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嫉妬
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修学旅行も終わり、夏休みに入る日。
体育館で終業式を終えた生徒は教室へと戻っていく。最後の夏休みになる3年生はもう進路も決まり、あとは受験日に向かって勉強するだけだ。
そんな私も、将来は先生と同じ教職に就きたくて…実は先生の母校を受ける予定だ。多分先生は担任だから同じ大学だと気がついていると思うけど、一度も確かめられた事はない。
先生と付き合い始めて、数ヶ月ーー私は3日後、18歳になる。
**************
最初は偶然だった。夏休み入る前に一度顔を見たいと思った私は、先生に確認するためと、適当な言い訳を自分に言い聞かせながら配られた紙を持って職員室へと向かった。
あと少しで職員室に近くと、くすくすと笑う声と男性の聞き覚えのある声に、身体が固まりその場から動けなくなってしまった。
「あはは、本当ですか?」
「そうですよ」
職員室前で談笑するひと組の男女。女性は嬉しそうに笑い、男性も笑って肯定している。
女性は私に背を向けているのでわからないけど、私服だからどこかの先生だろう。女性よりも背が高い彼は女性と向き合っていて、苦笑しているいつもの先生だ。
普通に話しているだけだと頭の中では分かっているのに、心の中から激しい怒りの感情が生まれ、眉が自然と寄り手をギュッと握ってしまう。手に持っていた紙がクシャッと小さな音を立ててしまい、微かな音なのに先生の視線が、女性の背後ーー私の方へと向く。
特にやましさもない学校の先生の表情は、私が泣きそうな顔をしているのを見て、驚いたのか目を見開く。
「…っ!」
その驚きの表情を見て、我に返った私は反射的に身体が動き、その場から逃げ出した。
走って、走って、逃げ込んだ先は、初めて先生に告白した視聴覚室だった。
数十列並ぶ長机の端を通り、視聴覚室の壁際の真ん中付近にある柱に隠れ、膝を抱えて座り声を殺して泣いた。
ーーただ喋っているだけだった、いつも私に見せる笑顔の顔じゃなかった
そう自分に言い聞かせているのに、
ーー他の女の人と笑ってた、そばにいたっ
と、彼のそばに女の人がいる事自体耐えられない事に気がつく。
ーー最悪っ、重すぎるっ
このままじゃ嫌われちゃうと、でもどうしようもないドス黒い感情に耐えきれなくて涙を流す。
ぽたぽたと、私の涙で膝を濡らしていた時、不意に私の身体に重さが加わった。
「…っやっと、見つけた」
はぁはぁ、と荒い呼吸の先生が、私を抱きしめている事に気がついた。
「…先…生」
「結菜っ」
顔を上げると私を抱きしめ直し、夢じゃなく彼の腕の中にいると認識した。2人っきりの時にしか呼ばない名前で呼ばれ、さらに涙が溢れてくる。
「っ…しん…ちゃっ…」
彼の背に腕を回しぎゅぅっと抱きつき、私も2人っきりの時にしか呼ばない名前で呼ぶ。
「急にっ…いなくなるなっ、心配するだろっ」
困ったような声を出して、私の背を撫でるしんちゃんに、
「っだって、だって…楽しそうにっ、話してっ」
「…あれは同僚の人だし」
「分かってる…けどっ…分かってるけどっ嫌っ」
と、言ったら嫌われちゃうと先程まで悩んでいた言葉が、スルッと出てきてしまう。呆れられるのが怖くて彼を抱きしめる腕に力を入れて、彼の胸に顔を押しつけてしまう。
「…ごめん、今度から気を付ける」
そんな事無理なはずなのに私の宥める声は優しくて、余計に自分が嫌になる。
「違…う、別にいいの…しんちゃんが私を…私の彼氏なら別にいい」
「…他の人と話しても…?」
素直な気持ちを告げたら幾分落ち着いてきた私は、首を横に振り冷静になる。
「嫌…だけど…そんなの無理だし」
顔を上げると、しんちゃんが私の頬を両手で掴み鼻先にキスをする。
「…もの分かりいいのは、いいけど…俺にはしないで…素の結菜と居たい」
と囁かれたと思ったら、私の返事を待たずに荒々しく口を塞がれた。
「ッ、ッ」
頬が固定されているから身体を動かせないが、自由に動かせる両手を彼の手首に置いた。顔の角度を何度も何度も変えては、貪られる舌。口内全体を舐め回す彼の舌に翻弄され、身体の力が抜けていく。
「ぁっ、んっ」
座った彼に口づけしたまま引き寄せられ、彼の腰の上に座る。頬から彼の手が離れ、私の腰に回される。今度は私が彼の頬を両手で挟み、今度は私が彼の口内へと舌を入れた。
どのくらいキスをしていたのか、名残惜しく離れた口。それでも離れ難く彼の鼻の横に、自分の鼻を押し付けて唇の先だけ触れ合っている。少しだけ荒い呼吸をする私達の息が、お互いの口の中へと入る。
「しんちゃ…」
「結菜」
喋る時も唇に触れ、吐息も顔に掛かかる。私の腰を掴む彼の左手を掴み、自分の胸へと置いた。
「…結菜…?」
驚くしんちゃんに、私は彼の瞳をじっと見つめる。
「…ねぇ、私…18歳になる…よ…?」
そう告げれば、より大きく目を見開くしんちゃんは、ゴクンと唾を飲み込んだ。
「………いいのか」
低く不機嫌とも取れる声に、私は
「うん、しんちゃんじゃないとヤダ」
そう告げた。
体育館で終業式を終えた生徒は教室へと戻っていく。最後の夏休みになる3年生はもう進路も決まり、あとは受験日に向かって勉強するだけだ。
そんな私も、将来は先生と同じ教職に就きたくて…実は先生の母校を受ける予定だ。多分先生は担任だから同じ大学だと気がついていると思うけど、一度も確かめられた事はない。
先生と付き合い始めて、数ヶ月ーー私は3日後、18歳になる。
**************
最初は偶然だった。夏休み入る前に一度顔を見たいと思った私は、先生に確認するためと、適当な言い訳を自分に言い聞かせながら配られた紙を持って職員室へと向かった。
あと少しで職員室に近くと、くすくすと笑う声と男性の聞き覚えのある声に、身体が固まりその場から動けなくなってしまった。
「あはは、本当ですか?」
「そうですよ」
職員室前で談笑するひと組の男女。女性は嬉しそうに笑い、男性も笑って肯定している。
女性は私に背を向けているのでわからないけど、私服だからどこかの先生だろう。女性よりも背が高い彼は女性と向き合っていて、苦笑しているいつもの先生だ。
普通に話しているだけだと頭の中では分かっているのに、心の中から激しい怒りの感情が生まれ、眉が自然と寄り手をギュッと握ってしまう。手に持っていた紙がクシャッと小さな音を立ててしまい、微かな音なのに先生の視線が、女性の背後ーー私の方へと向く。
特にやましさもない学校の先生の表情は、私が泣きそうな顔をしているのを見て、驚いたのか目を見開く。
「…っ!」
その驚きの表情を見て、我に返った私は反射的に身体が動き、その場から逃げ出した。
走って、走って、逃げ込んだ先は、初めて先生に告白した視聴覚室だった。
数十列並ぶ長机の端を通り、視聴覚室の壁際の真ん中付近にある柱に隠れ、膝を抱えて座り声を殺して泣いた。
ーーただ喋っているだけだった、いつも私に見せる笑顔の顔じゃなかった
そう自分に言い聞かせているのに、
ーー他の女の人と笑ってた、そばにいたっ
と、彼のそばに女の人がいる事自体耐えられない事に気がつく。
ーー最悪っ、重すぎるっ
このままじゃ嫌われちゃうと、でもどうしようもないドス黒い感情に耐えきれなくて涙を流す。
ぽたぽたと、私の涙で膝を濡らしていた時、不意に私の身体に重さが加わった。
「…っやっと、見つけた」
はぁはぁ、と荒い呼吸の先生が、私を抱きしめている事に気がついた。
「…先…生」
「結菜っ」
顔を上げると私を抱きしめ直し、夢じゃなく彼の腕の中にいると認識した。2人っきりの時にしか呼ばない名前で呼ばれ、さらに涙が溢れてくる。
「っ…しん…ちゃっ…」
彼の背に腕を回しぎゅぅっと抱きつき、私も2人っきりの時にしか呼ばない名前で呼ぶ。
「急にっ…いなくなるなっ、心配するだろっ」
困ったような声を出して、私の背を撫でるしんちゃんに、
「っだって、だって…楽しそうにっ、話してっ」
「…あれは同僚の人だし」
「分かってる…けどっ…分かってるけどっ嫌っ」
と、言ったら嫌われちゃうと先程まで悩んでいた言葉が、スルッと出てきてしまう。呆れられるのが怖くて彼を抱きしめる腕に力を入れて、彼の胸に顔を押しつけてしまう。
「…ごめん、今度から気を付ける」
そんな事無理なはずなのに私の宥める声は優しくて、余計に自分が嫌になる。
「違…う、別にいいの…しんちゃんが私を…私の彼氏なら別にいい」
「…他の人と話しても…?」
素直な気持ちを告げたら幾分落ち着いてきた私は、首を横に振り冷静になる。
「嫌…だけど…そんなの無理だし」
顔を上げると、しんちゃんが私の頬を両手で掴み鼻先にキスをする。
「…もの分かりいいのは、いいけど…俺にはしないで…素の結菜と居たい」
と囁かれたと思ったら、私の返事を待たずに荒々しく口を塞がれた。
「ッ、ッ」
頬が固定されているから身体を動かせないが、自由に動かせる両手を彼の手首に置いた。顔の角度を何度も何度も変えては、貪られる舌。口内全体を舐め回す彼の舌に翻弄され、身体の力が抜けていく。
「ぁっ、んっ」
座った彼に口づけしたまま引き寄せられ、彼の腰の上に座る。頬から彼の手が離れ、私の腰に回される。今度は私が彼の頬を両手で挟み、今度は私が彼の口内へと舌を入れた。
どのくらいキスをしていたのか、名残惜しく離れた口。それでも離れ難く彼の鼻の横に、自分の鼻を押し付けて唇の先だけ触れ合っている。少しだけ荒い呼吸をする私達の息が、お互いの口の中へと入る。
「しんちゃ…」
「結菜」
喋る時も唇に触れ、吐息も顔に掛かかる。私の腰を掴む彼の左手を掴み、自分の胸へと置いた。
「…結菜…?」
驚くしんちゃんに、私は彼の瞳をじっと見つめる。
「…ねぇ、私…18歳になる…よ…?」
そう告げれば、より大きく目を見開くしんちゃんは、ゴクンと唾を飲み込んだ。
「………いいのか」
低く不機嫌とも取れる声に、私は
「うん、しんちゃんじゃないとヤダ」
そう告げた。
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