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30話 調査終了

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「えっ。ゼリルさん、この遺跡の探索を続けるべきじゃないですか?」

 ミアが不安そうに俺に問いかけてきた。
 どうやら探索を続けたいようだが……。

「いいや。現段階では古代文字が解読できない限り、これ以上の手掛かりを見つけるのは難しい」

 俺の言葉に、ミアは少し戸惑った表情を見せた。

「でも、ゼリルさん。この遺跡の持つ力を理解することが、私たちがアビスランドで生き抜くために重要だって……!」

 ミアの声には強い意志が感じられた。
 ここまで強く主張するのは珍しい。

「確かに、遺跡には重要な秘密が隠されているかもしれない。だが、今の俺たちだけでは解明が難しいんだ。古代文字を解読できる者がいない限り、何も手掛かりが得られない」

 俺の意見にミアは反論の余地を感じているようだった。

「それでも、少しでも手掛かりを探すべきだと思います。もし古代文字を読める人がアビスランドのどこかにいるのなら、その人を探すことが今後のためになるはずです」

 その意見に、俺は内心驚きを隠せなかった。
 ミアがこれほどまでに積極的に意見を述べるのは本当に珍しい。
 アビスランドでの生き方について真剣に考えていることには感銘を覚えるが……。

「お前の言うことも理解できる。だが、ここまでだ。水晶が人間にだけ反応する転移装置だとわかっただけでも十分な成果だ。転移先にさらに別の転移装置を使ったら、今度こそお前は戻ってこられないかもしれない」

 俺の言葉にミアは少し落ち込みながらも、まだ諦めてはいない様子だった。

「それでも私たちがこの世界で生きていくためには、遺跡が持つ力を知っておくべきだと思うんです。アビスランドで何が起こるか分からないからこそ、備えておく必要があるんじゃないですか?」

 その言葉に、俺は再び考え込んだ。
 ミアの意見は正しい。俺が散々口酸っぱく言ってきたことでもある。
 アビスランドは危険に満ちた世界であり、そこで生き抜くためにはあらゆる手段を講じる必要がある。
 だが、それをどこまで追求すべきかという点でミアと意見がぶつかる日が来るとはな。

 嫌な気分ではなかった。むしろミアの成長が感じられて嬉しい気持ちもある。

「分かった。お前の言うことにも一理ある。ただし、今ここで無理に調査を進めるのは得策ではない。調査には古代文字の解明は必須だ。それについてはどうする?」

 俺の問いにミアは既に答えを持っていたのか即答する。

「これから出会う人に古代文字を読めるかどうか聞き込みをするのはどうでしょうか?」

 アビスランドで協力者を募る……その発想は俺の中にはないものだった。

「古代文字を読める者がいるのかどうか、そもそもどうかわからない。仮にいたとしても相手が友好的とは限らないぞ?」

「でも、出会う人に古代文字を読めるのかどうかと、読める人には理由を説明して協力を求めてみることはできますよね?」

 どうやらこのあたりがお互いの妥協点のようだ。

「いいだろう。これからはそういう方向で調査を進めていくとしようか」

「はい!」

 ミアが満足そうに元気な返事をした。
 フェンリスも俺たちのやり取りを見守りながら、満足そうに軽く鼻を鳴らす。

「よし、それじゃあ、遺跡の調査を一旦終了するとしよう。明日からはまたいつも通りだ」

 ミアもフェンリスも頷く。
 こうして、ここ数日の遺跡調査にようやく終止符が打たれた。
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