輝ける星

鳫葉あん

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一年戦争

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「筑紫さんお帰りなさい。もうすぐご飯出来ますよ」

 家に帰ったら出迎えてくれるのは眩しい笑顔の美青年。小さなキッチンスペースを大きな体で動き回り食事の支度をしてくれている光景は現実味がなかった。ゲームだから当然か。
 現実世界で唐突に死を迎えたかと思えば目を覚ました先はゲームの世界。ネット小説のような展開に混乱する暇もなくイケメンアイドルとの同居生活が始まってから早くも一週間。カレンダーは年末と呼ばれる時期に入ってしまった。

「ただいま。忙しいのに悪いな、ありがとう」

 明日から円達は事務所の先輩グループと合同で年末カウントダウン&ニューイヤーライブを控えている。一週間程の日程のそれはゲームをプレイしていた時にイベントとして開催されていた。
 仕事は勿論ライブに向けてレッスンが組まれ忙しいだろうに、円は居候だからと家事を請け負ってくれようとする。ありがたいけれど無理はしてほしくなかった。

 野菜多めの焼きそばが皿に盛られていく。狭い間取りに居室は一つしかなく、そこに置かれたテーブルまで皿を運ぶ。

「一人暮らしで自炊してたので慣れてますから。忙しいから簡単な物ですけど」
「三食レトルトか外食だったから手料理ってだけで何でも輝いて見えるよ。実際円の料理美味いし」
「え? そうですか? 良かった」

 はにかむ笑顔は男が見ても可愛い。
 料理上手なイケメンなんて売り込むには充分な属性だ、と思考から仕事が抜けきらない。

「円、料理番組とかどうだ?」
「何か仕事が来てるんですか?」
「いや。お前達の趣味や特技が生かせそうなとこに営業かけようかなって。料理だとバラエティのコーナー企画とかかな」
「僕、色々出てみたいです」

 現実で女性アイドルグループを担当していた時はワガママが酷かった。この芸人は絡みにくいから嫌だと特定の人物を指したり、それだけでなくバラエティ自体に難色を示すメンバーもいた。全ての要望に応えていたら仕事がないので参考程度に留めておくが、今後の方向性を擦り合わせる為に意見を聞いておきたかった。

「二人にも聞いておかないとな」

 ゲームをプレイしていたので円を含めメンバーの趣味や嗜好は把握しているが念の為確認しておいた方が無難だろう。

「それよりビールビール! 冷えてるなー」

 冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出す。ラベルのデザインや会社名、商品名は現実の物とは違うが、酷似している。ゲームによくある『実在の物品を模した』デザインとなっていた。
 この世界の物は現実とは違うけれどそれらを模した物で構成されている。試しにゲームアプリを確認したら現実と全く同じゲームはなかったもののそれらに酷似したゲームはあった。勿論、Tri-starのようなゲームもあった。
 ソシャゲの世界に入ってまでソシャゲに狂うのはどうかと思って手を付けていないが、きっと内容も似ているのだろう。
 そんなことを考えながらプルタブを開け、ビールを飲む。視線を感じて円を見ると手にしたビール缶をじっと見つめていた。

「なに?」
「いえ……ビールってそんなに美味しいんですか?」
「俺はビールがないと生きてけないね」

 首を傾げる円はまだ未成年。それも来年の誕生日で終わりになる。

「円が二十歳になったら浴びるくらい飲ませてやるよ」
「……うーーん。はい。楽しみにしておきます」

 しっくり来ない顔で頷く円。話は他へとそれていき、明日に備えてさっさと寝る準備を進めていく。
 明日からライブが始まる。デビューしたての彼らは先輩グループのおまけでしかないが、それでも観客の前に立ってパフォーマンスを披露するのに代わりはない。
 何も問題なく終わるといいと心配する心と裏腹に。翌日の夕方から行われたライブは好評に終わった。
 本番に強いのか三人共特に緊張した様子もなく、歌詞の間違いなどもなく。MCを務める先輩アイドルとの絡みも笑顔で答える姿に、観客席から黄色い声がちらほら聞こえてくる。
 ステージを彩る無数のライトに照らされ、その中で輝く彼らは俺の大好きなアイドルそのものだった。

 ライブ初日が問題なく終わり、控え室に戻った彼らに俺はとにかく「すごい」「良かった」と壊れたロボットのようにそればかり言って、手を叩きながら泣いて喜んでいた。
 彼らを担当してまだ半月も経っていないマネージャーがここまで感情移入してたら気持ち悪いだろうが、俺はそれ以上の月日を彼らとゲームの中で歩んでいる。

「そんなに良かった?」

 望の問いにうんうん頷く。輝いていたと答えると望は嬉しそうで得意気な顔をした。
 円は勿論のこと、普段あまり表情の出ない衛すら笑っている。彼らにとってもいいライブだったのだろう。
 後でSNSを確認するとメインのグループへの賛美は勿論、ちらほらと彼らについて触れてくれているコメントもあった。好意的なものが多く、自分のことのように嬉しく思えた。
 もっと彼らに輝いてほしい。もっと多くの人に彼らの魅力を知ってほしい。その為にも仕事を取って来ようと、改めて誓った。
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