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30 ちょっと、ひと息
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「それで、さっき総理が言ってた。なんとかって将軍への回答なんだが……後で、そこの警察本部あてに文書は送っとくけどよ」
画面の中では、吉田が目薬の容器に似た入れ物に入った銀粒(仁丹。口中清涼剤)を、口に放り込みながらしゃべっている。
「とりあえず、官房機密費から1億用意した。情報の対価はいらねえって話だったが、こいつは、一部情報提供料だ。報酬、対価としちゃあ、更になんぼか用意する心づもりだそうだ。その場合、ODAとかだとその将軍とこを国と認めることになっちまうから、防衛省の方で、対外調査協力費か現地対策費なんかを充てるってさ」
友兼は、テーブルから顔を上げて話にうなずく。
「安全保障については、とりあえず、そいつの兵隊については攻撃してこない限り安全を保障する。
実家については、もっと情報が欲しい。だけどよ、国益に反さない限りは、なるだけ要望に添うようにするってさ。
戦ってる最中なんで、それくらいしか言えねぇわな。けどよ、日本が侵攻するってことは無いって確約していいぜ」
「まあ、日本から攻めるってことは現実的じゃないですしね」
「そういうこった。代わりに、同盟とか、向こうの世界で戦うから援軍頼む、とか言われても出せねぇがな」
「平和憲法様さまです」
白々しい口調で、友兼が応じると、吉田は鼻で笑う。
「ふん。
で、人的交流は、とりあえず、外交からだ。貿易についても、あちらさんの文化の発展具合によって変わってくるわな。いきなり銃器や発電所とか送るわけにもいかねぇだろうから、外交交渉の上、お互いのことを知らねぇとな。始まらねぇや」
「クリスタルガラスとか、お酒類は高く売れそうですよ」
「電気を普及させて、電化製品売れば儲かりそうだって、経産省あがりの奴が言ってぜ」
「逆に、こっちの金とか資源価格が暴落しそうですけどね」
友兼は自分の言葉に、株やFXの整理をしとかないとな、と心の中で思い出す。
「ま、いまはそれどころじゃねぇわ。まずは、この事態を終わらせねぇとな」
「できれば、バサラ将軍に、相手の司令官へ戦いを止めるようつないでもらいたいんですけどね」
「無理って話だっけか?」
「異世界の軍事力を相手に見せつけない限り無理ですって。それを見ても、帝国の方は難しいと思う、っていう話です」
「やるしかねぇか……」
「残念ながら」
「そうか、仕方ねぇなぁ、頑張ってくれよ。防衛副大臣さま。現地調査と将軍との交渉も頼むぜぇ」
吉田は、モニターの向こうで、腕を組むとニヤニヤと口を歪ませる。
「他人事だとおもって……」
友兼は、もう一度疲れたようにテーブルに倒れこんだ。
打合せの後、友兼は、ミシェルたちが控えている部屋に案内された。
扉を開けると、それまで見たことのないテンションで盛り上がっている真紅の兵士たちがいた。
『な、なんだこの香り! 味は!』
『こ、香辛料だ! 香辛料をたっぷり使っている。唐辛子に、香菜、このほろ苦さはクミン、なんだこの樹脂系の爽やかで上品な香りは……』
『なんだと! 香辛料……俺、初めて喰う』
猛烈に貪り食う者、泣きそうな者、妙に食通な者たちの叫びが狭い室内に響く。
室内には、カレーの良い香りが漂っている。
「お、カレーいいね」
「せんせぇの分もあるるますよ~」
スプーンをくわえた雛菊が、自分の隣の席を示して、手招きする。
テーブルには、カレー皿と、ブロッコリー等の茹《ゆ》で野菜、切られたハムやポール状のウインナー、ゆで卵が盛られた大皿が置かれている。
「その前に、総理からバサラ将軍の申し出についての回答があったから、AINEで真宮寺君に送っておくよ」
「まだ電話は通じへん? 地震の時みたいに、しばらくはあかんのかな?」
「非常通信帯域使用の携帯借りてきたから、話そうと思えば通じるかもしれない。けど、写真撮って送った方が早いから」
友兼は、手にしたコピー用紙をパラパラと揺らして、その量を見せる。
そして、何か思いついたかのように、雛菊を見る。
「あ、ごめん。家に電話とかしたかった? 友達とか」
質問に、雛菊はちょっとびっくりした顔をする。
「ううん、ありがとう、せんせぇ。そやけど、電話番号とか覚えてへんし」
「最近の子は、家の番号とか覚えないか」
「そうそう。110番と119番しか知らへんもん」
「警察の人に聞けば、なんとかなるかも?」
「そっか~。それやったら、うち、うちには電話してみたいかも。こんなことになってるから、一応、無事か心配やし」
「よし、じゃあ、聞いてみよう」
「あ、その前に……」
「……?」
「カレーお代わりできるかなぁ?」
雛菊は、ぺろりと舌を出し、きれいにさらわれたカレー皿を友兼に見せた。
「……強いねぇ」
「そら、うちかて異世界で切ったはったしてきたもん」
そんな少女の様子に、つい友兼は、雛菊の頭をポンポンと撫でる。
そして、自分のしたことに驚いたように手を離すと、係の警察官へカレーのお代わりについて尋ねる。
