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5 話し合い

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遠征に行くまでの間、週に一度ミシェル様と騎士団本部へと行った。遠征中の夜間の滞在も、お父様やお母様、お兄様にバレたら大変なので、こっそり抜け出す事になった。
――流石にマリアンには教えたけど…


***************



実は元々遠征に付き添うつもりはなかったのだけど、ミシェル様にイルゼ様の事を聞きたいとお伺いした時に、
「…聞くだけ会うだけじゃ、彼の本質はわからないよ」
直接彼の元へ行っても、たった数分では何にもわからないと言われ、それもそうだわ、と思っていたら、
「一回魔力を見せてもらっていい?」
と、ミシェル様に言われたので、
「…回復魔法しか使えないんですけど」
と、ミシェル様に告げると、ひどく驚いていた。
「君、回復魔法使えるの?」
「はい、一番得意な魔法です」
すると、ミシェル様はローブから出した自分の腕に魔法で切り、赤い一筋の線が現れた。無言で差し出されたミシェル様の腕に、手のひらをかざすと白い粒子の光が現れ、赤い線が跡形もなく消えた。
「…すごい…ルナルス家の魔力を生きている間に見れるとは…この魔法はルナルス家のみんなが使えるの?」
ミシェル様は私が治した腕を、左右に動かしちゃんと治っていりのかをじっくりと見ている。
「いいえ、回復魔法は私だけです…お父様とお兄様は全属性の攻撃魔法で、お母様と妹のマリアンは魔法攻撃を受けた時の威力を軽減する魔法を使えます」
使える魔法の種類については、貴族ら成人する前に魔法省で魔力の測定と種類を登録しなければいけないきまりになっているので、ミシェル様は調べようと思えば簡単に調べられる。それでも測定の時以外は家族にしか見せた事のなかった魔法を、魔法省トップの彼の前でやるのは少しだけ勇気のいる事だった。
「…何それ、十分すごいんだけど…ルナルス家バケモノだな」
「…ありがとうございます…?」
褒められているのか、貶されているのか分からないが、ミシェル様は腕を何度も確認しているから、多分褒めてる部類なのだろう。
「…こんなすごい魔法が使えるなら、まずは実戦向けに僕についてもらおう」
「…え」
にっこりと微笑む彼は、実戦もなにもない私を魔法省のトップと同行しろと言っているのか。
「ルナルス公爵家のご令嬢を何の経験もないまま、遠征中の騎士団に同行させるつもりは、ないよ」
危ないしね、と付け足された言葉に、それもそうかなと思った私は、
「…私に…出来るか分かりませんが…よろしくお願いします」
ぺこりと座ったまま頭を下げた。
「…ルナルス家の白魔法…すごい温かい…これは原因を追求しなければ」
ミシェル様と同行すると知り、ドキドキと緊張していた私は、ミシェル様がぼそりと発した言葉を聞くことはなかった。


「君の魔力量を知りたい」
と言われ、魔力が無くなるまで負傷者に回復魔法を使ってその後数日寝込んだり、
「君の適性魔法は本当に回復魔法だけなのか?」
と言われ、魔法省の幹部に直接指導してもらったら、全く出来なくて哀れな眼差しで見られたり、
「君の回復魔法は、対人間のみか」
と言われ、魔法省で管理している魔物や動物に対しても回復魔法をかけるという経験をした。もちろん自分の魔力量なんて知らないから、魔力を全部使い切ってまた寝込んだ。
ミシェル様がまるで天気の話をするかのように無茶振りをするから、次第にミシェル様の「君の…」って言葉が怖くなっていき、その後、判断を誤ったかも…と後悔するとは、この時私は思わなかった。



***************


どんな訓練を始めても結局体力だけは変わらず、バテる事が増えていき、試しに自分に回復魔法をかけたら辛くなくなったので、そこはいい発見をしたと思っていた…が、
「お前体力無さすぎだろ」
と呆れた顔をしたイルゼ様に、情けないところを見せてしまって恥ずかしい思いをしてしまった。
「本当、騎士団ここって男くさいね」
とミシェル様と軽く騎士団内を見せてもらった後、団長室に戻るとソファーに座り今後の展開を話し合った。

