底の子　～最強魔族と厄災禍獣が奈落に堕ちた底辺少女を守るワケ～

epina

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9話　最強魔族の気づき

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　日々が過ぎていく中で、ミアは少しずつアビスランドでの生活に慣れていった。
　狩りや植物の採取、そしてフェンリスとの連携も、初めの頃に比べて随分と上達している。
　彼女の目には確かな強さが宿り、もはや地上から堕ちてきたばかりの怯えた少女ではなくなっていた。

　ある日、俺たちはいつものように洞窟の周囲を探索していた。
　ミアがフェンリスを連れ立って先導しながら、注意深く周囲を観察している。
　俺も後ろからその様子を見守っていたが、ミアの成長には目を見張るものがあった。

「ゼリルさん、あの植物、もしかして影苔ですか？」

　ミアが指さした先には、岩陰に生えている黒い苔が見えた。

「そうだ、影苔だな。距離があるのによく見つけた」

　ミアは自信を持って影苔を採取して、フェンリスの背に積んだ袋に丁寧に入れていく。
　その手際も、初めてだった頃とは比べ物にならないほど滑らかだ。

「最近、こうして周りをよく観察できるようになったんです。フェンリスも手伝ってくれて、本当に助かってます！」

　フェンリスが言葉に応えるように軽く鼻を鳴らしてから少女の手に頭を擦り寄せた。ミアもそんなフェンリスの頭を優しく撫で返している。
　ミアもこの世界で確かな繋がりを感じているみたいだ。

「いい兆候だ。お前がこの世界で生き抜くために必要なことは、すでに身に付き始めている」

　俺は彼女の成長を実感しながら、さらに注意を促した。

「だが、油断は禁物だぞ。慣れてきた頃が一番怖い。アビスランドは予測不能な危険が常に潜んでいる。たとえ初見であっても今日のように冷静さを保つことが大事だ」

「はい、これからも気を引き締めます！」

　俺たちはその後も洞窟の外を慎重に探索し、影苔や月光草をはじめとする地下植物を採取していった。
　ミアの手際はどんどん良くなり、今となっては主導する場面も増えてきている。
　おかげで俺はミアが対処できないような大きな脅威を警戒するだけで良くなった。
　ミアが立派な戦力として数えられるようになったのは、俺としても嬉しい誤算だった。

　しばらくして、俺たちは一休みするために岩陰に腰を下ろした。
　ミアが慣れた手つきで袋を点検し、収穫を確認している。
　その姿は、もはや地上の少女だったとは思えないほど、アビスランドに馴染んでいるように見えた。

「ゼリルさん。アビスランドで暮らしている人たちは、みんな私たちみたいな生き方をしているんですか？」

　突然、ミアがそんなことを口にした。
　少し考えてから答える。

「アビスランドには多くの生き物が存在する。魔族、妖魔、異形。禍獣、影獣、牙獣。どれも地上で居場所を失った者たちだ。とはいえ考え方が俺たちと同じとは限らない。それぞれが自分のやり方で生き抜いているが、どれも決して楽な道じゃない」

　真剣に耳を傾けるミアが小さく首をかしげる。

「でも、みんなここで生きる理由があるんですよね？」

「そうだ。地上で生きられなかった者たちが最後に辿り着くのがこのアビスランドだ。俺も、フェンリスも、お前も、他の奴らも一員だ。ここでは生きる意志のない奴はすぐに死ぬ。誰もが自分で生きる理由を見つけるしかないんだ」

　これで欲しい答えは得られただろうか？
　しばらく黙って考え込んでいたが、ミアはやがて小さく頷いた。

「私もアビスランドで生きる理由を見つけたいんです。ただ単に生きたいって意外にも。ここに堕ちてしまったからには、ちゃんと自分の力で……」

　ただ単に生きたいって意外の理由、か。
　アビスランドでそういった希望を抱ける者は少ない。
　しかし、ミアの瞳には少なからぬ決意が込められている気がした。
　
「そうだ。それがこの世界で生きる者としての証だ。お前が生きる意志を持ち続ける限り、俺たちは共に歩むだろう」

　その言葉に、ミアは安心したように微笑んだ。

「ありがとうございます、ゼリルさん。私、もっともっと強くなりたいです！」

「それなら、これからも学び続けることだ。力をつけるのは時間がかかるが、お前は確実に前に進んでいる」

　しばらく休んでから、俺たちは洞窟へと戻ることにした。
　ミアはフェンリスの傍そばを歩きながら、これまでの自分の成長をかみしめているみたいだった。
　この少女がどこまで強くなれるのか。
　それはこれからの時間が証明するだろう。

「今日はこれで終わりだ。少し休んで明日に備えろ」

　疲れた顔をしながらも、ミアは満足げに頷いた。

「はい、ゼリルさん。今日もたくさん学べました」

「それでいい。少しずつでいいから、着実に進め」

　フェンリスが彼女の傍に寄り添い、疲れた少女を守るようにその場に横たわる。
　ミアもまたフェンリスの温かさを感じながら、すぐに眠りに落ちた。

「さて。次は何を教えてやるべきかな……」

　ごく自然に笑みが浮かんだのに、思わずハッとする。

「そうか。俺は楽しみなんだな」

　ただ生きる意外の理由。
　どうやら俺はミアより先に見つけたらしかった。

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