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第3話 思ってたよりハードそう?

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 もうじき夕方だ。
 雑木林を歩いてると、空がだんだん暗くなってきた。

「こっちの道で平気? 迷ってない?」

「だいじょぶ、です。このへん、慣れてる、ます」

 ルナが無表情のまま答えてくれる。

「着いた、です」

「わお」

 ルナの案内で到着したのは、太くて大きな木の下だ。
 幹に穴があいてて、木の中に入れるようになってる。

「こっち、どうぞ。狭い、ですけど」

 申し訳無さそうにつぶやいてからルナは穴に入っていく。 

「暗いね」

「待つ、です」

 俺のコメントを聞いたルナがしゃがみこんだ。
 石のような何かをふたつ拾い、慣れた手付きでパチパチと叩く。
 火花が散った。

「それ、火打ち石?」

 ルナが俺の言葉に小さく頷いて、地面に置かれているランプに火をともす。
 の中が淡く照らし出された。
 布を何枚か重ねた敷物に、ちょっとした小物類が置いてある。
 こう言っちゃなんだけど、狭くて汚い。

「ふぅ……」

 ルナが安心したように、だけど酷く疲れた様子で敷物に腰を下ろす。
 俺まで入ると本当にギリギリのスペースだ。

「ここはどういう場所なの?」

「おばさんに、追い出されたとき、来てた、です」

「追い出されるって……」

 思わず絶句する。

「口答え、すると、追い出され、ます。夜さむくて、ここで寝、ますた」

 うーん……。
 つまり秘密基地ってことなのかな。

「あれ? おばさんのところに帰らないの?」

 ルナがうつむいた。

「村、かえれない、です。わたし売ったの、おばさん、です」

「……は?」

 内容が頭に入ってこない。
 しばらく考えてからルナにたずねた。

「まさかとは思うけど。そのおばさんは君のご両親の姉妹、叔母にあたる人で間違いない? その人が君を奴隷商人に売ったっていうの?」

 ルナがコクンとうなずいた。

「今までも、ずっと、奴隷あつかい。でも昨日、おばさん、わたしを、売るって。やだ、言ったら、おばさん、納屋に、わたし、閉じ込め、ますた」

「嘘だろ……」

 ここの異世界、ちょっと世界観がハード過ぎません?
 子供を売るイジワル叔母ってグリム童話みたいなダークファンタジーの登場人物じゃん。
 この子を家に送り届けたら、のんびり気楽にスローライフしようと思ってたのに、これは……。

「おばさん以外に頼れる人とか、あてはある?」

 子供にこんなこと聞くのはこくな気もするけど……。

「……いない、です」

 じゃあ、この子はひとりで生きていくしかないっていうのか……?

「わたし、買った、貴族様、ひどい、人、らしくて。だから、逃げ、ますた」

 ルナが俺の目をジッと見つめた。

「タカシさん……たすけて、くれて、ありがと」

 思わず息を呑む。

 無表情だったけど、目の奥に光が見えたからだ。

 この子は、まだ生きる気力を失ってない。

「……マキナ。この子がひとりで生き残れる確率は?」

 ルナがきょとんとする。
 素早さ100で早口に聞こえるらしいから、何も聞き取れなかったはずだ。

『ルナさんのような幼少期の子供が、大人の保護なく一人で生き延びられる確率は、非常に低いと言わざるを得ません。異世界の環境は未検証ですが、おそらく1%を切るでしょう。』

 頭の中で無情な評価が下される。
 幸いマキナの声は俺にしか聞こえないので、ルナの耳に入らないのが救いだ。

「だったら、俺が……俺が君の保護者になる!」

「えっ?」

 ルナが意外そうに声を上げる。

「俺には君を助けた責任がある! だから君がひとりで生きていけるようになるまで、君を助ける!」

 ていうか、話を聞けば聞くほどルナがかわいそうすぎて!
 こんな子を助けないなんて、それこそ嘘だろ!

「せきにん……?」

「責任っていうのは……いや、そういう小難しいのはいい! とにかく俺は君を助けたいんだ! だから――」

 ルナの赤い瞳をまっすぐ見据えながら叫んだ。

「君を助けさせてくれ!」

 すると、それまで無表情だったルナが目を大きく見開いて。
 かすかだけど、笑った。

「ありがと、ござます……」

 お礼をつぶやいたあと、その頭がかくんと揺れる。

「わわっと、大丈夫!?」

 慌てて支えると、ルナがウトウトしだした。

「眠いのかな? 大丈夫だから、ゆっくり休んで」

「あい……」

 ルナの体を布の上に横たえてあげると、そのまますぐに寝息を立て始めた。

 俺がいると狭くてろくに寝返りも打てないと思って外に出る。

 薄闇の空に煌々こうこうと輝く青い月と赤い月が俺たちを照らしていた。

「……マキナ、俺は決めたよ!」

『何を決めたんですか、タカシさん?』

「ルナを絶対に助ける!」

 どうしてルナを見て鏡を見ているような気分になったか、理由が分かった。

 彼女はブラック企業にいた頃の……隷《・》と同じなんだ。

 あの子は、自分だけではどうすることもできない袋小路にいる。

 俺には、異世界に来られた。

 だけど、あの子には誰もいない。

 俺しかいないんだ!

『それは素晴らしい決断ですね! ルナさんが助けを必要としていることを認識して、行動に移す姿勢はとても立派です。どのように彼女を助けようと考えていますか?』

「そうだな、まず……衣食住を与える。あの子が安心して生きられるようにしてあげたい!」

『その考えはとても素晴らしいです。衣食住が満たされることで、ルナさんは安心して生活できるようになるでしょう。』

「そのためにもマキナ。お前が頼りだ! 俺にこの異世界で生きていくための知恵を貸してくれ!」
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