「オッケーだって」
その答えに、雛菊はにっこり笑って席を立つ。
『みんな~、ご飯お代わりする人~?』
雛菊が手を上げるのを見て、兵士たちの手が勢いよく林立する。
画面の中では、吉田が目薬の容器に似た入れ物に入った銀粒(仁丹。口中清涼剤)を、口に放り込みながらしゃべっている。
「とりあえず、官房機密費から1億用意した。情報の対価はいらねえって話だったが、こいつは、一部情報提供料だ。報酬、対価としちゃあ、更になんぼか用意する心づもりだそうだ。その場合、ODAとかだとその将軍とこを国と認めることになっちまうから、防衛省の方で、対外調査協力費か現地対策費なんかを充てるってさ」
友兼は、テーブルから顔を上げて話にうなずく。
「安全保障については、とりあえず、そいつの兵隊については攻撃してこない限り安全を保障する。
実家については、もっと情報が欲しい。だけどよ、国益に反さない限りは、なるだけ要望に添うようにするってさ。
戦ってる最中なんで、それくらいしか言えねぇわな。けどよ、日本が侵攻するってことは無いって確約していいぜ」
「まあ、日本から攻めるってことは現実的じゃないですしね」
「そういうこった。代わりに、同盟とか、向こうの世界で戦うから援軍頼む、とか言われても出せねぇがな」
「平和憲法様さまです」
白々しい口調で、友兼が応じると、吉田は鼻で笑う。
「ふん。
で、人的交流は、とりあえず、外交からだ。貿易についても、あちらさんの文化の発展具合によって変わってくるわな。いきなり銃器や発電所とか送るわけにもいかねぇだろうから、外交交渉の上、お互いのことを知らねぇとな。始まらねぇや」
「クリスタルガラスとか、お酒類は高く売れそうですよ」
「電気を普及させて、電化製品売れば儲かりそうだって、経産省あがりの奴が言ってぜ」
「逆に、こっちの金とか資源価格が暴落しそうですけどね」
友兼は自分の言葉に、株やFXの整理をしとかないとな、と心の中で思い出す。
「ま、いまはそれどころじゃねぇわ。まずは、この事態を終わらせねぇとな」
「できれば、バサラ将軍に、相手の司令官へ戦いを止めるようつないでもらいたいんですけどね」
「無理って話だっけか?」
「異世界の軍事力を相手に見せつけない限り無理ですって。それを見ても、帝国の方は難しいと思う、っていう話です」
「やるしかねぇか……」
「残念ながら」
「そうか、仕方ねぇなぁ、頑張ってくれよ。防衛副大臣さま。現地調査と将軍との交渉も頼むぜぇ」
吉田は、モニターの向こうで、腕を組むとニヤニヤと口を歪ませる。
「他人事だとおもって……」
友兼は、もう一度疲れたようにテーブルに倒れこんだ。
打合せの後、友兼は、ミシェルたちが控えている部屋に案内された。
扉を開けると、それまで見たことのないテンションで盛り上がっている真紅の兵士たちがいた。
『な、なんだこの香り! 味は!』
『こ、香辛料だ! 香辛料をたっぷり使っている。唐辛子に、香菜、このほろ苦さはクミン、なんだこの樹脂系の爽やかで上品な香りは……』
『なんだと! 香辛料……俺、初めて喰う』
猛烈に貪り食う者、泣きそうな者、妙に食通な者たちの叫びが狭い室内に響く。
室内には、カレーの良い香りが漂っている。
「お、カレーいいね」
「せんせぇの分もあるるますよ~」
スプーンをくわえた雛菊が、自分の隣の席を示して、手招きする。
テーブルには、カレー皿と、ブロッコリー等の茹《ゆ》で野菜、切られたハムやポール状のウインナー、ゆで卵が盛られた大皿が置かれている。
「その前に、総理からバサラ将軍の申し出についての回答があったから、AINEで真宮寺君に送っておくよ」
「まだ電話は通じへん? 地震の時みたいに、しばらくはあかんのかな?」
「非常通信帯域使用の携帯借りてきたから、話そうと思えば通じるかもしれない。けど、写真撮って送った方が早いから」
友兼は、手にしたコピー用紙をパラパラと揺らして、その量を見せる。
そして、何か思いついたかのように、雛菊を見る。
「あ、ごめん。家に電話とかしたかった? 友達とか」
質問に、雛菊はちょっとびっくりした顔をする。
「ううん、ありがとう、せんせぇ。そやけど、電話番号とか覚えてへんし」
「最近の子は、家の番号とか覚えないか」
「そうそう。110番と119番しか知らへんもん」
「警察の人に聞けば、なんとかなるかも?」
「そっか~。それやったら、うち、うちには電話してみたいかも。こんなことになってるから、一応、無事か心配やし」
「よし、じゃあ、聞いてみよう」
「あ、その前に……」
「……?」
「カレーお代わりできるかなぁ?」
雛菊は、ぺろりと舌を出し、きれいにさらわれたカレー皿を友兼に見せた。
「……強いねぇ」
「そら、うちかて異世界で切ったはったしてきたもん」
そんな少女の様子に、つい友兼は、雛菊の頭をポンポンと撫でる。
そして、自分のしたことに驚いたように手を離すと、係の警察官へカレーのお代わりについて尋ねる。
「オッケーだって」
その答えに、雛菊はにっこり笑って席を立つ。
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