22 / 24
兄と会う
しおりを挟む
兄は探偵事務所の所長をやっている。
大学の卒業と同時に会社を立ち上げ、日々忙しそうにしている兄は、私と7歳も歳が離れ、今年37歳になる。幼い頃から探偵みたいに、私のあとを付けてはメモをして、私の付き合う人の素性や怪しい行動を教えてくれていた。
ーー最初はありがた迷惑だったけど、今は助かっているなぁ
変な人に引っかかる前に止められるのは、20代後半になって感謝しかない。
「よぉ、元気か?」
週末の金曜日。路地裏にある、薄汚れた立飲み居酒屋に呼ばれた私は、相変わらずくたびれたスーツを着ている兄の元へと行った。
使い古しヨレたスーツ姿の兄の立つカウンターの前には、おでんと日本酒が既に置いてあり、晩酌が始まっていた。
以前ちゃんとしたスーツを着なよって言ったら、それじゃあ目立つんだよ、とワザとその格好をしているみたいだった。
顔の造作は整っているのに、なんだが勿体ないなとは、思ったけど、兄は気にしていないみたいだ。
「兄ちゃん」
店員が注文にくると、兄が
「生で」
と私の代わりに注文した。
「珍しいね、呼び出すなんて…何かあったの?」
注文した生ビールが運ばれ、兄と乾杯してひと口飲んで、兄に呼び出された理由を問いかけた。
「いや、ただ久しぶりにどうかと…俺の仲介した仕事どうだ?」
「うん、すごい楽しい…その…そのおかげで彼氏も出来たんだ」
照れ臭くて、健吾さんのくだりは早口になってしまう。
「そうか…ならいいか」
「お兄ちゃん、本当にありがとう」
そう、今勤めている会社は、兄の仲介があって入社したのだ。
「俺は実際紹介しただけだし、就職出来たのは自分の実力だよ」
いつもそう言って私を励ましてくれる。
「…ところで、その彼氏を父さんたちに紹介したんだって?」
「…うん、お兄ちゃんよりも年上なのに…なんか受け入れてくれて…嬉しかった」
追加で注文した焼き鳥を食べながら、嬉しい時間を思い出した。
「…あの人なら上手くやるだろう」
ぼそりと喋る声は騒がしい店内でかき消された。
********************
兄と会った後に連絡が来たので、健吾さんと待ち合わせをして会うことになった。
「健吾さん」
駅からさほど離れていない、駅のロータリーで待っていた彼に近寄る。声を掛けると、私を見て優しく微笑む。
「瑠璃」
そのまま腕を絡めて歩き出した私達は、このまま家に帰り明日の朝早くに出かけ、一泊する事にした。
行き先は、
2人が付き合うきっかけになった、あの温泉街だ。
大学の卒業と同時に会社を立ち上げ、日々忙しそうにしている兄は、私と7歳も歳が離れ、今年37歳になる。幼い頃から探偵みたいに、私のあとを付けてはメモをして、私の付き合う人の素性や怪しい行動を教えてくれていた。
ーー最初はありがた迷惑だったけど、今は助かっているなぁ
変な人に引っかかる前に止められるのは、20代後半になって感謝しかない。
「よぉ、元気か?」
週末の金曜日。路地裏にある、薄汚れた立飲み居酒屋に呼ばれた私は、相変わらずくたびれたスーツを着ている兄の元へと行った。
使い古しヨレたスーツ姿の兄の立つカウンターの前には、おでんと日本酒が既に置いてあり、晩酌が始まっていた。
以前ちゃんとしたスーツを着なよって言ったら、それじゃあ目立つんだよ、とワザとその格好をしているみたいだった。
顔の造作は整っているのに、なんだが勿体ないなとは、思ったけど、兄は気にしていないみたいだ。
「兄ちゃん」
店員が注文にくると、兄が
「生で」
と私の代わりに注文した。
「珍しいね、呼び出すなんて…何かあったの?」
注文した生ビールが運ばれ、兄と乾杯してひと口飲んで、兄に呼び出された理由を問いかけた。
「いや、ただ久しぶりにどうかと…俺の仲介した仕事どうだ?」
「うん、すごい楽しい…その…そのおかげで彼氏も出来たんだ」
照れ臭くて、健吾さんのくだりは早口になってしまう。
「そうか…ならいいか」
「お兄ちゃん、本当にありがとう」
そう、今勤めている会社は、兄の仲介があって入社したのだ。
「俺は実際紹介しただけだし、就職出来たのは自分の実力だよ」
いつもそう言って私を励ましてくれる。
「…ところで、その彼氏を父さんたちに紹介したんだって?」
「…うん、お兄ちゃんよりも年上なのに…なんか受け入れてくれて…嬉しかった」
追加で注文した焼き鳥を食べながら、嬉しい時間を思い出した。
「…あの人なら上手くやるだろう」
ぼそりと喋る声は騒がしい店内でかき消された。
