19 / 50
19 お出かけ
しおりを挟む
警察本部へ行かないといけない事を相談したとき、バサラは、即座に自分の配下に紛れさせて連れていくことを提案した。また、交渉条件について成否に関わらず、情報は伝えていい。友兼も、将軍のもとに戻ってくる必要はないとの許可を出した。
破格の条件といえる。
つい本音が聞いてみたくなるのも当然だろう。
正直な質問に、化粧をした青年はほがらかに笑って答えた。
『あなたとあなたたち、この日本国の信頼が欲しいの。今回の戦争で、聖王国も帝国にも、大きな嵐が襲うことになるわ。せっかく、平和への道筋が開けたばかりだったから、より大きな揺り戻しね。そんな中で頼れるのは、あなた達と判断したの』
ほんの少しの情報で、よくそんな判断が出来るものだと友兼は内心舌を巻いて聞いてた。
「よくそんな、大きな賭けが出来ますね」
『あたし、博打って大好きなの。それに、賭けるのは、あたしの命だけだしね。下手したら、家族にも被害出るかもしれないけど、あの人たちなら乗り切るわ』
「大胆な作戦で有名な将軍なんですよ」
訳しながら、勇者・真宮寺も、バサラの大胆さを肯定していた。
『あなたも、あたしと一緒でしょ。仲間のために、簡単に命をかけて。”とらっく”とか言うので、無謀な突撃したんでしょう? そんな人、好きなの』
にこやかに唇が触れんばかりの距離に顔を寄せて、バサラは、友兼の瞳を覗き込んだ。
(キスされるかと思った……)
その後、鎧を着せてもらい、出発の準備が整った天幕の中。
イチャイチャする将軍と副官の様子を見ている間に、回想していた友兼だったが、衣装の方は、近習の手により細身の剣を腰に下げられ、短マントを肩にかけられ、あとは兜を被るのみとなる。
「あ、真宮寺君、これを渡しておく」
脱いだスーツの中から、スマホとは別にガラケーを取り出す。
「2台持ちなんですね?」
「うん、こっちのほうが充電持つしね。使い方わかるよね?」
公衆電話が使えない子供もいると聞いているので、ジェネレーションギャップが心配になる。
「あ……たぶん? 使ったことないですけど」
(あ、時代だね……)
「じゃあ、スマホを渡しとくね」
改めて、スマホを取り出し、誠に渡す。
「ありがとうございます」
「おっけ。何かあったら、連絡して。ボクも、交渉の結果わかったら連絡するから」
「はい!」
スーツから財布も取りだした友兼は、近習に動作で鎧の隠し(ポケット)を教えられ、その中にガラケーと共に収めた。
準備が整うとバサラと真宮寺に見送られながら、天幕を出た。
スーツから軽装鎧に着替えさせられた友兼は、聖王国軍の軍中を徒歩で進む。周りには、バサラ将軍の副官に率いられた親衛の兵。隣を歩くのは、聖女の葵雛菊。彼女は、ローブを純白の聖女の装束から、魔道士のローブに着替えている。
揃いの真紅の鎧を着た集団に気づくと、聖王国の兵たちは慌てて道を譲る。
(無人の野を行くが如し?)
兵たちの道の譲り方が、人垣が割れるような様子に、そんなことを思う。
しばらく公園内を進むと、周囲を埋める兵が人間からゾンビの集団に代わってゆく。けれど、アンデッドたちも、意思があるかのように、友兼たちの一団が近づくと道を作るように避けてくれる。ただし、ゆっくりとだが。
『軍中を進むのは、容易だろう。問題は、前線に近づき、第一軍の騎兵や歩兵たち戦いの場をどうすり抜けて敵陣、日本警察の陣地に入るかの一点だ』
との話だった。
独断専行。縦横無尽。傲岸不遜と呼ばれるのが真紅の軍団。バサラの直轄兵。だが、結果を出しているゆえに、彼らの行動に嘴《くちばし》を入れる者は少ない。一般の指揮官ではありえないし、将軍クラスでも、後々の面倒を考え放置されるだろう、との言葉通りだった。
なので、最初は緊張していた友兼も、自然と緊張は薄れていた。
だから、あまり気にしなかった。ゾンビからスケルトンたちの集団に代わり、しばらく進むと、そのスケルトンたちの雰囲気が変わってきたときから、前を行く副官と親衛たちに緊張が生じてきたことも。最初は、見慣れてても、アンデッドに忌避感あるのかな、と思っていた。
けれど、そのアンデッドたちの様子が違う。
腕が4本になり、頑丈そうな体つきであったり。骸骨が、人間では無く爬虫類の形状であったり。白ではなく、黒い骨。ただ窪んでいた眼窩に青い光を宿していたり、と、それまでのスケルトンとは様子が違ってきている。
更に遠くに、明らかに今までと異なる集団が見える。体長2メートルを優に超える黒い鎧の群れ。漆黒の両手剣を片手に握り、空いた手には体長に近い大きさの鉄の楯。骨に皮膚だけを張り付けたような顔もまたマットなブラック。異なる色は、赤く人魂のように光る瞳のみ。
『まずい。なぜ、あのお方が……』
ギリギリと歯噛みする音が聞こえてきそうなミシェルの呟きが耳に届く。
(はい、フラグ頂きました!)
