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13話 底辺少女の黒い炎
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洞窟に戻った後、ミアは静かに火を見つめていた。
その表情には、まだ今日の出来事の余韻が残っているようだった。
あの水晶が放った光と、そこに触れる寸前の感覚が忘れられないのだろう。
「ゼリルさん……」
ミアが力なく口を開いた。
その声は静かでどこか不安げだ。
「何か気になることでもあるのか?」
「あの水晶……あの光が放たれたとき、私、何かを感じたんです。まるで、自分がこの世界に繋がっているような……不思議な感覚でした」
ミアの言葉には困惑が満ちている。
経験と知識に照らし合わせながら、俺は慎重に答えた。
「お前の中にある何かがアビスランドと共鳴したのかもしれない。この世界の力が、お前を試そうとしているのかもな」
ミアがいつもより深く考え込んだ。
「確かにそうなのかも……でも、それが何なのか、まだはっきりと分かりません。ただ……私、この世界で何かを成し遂げなければならないような気がします」
少し驚いた。
ミアがそんなことを言い出すとは思ってもいなかったからだ。
アビスランドは生きる意志を試す大地であって、それ以上でもそれ以下でもないはず。
そこで何を成し遂げようというのか。
俺に言わせれば妄言としか思えない話だが、まさかミアにそんな心無い言葉をぶつけるわけにはいかない。
「お前が感じたことを無視する必要はないと思うが、焦らなくていい。ゆっくりと、その感覚を理解していけばいい」
ミアは頷きながらも、まだ何かが胸につかえているようだった。
「はい。でも、私はもっと強くなりたいです。もっとアビスランドを知りたい。あの水晶が持っていた力の意味を理解したいんです」
少女の決意表明に俺は眩暈がしそうになった。
ミアがここまで強くなりたいと願う理由が何であれ、それを支えるのが俺の役目ではあるのだが……。
「よし、わかった。これからはさらにお前に多くのことを教えよう。俺が知らないアビスランドの真実……その力の本質をお前が学べるようにな」
ミアが久しぶりの笑顔を見せた。
「ありがとうございます、ゼリルさん。これからもよろしくお願いします!」
そのあとミアは深い眠りについたが、俺はまだ考え続けていた。
この少女がアビスランドで何を成し遂げようとしているのか。
この子の行ないがどんな未来をもたらすのか。
俺にはもはや理解が及ばない。
だが、少なくともミアの生きようとする意志は確かだ。
あの子がアビスランドで何をしようと、俺たちは全力で支えるだけだ。
翌朝、ミアはぱっちりと目を覚ました。
「ゼリルさん、今日はもっと難しい魔法を教えてください。私はもっと強くなりたいです!」
朝飯を済ませた途端にこれである。
はっきり言おう。末恐ろしい。
「よし、今日からもっと高度な魔法の使い方を教えるぞ」
手のひらに魔力を集めるよう指示すると、ミアはこれまでにない集中力を発揮して、その小さな手の中に闇の力を集め始めた。
その魔力はまだ不安定ではあるが、目覚ましい進歩だ。
「感じろ、自分の中に眠る力を。この世界の力が、お前の意志に応じて形を成すはずだ」
目を閉じ、深く呼吸を整えるミア。
水晶に触れる直前の動作と同じだ。
もしかして、あのとき掴んだイメージを呼び起こそうというのか。
ミアの目が見開かれると、手中に集まる魔力が少しずつ形を取り始める。
やがて黒い炎が生まれた。
小さく揺らめくだけの炎だが、どこどなくおぞましい。
「これが……私の力……?」
自分の成果に驚きを隠せないミアは自分の炎をじっと見つめていた。
かくいう俺も相当驚いている。
「その黒い炎は、お前自身の意志が作り出したものだ。その魔力を制御するには時間がかかるが、これが最初の一歩だ」
俺の言葉に力強く頷いたミアは、暴走させることなく炎を消し去った。
「分かりました、ゼリルさん。これからも、この力を磨いていきます!」
一度感覚を覚えてしまえば早いもので。
そこから辛抱強く訓練を続けたミアは、魔力を制御する術を体得した。
その成長は目覚ましく、一人前の魔法使いになるのも間近に思えた
訓練が終わった後もミアは確かな満足感を感じているみたいだった。
フェンリスも彼女のそばに寄り添い、少女の努力を労わる。
「ゼリルさん、今日も本当にたくさん学べました。これからも、もっと強くなれるように頑張ります!」
「それでいい。お前がその意志を持ち続ける限り、俺たちは共にある」
そう言ったものの、フェンリスの傍で眠りにつくミアを見つめながら、俺は考えあぐねていた。