********************
兄と会った後に連絡が来たので、健吾さんと待ち合わせをして会うことになった。
「健吾さん」
駅からさほど離れていない、駅のロータリーで待っていた彼に近寄る。声を掛けると、私を見て優しく微笑む。
「瑠璃」
そのまま腕を絡めて歩き出した私達は、このまま家に帰り明日の朝早くに出かけ、一泊する事にした。
行き先は、
2人が付き合うきっかけになった、あの温泉街だ。
17
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
ハイスぺ副社長になった初恋相手と再会したら、一途な愛を心と身体に刻み込まれました
中山紡希
恋愛
貿易会社の事務員として働く28歳の秋月結乃。
ある日、親友の奈々に高校のクラス会に行こうと誘われる。会社の上司からモラハラを受けている結乃は、その気晴らしに初めてクラス会に参加。賑やかな場所の苦手な結乃はその雰囲気に戸惑うが
そこに十年間片想いを続けている初恋相手の早瀬陽介が現れる。
陽介は国内屈指の大企業である早瀬商事の副社長になっていた。
高校時代、サッカー部の部員とマネージャーという関係だった二人は両片思いだったものの
様々な事情で気持ちが通じ合うことはなかった。
十年ぶりに陽介と言葉を交わし、今も変わらぬ陽介への恋心に気付いた結乃は……?
※甘いイチャイチャ溺愛系のR18シーンが複数個所にありますので、苦手な方はご注意ください。
※こちらはすでに全て書き終えていて、誤字脱字の修正をしながら毎日公開していきます。
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
【完結】一夜の関係を結んだ相手の正体はスパダリヤクザでした~甘い執着で離してくれません!~
中山紡希
恋愛
ある出来事をキッカケに出会った容姿端麗な男の魅力に抗えず、一夜の関係を結んだ萌音。
翌朝目を覚ますと「俺の嫁になれ」と言い寄られる。
けれど、その上半身には昨晩は気付かなかった刺青が彫られていて……。
「久我組の若頭だ」
一夜の関係を結んだ相手は……ヤクザでした。
※R18
※性的描写ありますのでご注意ください
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
【完結】堕ちた令嬢
マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ
・ハピエン
※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。
〜ストーリー〜
裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。
素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。
それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯?
◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。
◇後半やっと彼の目的が分かります。
◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。
◇全8話+その後で完結
【完結】鳥籠の妻と変態鬼畜紳士な夫
Ringo
恋愛
夫が好きで好きで好きすぎる妻。
生まれた時から傍にいた夫が妻の生きる世界の全てで、夫なしの人生など考えただけで絶望レベル。
行動の全てを報告させ把握していないと不安になり、少しでも女の気配を感じれば嫉妬に狂う。
そしてそんな妻を愛してやまない夫。
束縛されること、嫉妬されることにこれ以上にない愛情を感じる変態。
自身も嫉妬深く、妻を家に閉じ込め家族以外との接触や交流を遮断。
時に激しい妄想に駆られて俺様キャラが降臨し、妻を言葉と行為で追い込む鬼畜でもある。
そんなメンヘラ妻と変態鬼畜紳士夫が織り成す日常をご覧あれ。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※現代もの
※R18内容濃いめ(作者調べ)
※ガッツリ行為エピソード多め
※上記が苦手な方はご遠慮ください
完結まで執筆済み
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる