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27 報・連・相2

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 聖王国と帝国、そして王国は大陸の三大勢力だ。
 聖王国と帝国は、長きにわたり争いを続けていた。それが、魔王の代替わりにより、聖王国との間で停戦が成立した。
 停戦により残った一国、聖王国と帝国の戦争中に中立を守り続け、商業的に両者への物資売買で隆盛を極めていた王国が焦点となった。聖王国と帝国は共同で王国に対する侵攻、分割統治が提案、決議された。
 進軍は順調に進み、王国へつながる、ほぼ唯一の進路である『断絶の大隧道』を抜けた。そこには本来あるべき王国の王都ではなく、なぜか、日本の大阪城につながっていた。

「どう言う事ですか?」

「バサラ伯爵によると、おそらく、王国が窮余の策として、トンネルの出口を異次元と接続させたのだろうとの事です」

「その世界だと、そんなこともできるのですか?」

「いえ、極々例外を除けば、無理だそうです」

「では、どういこうことでしょう?」

「例外手段をとったのだろう、と。
 天使みたいな、神使と呼ばれる絶大な魔法の力を持つ存在を用いたのだろうという事です。向こうの世界の最終兵器かつ信仰の対象らしいです。だから、その存在をすり潰すような行いは想像だにできなかった、とのことです」

「ほう」

 モニター越しの桂総理は、テーブルに置かれた用紙にメモを書き入れながら、友兼の報告を聞いている。




 雛菊やミシェルたちと別れて、友兼が案内されたのは、作戦指令を行う本部指令センター室。
 多くの色分けされたビブスを付けた警官たちがパソコンと睨み合っていたり、無線で連絡を取り、走り回っている中に、今戦っている兵士の鎧を着た友兼が部屋に入って来たので、一瞬、室内が静まり返った。

「ようこそおいでくださいました。友兼先生!」

 静寂は、一番奥の席の偉そうな人物が立ち上がり声をかける事で破られた。それをきっかけに、職員たちもすぐに自分たちの仕事に戻っていく。

「本部長の東野です。よくぞ、生きておられましたな。中条警務部長から先生の果敢な行動を聞いております」

「友兼です。中条さんたちはご無事ですか?」

「今のところは。
 それより、政府から連絡を頂いております。まずは、どうぞこちらへ」

 本部長に誘われて、ガラス越しに隣接する部屋へ招き入れられる。ガラス張りの壁に隔てられた部屋に入ると、センターの音声はマイクで拾えるが、こちらの声は部屋の外へは漏れないようになっている。

「官邸へ、友兼先生が到着された旨、連絡しろ」

 友兼は、モニターの設置されたテーブルに案内される。

「現状は、どんな感じですか?」

「現在、大阪市民に対しては、広域避難場所への退避を要請している状態ですが、中央区、城東区、都島区、東成区、天王寺区の市民には、区域外への退避勧告を府庁の方で検討しております」

 待つ間、友兼の前に、コーヒーが差し出される。

「ただ、知事・市長が二人とも行方不明の為、決断が滞っているのが実情です。警察としましては、退避勧告検討区域の住民にパトカーで退去の呼びかけ、市民の誘導を行っていますが……
 いかんせん、人が足りません。テロリストが、四方八方へ散らばっておりますので、囲い込み、防衛線の構築、市民の救助、状況把握に人手が必要となっています」

 センターの大きなモニターには、大阪市内の地図が表示されている。おそらく、報告のごとに増える赤い光点が、発見された敵の位置だろう。

「総理来られました!」

 友兼の前のモニターを注視していた職員が声をあげる。壁だけが映し出されていたモニターに、青いスーツに赤のネクタイを締めた桂晋之介総理が席につく様子が映し出されている。

「友兼君、今回は、大変なご苦労をされたようですね」

 開口一番、桂がねぎらいの言葉をかける。

「総理、このようなお忙しい状況でお時間を頂き、ありがとうございます」

「忙しいのは、このような非常事態です。皆、同様です。
 概要は、吉田さんに聞きましたが、詳しく教えていただけますか?」

 桂の目がカメラではなく、一度左の方を向いた。おそらく、画面には映らないが、吉田副総理も同席しているのだろう。

「はい。見聞きした限りをお話しします」

 友兼は、これまでのことを話し始めた。




 友兼の説明を聞いた桂は、しばし瞑目し、考えをまとめる。

「わかりました。すぐに、自衛隊を出動させます。
 三吉君、治安出動・・・・を発令します。用意をお願いします」

 桂は、モニターに映らない場所で控えている秘書官に命じる。

「総理! 防衛出動をお願いします!
 武器の使用を少しでも躊躇ためらったら、死にます!
 自衛隊員はもちろん、市民に被害がでます!」

 友兼が声を上げる。

「桂首相! 時期尚早です!」

「友兼議員の話が本当ならば、防衛出動が必要です」

「まずは情報の裏付けが必要です!」

 モニターの向こうで、賛成と反対の声が一挙に上がっている。

「友兼君、君の言いたいことはわかります。皆も、私の考えを聞いてください」

 桂は、画面の向こう側で、友兼だけでなく、その場に同席しているものに対しても落ち着くように手で示している。

「確かに、異世界であれ、国家という事であれば、防衛出動は可能でしょう。
 その場合、日本は、聖王国や帝国に対し武力を行使することになります。
 その状況に至ったとき、諸外国はどのような対応をとるでしょうか?
 敵となるのは、魔法や地球とは異なる生命体、環境が存在する世界の国家です。その世界には、どのような資源があるでしょうか? 貴金属はもちろん、石油、レアメタル、未知の金属がどれほどあるのでしょう。地球に無い生命は、新しい薬や抗生物質、食料を生み出す可能性があります。同時にウイルスや細菌も。
 相手を国家とした場合、アメリカや中国、ロシアといった国々が、国連を動かし、日本に対する救援を名目に平和維持活動と称して軍を進めることが考えられます。
 けれど、中国やロシアの軍が、日本国に入ることは認められません。
 もちろん可能性です。
 無いかもしれない。また、逆に、自衛隊へ防衛出動を出さなかったことの方が、結果的に多くの被害を生むかもしれません。
 それでも、私は、日本国の内閣総理大臣として、治安出動こそが正しい選択だと信じ、決断いたしました」

 会見の場でもないというのに、この人は、常に丁寧な言葉遣いと真摯な姿勢だな、と友兼は、桂に抱いていた思いを新たにする。
 例えば、未知のウイルスが発生し、世界にパンデミックが起こった場合。
 国のトップの政治家は、
 1、経済を止めて、都市を封鎖することによりパンデミックを抑える決断をするか
 2、経済を優先し、パンデミックを受容する。その代わり集団免疫を獲得し、ウイルスに対しては自然に収まることを待つ。
 上記の1か2か、その間の、ある程度経済を止め、ある程度ウイルスの流行を受容する、という決断をすることになる。
 ウイルスの致死率によるが、パンデミックによる死者は発生する。但し、経済が止まれば、生活できなくなる人も続出する。失業率が1パーセント上昇すれば、1000人の自殺者が生まれる。
 どちらにしろ死者は出る。
 その政策決定の責任をとるのが、トップの政治家の役目だ。
 いずれの決断をしても批判されるのが、トップの政治家だ。
 それ以外の人間は、意見を言い、批評できるが、決断と責任を持つことはできないし、その立場ではない。

「わかりました。ですが、自衛隊員たちが武器の使用をためらわないで済むような指示をお願いします」

 友兼は、首相の決意に、自論を通すことを諦める。

「ええ」

 モニター越しに、首相は友兼の目を見てうなずくと会議室内を見渡すように見る。

「友兼君の話についての情報確認が必要との意見も理解できます。けれど、これまで入った事件やテロリスト情報からも、友兼君の話は信用に値すると考えます。
 私は、決断致しました。ご理解をお願いします」

(そういえば、魔法見せるの忘れてたな)

 信用してもらうために、魔法でも見せるかという話を吉田副総裁と話していたを思い出す。

(でも、まだライターくらいの火しか出せないから、あのミニ骸骨でも見せた方が信用してもらえそう)

「伊藤さん、治安出動の準備をお願いします」

「私は、反対です」

 けれど、その決断に断固として反対する声が上がった。
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