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プロローグ

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光のクリスタルが城下町の真ん中に聳え立つ国、アールスライト王国。

建国時からある光のクリスタルは、闇の力を排除し国全体を包む結界はモンスターを寄せ付けない強固なもの。キラキラと輝き降り注ぐ砂のように漂う粒のクリスタルのカケラは、結界内の住人を守り、吸い込む度に身体の浄化をしていた。
一種のアールスライト王国の名物ともなっていた、このクリスタルのカケラに商人や旅人はあまりの美しさに視線を奪われる。
そのクリスタルのおかげで治安が安定し、蛮族も出ない平和な国では、ある問題が水面下で起きていた。


アーテラ公爵家の愛娘、ミカドが何者かにより光のクリスタルの結晶を身体に埋め込まれ、身体が拒否反応を起こし意識不明の重体となっていた。大人でもクリスタルの結晶に直接触れるだけで具合が悪くなるのに、弱冠6歳の少女の身体にとって光のクリスタルの結晶は、生死を彷徨うほどの毒だった。

「ミカドッ…ミカドッ」
枕元で涙を流し、感情的になる母ーーアリアが、王国内最高権威の医師を呼び、黒魔術師を呼び、祈祷師を呼んでも、娘の意識を取り戻す事は出来なかった。


額に溢れる汗を拭っても熱は冷めず、ついには汗も出ず高熱が続く事数ヶ月ーーー。

ある日パタリと熱が下がり、蒼白い顔に血色が戻っていく。
ひと時も離れず看病していた、母親と彼女の侍女は喜び泣いた。しかし、その喜びもすぐに無くなった。
何故なら目を覚ましたミカドの片方の瞳には、美しい赤眼の瞳から漆黒のドス黒い瞳へと変わっていたのだからーーー





********************





「ミカドお嬢様~!…ミカドお嬢様~!」


朗らかな春の日。
アーテラ公爵家の屋敷内で、侍女がこの屋敷の長女ミカドを探していた。
屋敷の奥ーー地下深くにある日の当たらない部屋にいたミカドは、侍女の声を聞いて読書に夢中になって、約束の時間を大幅に過ぎていた事に気がついた。本を閉じ元の場所へ戻すと、光をも遮断する鉄製の重い扉を開け階段を上る。
薄暗いカーテンが全ての窓を覆い、お昼の時間だというのに電灯がついて廊下を照らす。公爵家の窓には全て光を遮断するカーテンが付いており、僅かな隙間さえも開けることを禁じていた。窓を開けることも、玄関の扉さえも決まった時間以外は固く閉ざされていた。
この公爵家の決まりを少しでも破った者は、例外なく解雇され、公爵家を怒らせたと他の貴族たちの間で噂になり、再雇用も厳しくなっていた。

何故そこまで厳しい処置を取られているのか…


それはーー光のクリスタルの粒を吸い込んだり、身体に触れるだけで火傷のような症状が出て苦しむ、ミカドのためだった。
そう、光を浴びる事も外の空気を吸う事も出来なくなった、紅藤色の美しい長髪で右眼帯の公爵家長女、ミカドのためだった。


アールスライト王国の光のクリスタルには、人体あるいは生物への光の加護が有効なのは日が昇っている間のみ。
夜になると光の粒は消えるが、全く加護がなくなるという事ではない。夜行性のモンスターは結界のために王国にも近寄れないし、蛮族の侵入ももう何十年とない。
キラキラと輝き降り注ぐ砂のように漂う粒が無くなるだけだ。
王国直属の研究所によれば、昼間に比べ夜の飛散する粒子の量は1000分の1で、夜間は身体の浄化はされないらしい。



「…マチ」

お嬢様~!と叫ぶ侍女の前に現れた、長女ミカド。やっと現れたホッとした侍女ーーマチは、ミカドに付いた新しい侍女だ。
「お嬢様、間もなく奥様がいらっしゃいます」
と伝えると、彼女と支度をするために部屋へと戻っていった。
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