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愁玲の拠り所(5)

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「逃げようとしたのか」
「えッ、」

問われた意味が分からなくて間抜けな声を上げれば愁玲の横にあった壁をドンっと殴られた。反射的に閉じてしまった目をゆっくりと開ける。二つの赤と目があった。赤黒い真っ赤な瞳。怖くて思わず悲鳴を上げそうになるが、寸でのところで耐えた。

「……っ、急に何すんだよっ!」
「逃さねえ」
「っ、!」
「最初に言っただろ、お前は俺のだ。今さら俺から離れられると思ってんじゃねえよ」

燃えるような赤。烈火に焼かれた感情が愁玲に降り注ぐ。今まで向けられた事のない思いにどう受け止めれば良いのか分からなかった。

怒ってるのは分かる。でも怒られてる理由が分からない。いや、本当は思い当たる伏しがありすぎるだけだ。

やるせないほど悲しくなる。結局、怒らせたり落胆させたり、がっかりさせる事しか愁玲にはできないのだ。

体が言うことを聞かない。ただ震える事しかできなかった。

居た堪れなくなって逃げるように視線を反らせば、ヴァルガに腕を掴まれる。

「逃げんじゃねえ」
「いっ!」

血が滲む程に首筋をかみつかれる。

怖い。そう感じたのは本能からだった。

捕食者と非捕食者。抵抗する術を知らない。こんな事なら嫌がらず剣術とか魔法とかきちんと習っておけば良かった。

「こんなの要らねぇよな?」

グシャッと目の前で嫌な音がした。パラパラとまるで砂のように砕けた赤の宝石が床に落ちていく。

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