「そうだな…ミシェルの弟子なら夜間看護室に従事してもらおうか…日中は移動もしくは討伐があるからな」
――書類に目線を落として話す姿もかっこいいわ
「…今回の討伐ってミズナトス地方の魔物が暴れているからか?」
「それもあるが、魔物報告に山賊を見たって証言もあるから、一応見に行くわ」
――イルゼ様が直接行くなんて素敵…なんて頼もしいの
「…君騎士団長だよね?なんで団長自ら現地に赴くのよ」
「最近王家の護衛ばかりで身体が鈍っちまったからよ」
――照れ笑い可愛いすぎるっ
「ちょっと、レット黙っててもらってもいいかな?」
イルゼ様に見惚れて心の中で歓喜していた私に、ミシェル様は笑顔のまま注意をした。
――この顔は…めちゃくちゃ怒ってる顔だ…
ミシェル様は柔らかな雰囲気を漂わせているから誤解されがちだが、ひと月も一緒にいると、ちょっとした声のトーンや仕草で喜怒哀楽の怒の部分が分かってきた。それを魔法省の幹部に伝えるとみんな驚いていたけど。
「…は?喋ってないだろ」
何言ってんだコイツ、とイルゼ様はミシェル様に呆れ、
「…いやいや、この子の考えてる事など君や赤子のように単純だよ」
ミシェル様はそんなイルゼ様に、気がつかない君はバカだねと諭している。ミシェル様は魔法省のトップだからか、他人の気持ちを察する能力に長けている…らしい、とよく聞くが本当の所はどうなのか、よくわからない。
「わッ…僕なら大丈夫ですのでっ!ミシェル様すいません」
これ以上変な空気にならないように、私は慌てて2人の間に入った。
「お前…ミシェルに無茶振りされていないか?」
「ゔ…それは…」
今までされたキツイ経験を思い出し、完全に否定出来なくて口篭ると、
「よしっ!なら騎士団俺の所に来い!待遇も申し分ないぞ」
目を細めて、にかっと笑うイルゼ様の顔が可愛過ぎて萌えた。
「…いやいや、魔法省のトップの僕の前で弟子を勧誘って普通にありえないから」
ミシェル様の冷静なツッコミも気にせず、
「文句あるのか?」
「あるに決まってるし、僕の弟子だから誘ったんだろ」
「当たり前だろ、お前が誰かを推薦するなんてよっぽど優秀だろ」
「まっ、そうだけど、レットは渡さないよ」
と、ミシェル様は呆れていた。
そんな2人のやり取りを見て、イルゼ様と仲が良くて羨ましいとミシェル様にヤキモチをやいてしまう。



「さて、日程も詰めたし、もう帰ろうか」
そう言ってミシェル様はソファーから立ち上がり、団長室の隅に向かって手のひらを差し出しすと、黄色とオレンジの光の転移魔法が出現した。
あまりにも美しい円の模様に見惚れていると、
「ちっ…全く勝手なやつだな」
と頭を掻くイルゼ様はため息を吐いた。
「じゃ、来週にまた…レット、おいで」
そう言われて
「はいっ」
と、短い返事と共にミシェル様の元へと向かった。
「…来週、忘れんなよ」
イルゼ様は最後に叫ぶように言うと、苦笑した。
「!!!」
その後すぐ光に包まれた私達は、魔法省の大臣室――ミシェル様の執務室に到着した。
「何…その顔も素敵とか言い出すの?」
ぼそりと告げられた言葉に、声にならなない喜びで胸がいっぱいになって頷いていると、ミシェル様は手で顔を覆った。
「…本当に好きなんだねぇ…あの単純な男イルゼを」
「…はい」
それしか言えなかったけど、心を込めて返事をすると
「…君ならイルゼを幸せにするね」
どういう意味だろうと、ミシェル様を見上げると、ミシェル様は私を見下ろしにっこりと笑うと、
「ところで君は、いつになったらその蟻の体力から脱出するの?むしろ蟻の方が働いてるよ」
といって、地獄のトレーニングがスタートしてしまったのだった。
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