「ミアの生み出した黒い炎は、何なんだ? あんな奈落魔法は見たことがないぞ……」
その表情には、まだ今日の出来事の余韻が残っているようだった。
あの水晶が放った光と、そこに触れる寸前の感覚が忘れられないのだろう。
「ゼリルさん……」
ミアが力なく口を開いた。
その声は静かでどこか不安げだ。
「何か気になることでもあるのか?」
「あの水晶……あの光が放たれたとき、私、何かを感じたんです。まるで、自分がこの世界に繋がっているような……不思議な感覚でした」
ミアの言葉には困惑が満ちている。
経験と知識に照らし合わせながら、俺は慎重に答えた。
「お前の中にある何かがアビスランドと共鳴したのかもしれない。この世界の力が、お前を試そうとしているのかもな」
ミアがいつもより深く考え込んだ。
「確かにそうなのかも……でも、それが何なのか、まだはっきりと分かりません。ただ……私、この世界で何かを成し遂げなければならないような気がします」
少し驚いた。
ミアがそんなことを言い出すとは思ってもいなかったからだ。
アビスランドは生きる意志を試す大地であって、それ以上でもそれ以下でもないはず。
そこで何を成し遂げようというのか。
俺に言わせれば妄言としか思えない話だが、まさかミアにそんな心無い言葉をぶつけるわけにはいかない。
「お前が感じたことを無視する必要はないと思うが、焦らなくていい。ゆっくりと、その感覚を理解していけばいい」
ミアは頷きながらも、まだ何かが胸につかえているようだった。
「はい。でも、私はもっと強くなりたいです。もっとアビスランドを知りたい。あの水晶が持っていた力の意味を理解したいんです」
少女の決意表明に俺は眩暈がしそうになった。
ミアがここまで強くなりたいと願う理由が何であれ、それを支えるのが俺の役目ではあるのだが……。
「よし、わかった。これからはさらにお前に多くのことを教えよう。俺が知らないアビスランドの真実……その力の本質をお前が学べるようにな」
ミアが久しぶりの笑顔を見せた。
「ありがとうございます、ゼリルさん。これからもよろしくお願いします!」
そのあとミアは深い眠りについたが、俺はまだ考え続けていた。
この少女がアビスランドで何を成し遂げようとしているのか。
この子の行ないがどんな未来をもたらすのか。
俺にはもはや理解が及ばない。
だが、少なくともミアの生きようとする意志は確かだ。
あの子がアビスランドで何をしようと、俺たちは全力で支えるだけだ。
翌朝、ミアはぱっちりと目を覚ました。
「ゼリルさん、今日はもっと難しい魔法を教えてください。私はもっと強くなりたいです!」
朝飯を済ませた途端にこれである。
はっきり言おう。末恐ろしい。
「よし、今日からもっと高度な魔法の使い方を教えるぞ」
手のひらに魔力を集めるよう指示すると、ミアはこれまでにない集中力を発揮して、その小さな手の中に闇の力を集め始めた。
その魔力はまだ不安定ではあるが、目覚ましい進歩だ。
「感じろ、自分の中に眠る力を。この世界の力が、お前の意志に応じて形を成すはずだ」
目を閉じ、深く呼吸を整えるミア。
水晶に触れる直前の動作と同じだ。
もしかして、あのとき掴んだイメージを呼び起こそうというのか。
ミアの目が見開かれると、手中に集まる魔力が少しずつ形を取り始める。
やがて黒い炎が生まれた。
小さく揺らめくだけの炎だが、どこどなくおぞましい。
「これが……私の力……?」
自分の成果に驚きを隠せないミアは自分の炎をじっと見つめていた。
かくいう俺も相当驚いている。
「その黒い炎は、お前自身の意志が作り出したものだ。その魔力を制御するには時間がかかるが、これが最初の一歩だ」
俺の言葉に力強く頷いたミアは、暴走させることなく炎を消し去った。
「分かりました、ゼリルさん。これからも、この力を磨いていきます!」
一度感覚を覚えてしまえば早いもので。
そこから辛抱強く訓練を続けたミアは、魔力を制御する術を体得した。
その成長は目覚ましく、一人前の魔法使いになるのも間近に思えた
訓練が終わった後もミアは確かな満足感を感じているみたいだった。
フェンリスも彼女のそばに寄り添い、少女の努力を労わる。
「ゼリルさん、今日も本当にたくさん学べました。これからも、もっと強くなれるように頑張ります!」
「それでいい。お前がその意志を持ち続ける限り、俺たちは共にある」
そう言ったものの、フェンリスの傍で眠りにつくミアを見つめながら、俺は考えあぐねていた。
「ミアの生み出した黒い炎は、何なんだ? あんな奈落魔法は見たことがないぞ……」
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