悪い予感に、友兼は、心の中で頭を抱える。
破格の条件といえる。
つい本音が聞いてみたくなるのも当然だろう。
正直な質問に、化粧をした青年はほがらかに笑って答えた。
『あなたとあなたたち、この日本国の信頼が欲しいの。今回の戦争で、聖王国も帝国にも、大きな嵐が襲うことになるわ。せっかく、平和への道筋が開けたばかりだったから、より大きな揺り戻しね。そんな中で頼れるのは、あなた達と判断したの』
ほんの少しの情報で、よくそんな判断が出来るものだと友兼は内心舌を巻いて聞いてた。
「よくそんな、大きな賭けが出来ますね」
『あたし、博打って大好きなの。それに、賭けるのは、あたしの命だけだしね。下手したら、家族にも被害出るかもしれないけど、あの人たちなら乗り切るわ』
「大胆な作戦で有名な将軍なんですよ」
訳しながら、勇者・真宮寺も、バサラの大胆さを肯定していた。
『あなたも、あたしと一緒でしょ。仲間のために、簡単に命をかけて。”とらっく”とか言うので、無謀な突撃したんでしょう? そんな人、好きなの』
にこやかに唇が触れんばかりの距離に顔を寄せて、バサラは、友兼の瞳を覗き込んだ。
(キスされるかと思った……)
その後、鎧を着せてもらい、出発の準備が整った天幕の中。
イチャイチャする将軍と副官の様子を見ている間に、回想していた友兼だったが、衣装の方は、近習の手により細身の剣を腰に下げられ、短マントを肩にかけられ、あとは兜を被るのみとなる。
「あ、真宮寺君、これを渡しておく」
脱いだスーツの中から、スマホとは別にガラケーを取り出す。
「2台持ちなんですね?」
「うん、こっちのほうが充電持つしね。使い方わかるよね?」
公衆電話が使えない子供もいると聞いているので、ジェネレーションギャップが心配になる。
「あ……たぶん? 使ったことないですけど」
(あ、時代だね……)
「じゃあ、スマホを渡しとくね」
改めて、スマホを取り出し、誠に渡す。
「ありがとうございます」
「おっけ。何かあったら、連絡して。ボクも、交渉の結果わかったら連絡するから」
「はい!」
スーツから財布も取りだした友兼は、近習に動作で鎧の隠し(ポケット)を教えられ、その中にガラケーと共に収めた。
準備が整うとバサラと真宮寺に見送られながら、天幕を出た。
スーツから軽装鎧に着替えさせられた友兼は、聖王国軍の軍中を徒歩で進む。周りには、バサラ将軍の副官に率いられた親衛の兵。隣を歩くのは、聖女の葵雛菊。彼女は、ローブを純白の聖女の装束から、魔道士のローブに着替えている。
揃いの真紅の鎧を着た集団に気づくと、聖王国の兵たちは慌てて道を譲る。
(無人の野を行くが如し?)
兵たちの道の譲り方が、人垣が割れるような様子に、そんなことを思う。
しばらく公園内を進むと、周囲を埋める兵が人間からゾンビの集団に代わってゆく。けれど、アンデッドたちも、意思があるかのように、友兼たちの一団が近づくと道を作るように避けてくれる。ただし、ゆっくりとだが。
『軍中を進むのは、容易だろう。問題は、前線に近づき、第一軍の騎兵や歩兵たち戦いの場をどうすり抜けて敵陣、日本警察の陣地に入るかの一点だ』
との話だった。
独断専行。縦横無尽。傲岸不遜と呼ばれるのが真紅の軍団。バサラの直轄兵。だが、結果を出しているゆえに、彼らの行動に嘴《くちばし》を入れる者は少ない。一般の指揮官ではありえないし、将軍クラスでも、後々の面倒を考え放置されるだろう、との言葉通りだった。
なので、最初は緊張していた友兼も、自然と緊張は薄れていた。
だから、あまり気にしなかった。ゾンビからスケルトンたちの集団に代わり、しばらく進むと、そのスケルトンたちの雰囲気が変わってきたときから、前を行く副官と親衛たちに緊張が生じてきたことも。最初は、見慣れてても、アンデッドに忌避感あるのかな、と思っていた。
けれど、そのアンデッドたちの様子が違う。
腕が4本になり、頑丈そうな体つきであったり。骸骨が、人間では無く爬虫類の形状であったり。白ではなく、黒い骨。ただ窪んでいた眼窩に青い光を宿していたり、と、それまでのスケルトンとは様子が違ってきている。
更に遠くに、明らかに今までと異なる集団が見える。体長2メートルを優に超える黒い鎧の群れ。漆黒の両手剣を片手に握り、空いた手には体長に近い大きさの鉄の楯。骨に皮膚だけを張り付けたような顔もまたマットなブラック。異なる色は、赤く人魂のように光る瞳のみ。
『まずい。なぜ、あのお方が……』
ギリギリと歯噛みする音が聞こえてきそうなミシェルの呟きが耳に届く。
(はい、フラグ頂きました!)
悪い予感に、友兼は、心の中で頭を抱える。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる