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流血の狼1

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流血の狼



それがアンジェラル王国第257代目騎士団団長ーーホーク・ダリウスの異名だった
平民生まれで真っ赤な血の色の髪と瞳が畏怖の対象だった俺を救ってくれたのは、前騎士団長のダリウス師匠だった
鍛錬ばかりの日々だったが、人に心配されるくすぐったさを教えてくれたのはダリウス夫人だった

ダリウス家では子宝に恵まれず夫妻が悩んでいた時、町で買い物していた夫人と侍女の荷物を盗んだ事でダリウス家と俺の人生が180度変わった

生きるためにスリばかりしていたガキの俺を捕まえて更生させてくれたが、当主を継ぐものがいないからと、養子縁組で息子になったのが12年前、俺が18歳の時


それから素質があると騎士団に入隊させてくれ、着実に功績を残したのはダリウス家に恩を返すためだ

師匠が騎士団長を退くと分かった時には、夫人のお腹には待望の命が宿っていた
軽いお祝いの席で感謝の言葉を述べ年甲斐もなく泣いてしまった俺を夫人は抱きしめてくれ、師匠からは私達の息子だと、ありがたい言葉ももらった
それからすぐ師匠は夫人のサポートをするため、退団し俺が後釜に着いた
若い、早すぎる出世に周りは難色をしめしたが、俺の功績と世代交代が必須と説得してくれた師匠夫婦には一生頭が上がらない

騎士団長就任後しばらくすると国内に不穏な動きをする輩がいると報告を受けた俺は、事務処理から解放されると諸手を挙げて率先して調査を始めた

ーーまさか5年もかかるとは

その時はこんなに掛かるとは夢にも思わなかった
師匠夫婦の間には、男児が生まれもうすぐ5歳だから驚きだ
城に到着後1番に挨拶に行った時は、夫人そっくりでしっかりとした子だった


その後騎士団の遠征で物資を運んでくれた、商会で慰労会をやってくれるとの事だったが断るのも面倒で返答を有耶無耶にしていたら強制的に参加する事になった

商会長の屋敷に着くともう、ある程度無礼講で隊員は飲み、食べ久しぶりの城下町を楽しんでいた
そして隊員の家族も楽しいひと時を過ごしている様だった


最後まで来るのをやめようと思っていた俺は、エリックが楽しそうに美女と話しているのを見て、この憂鬱な気持ちをぶつけるように声を掛けたのに反対に小言をもらった

そしてエリックの後ろからひょっこりと出た女性の顔を見て時が止まったかのように身体が固まり魅入る

ーー美しい


銀色に輝く髪は柔らかそうで、彼女の大きな瞳は澄み渡って全てを見透かす様なエメラルドグリーン、離れていても分かる陶器のようになめらかな白い肌の頬がうっすらとピンクで、唇は赤くぷっくりしてむしゃぶりつくしたくなる
ドレスが彼女の体型に沿う様に細く折れてしまう程に華奢だ

こんな美人な女性は初めてだ、と見惚れる

そんな俺を見て彼女も驚いたように目を見開く

ーー目が溢れそうだ

きっと彼女も俺を見て畏怖しているのであろう
こんなゴツくて赤い血のような髪と瞳じゃ、きっと泣き出すだろうと視線を外すと

「…こんにちは、騎士団長様、マリア・スワローズと申します」
と鈴の音のようにいつまでも聞いていたい声が俺に話しかけた
「…お初にかかります、騎士団団長のホーク・ダリウスと申します」
まさか自分に挨拶してくれる女性がいるとは、驚きと彼女と話せた事に歓喜している自分がいて驚く



ふと、
にっこりと笑う彼女を全て自分だけに向け閉じ込めてしまいたい
という欲が出てきて戸惑った
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