ゴミみたいに放り投げました。

「あうっ!」

 わたしは地面をごろごろ転がって、泥だらけになってしまいます。

「ガルルルッ!!」

「え、ガロッ!?」

 おそらくわたしの後をついてきていたのでしょう。

 ガロが貴族様の背後から飛び掛かりますが、何が起きたかもわからないまま、あっさり弾き飛ばされて気絶してしまいました。

「ん? 今、何か攻撃してきましたかネ? ま、いいです」

 貴族様は本当に何事もなかったかのように、わたしのほうを振り向いて笑顔を見せます。

「このあとで、たーっぷりかわいがってあげますから。そこでおとなしくしててくださいネ」

「おねがい、です。その人、殺さないで。たすけて、あげて……」

「泣き顔がホントにかわいいですネ~! でも残念! これは教育なんですヨ。そう、私のような選ばれた者がすべてを支配しているんだと、わかってもらうためのネ!」

 ああ、なんて。

 なんてわたしは無力なんだろう。

 このままではタカシが殺されてしまう。

 そして、わたしはあの貴族様のおもちゃにされてしまうんだ。

「おねがい。だれか、たすけて!」

 わかってる。

 叫んだって、どうせ届かない。

 タカシ以外でわたしの声を聞いてくれてる人なんて、もう誰も――






















『こんにちは、ルナさん。何か助けが必要ですか?』
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