上 下
36 / 54

第30話 守りたい、この笑顔!

しおりを挟む
 それから俺はルナの手を握りながら寝るようになった。
 悪夢を見なくて済むようになる安眠魔法……なんてのも考えてみたけど、これが一番いいかなって思えたから。

「あっ、タカシ」

 ある夜、目が覚めたルナが俺に気付いて淡い笑顔を浮かべた。

「また怖い夢を見たの?」

 ルナが首をフルフルと振った。

「タカシ、手、あったかい、です」

「そうかな?」

 ルナがコクッとうなずく。

「タカシ、いつも、やさしい、です」

「そんなことないと思うけどな」

 ルナのためにできることをしてるつもりだけど、全部が全部うまくいってるわけじゃないし。

「やさしい、です」

 ルナが俺の目をジッと見つめてきた。
 真っ赤なおめめがキラキラしてて、見とれてしまいそうになる。

「タカシの、おふとん、入る、いい、です?」

「いいよ」

 毛皮の布団を持ち上げると、ルナがゴソゴソとってくる。

「えへへ……」

 俺と同じ布団に入ったルナが嬉しそうに笑う。
 最初に向けてくれた笑顔は生き残るためのだったけど、今はそんなことない。
 子供らしい純粋な笑顔だった。

「タカシ、うれしそう、です」

「そう?」

「笑ってる、ます」

「ルナも笑ってるよ」

「うん!」

 ルナが素直にうなずいた。

「さいしょ、わたし、タカシ、こわかった、です」

「えっ、そうだったの? 怖い人に見えた?」

 それはちょっとショックだ。
 いや、見知らぬ不審者がいきなり自分を助けてくれたら、何か裏があるって思うよね。

 だけど、ルナは首を横に振る。

「こわい人と、少し、ちがう、こわい、です」

「ん? 普通とは違う怖さってこと?」

「あい。わからない、こわい、です」

「わからない怖さ。まあ、それはそうだよね」

 ルナのこれまでの経験を考えたら当たり前だ。
 今まで、親以外で自分に優しくしてくれる人はいなかった。
 ずっと冷たい世界の中で生きてきた子が、正体不明の男に急に優しくされたら混乱するよね。

「でも、今は、タカシ、いなくなるが、こわい、です」

「俺はルナの前からいなくなったりしないよ」

「おとう、さんも、おかあ、さんも、そう言って、いなくなり、ますた」

 うっ、心にグサグサ来る。
 最適な答えをマキナに求めたくなっちゃうけど、今は俺自身が考えなくちゃ……!

「お父さんとお母さんも、きっとルナといっしょにいたかったと思うよ」

「ほんと、です?」

「うん。ずっと一緒にいたかったに決まってるって。俺もそうだし」

「タカシ、わたしと、ずっと、いたい、思ってる、ます?」

「思ってるよ」

 ルナが目をぱちくりさせる。
 
「なんで?」

「なんでって言われてもなぁ。逆に聞くけど、ルナは俺とずっと一緒にいたいと思う?」

「いたい、です」

「それはなんで?」

「えっと……」

 ルナがどぎまぎした。

「ほら、ルナもうまく言えないでしょ」

「むーっ」

 不満そうに頬をふくらませるルナ。

「ごめんごめん。俺とルナの理由は同じだって言いたかったんだよ」

「おなじ?」

「そうそう。俺はルナのことが大好きなんだよ。ルナは違う? 俺のこと嫌いかな?」

「ううん。タカシ、嫌い、違う、ます。大好き、です」

「そういうこと。いっしょにいたい理由なんて、それだけでいいんだ」

 よしよし、と頭を撫でてやるとルナがむずがった。

「くすぐったい、です」

「ごめんね。頭撫でるの、嫌だった?」

「やじゃない、です。これ、好き」

 うーん、かわいい。
 絶対に守ってあげたい……。

「俺……ルナのために、もっと頑張る。ちゃんとそばにいるから」

 好きならいいかなと、さらに頭を撫で続ける。
 すると、ルナがジーッと俺を見みつめてきた。

「タカシ。ぎゅって、して、いい?」

 少し驚いた。
 普段のルナはこんなに甘えてこないのに。

「いいよ」

 許可してあげると間髪入れずにしがみついてきた。
 そして、本当に安心しきった声でささやく。

「タカシ、おやすみ」

 ……ああ、そっか。
 なんか、わかった気がする。

 きっとルナは、まだ不安だったんだ。
 役立たずだと思われたら俺に捨てられるんじゃないかって……。
 だから今まで素直に甘えられなかったのか。

「おやすみ、ルナ」
 
 今夜こそは、君がいい夢を見られますように……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

処理中です...