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<21・誰が為の怒り>
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しん、と静まり返った部屋に沈黙が落ちる。やがて響きだしたのは、幼いドロテとイレネーの嗚咽である。
貴美華はぎゅっと拳を握り締めた。自分はアルベリクの話を聞いただけの立場だが、それでも充分伝わってくるものはある。彼らは、心の底から創造主である真田孝之介を愛していた。そして、彼が幸せであることを、その物語が人々に愛され続けることを、ただそれだけを祈っていたに過ぎなかったのだと。
ところが、狂信者の手によってその希望はあっさりと打ち砕かれた。
さらには、主亡き後に取り残されていた付喪神のことさえも、彼らは奪っていったのである。恐らく、久遠がこの部屋から勝手に持ち出していったものは、既に付喪神化したものか付喪神になる可能性が高いと見込まれた物であったのだろう。
どうやって付喪神化させるのか?恐らく、それは儀式によって殺害した真田孝之介の力を使って、ということになるのだろう。恐らく、真田孝之介は“物語”を書くことで物に魂を与え、意思を目覚めさせ、付喪神として短期間で顕現させる才能を持っているのだ。拘束した真田孝之介を使役霊として物語を書かせ続けることにより、付喪神達を増やしていく――恐らくそれが、久遠正貴の狙いなのだろう。
全ては、真田孝之介の物語――付喪神融合計画を実行するために。
「ぼ、僕も……真田孝之介って人の手によって付喪神になったのかな……力を与えられて、付喪神融合計画を行う一人として。殺し合いを、させられるために……」
チョコの声が、どんどん沈んだものに変わっていく。貴美華は何も言うことができなかった。恐らくその予想で正しい。ただ、疑問は残るのだ。この家にある付喪神と道具だけでは、融合計画の実行に足らなかったというのはわかる。ゆえに他のところからも、付喪神になり得る道具を持ち出してこなければならなかったのだろうということも。
だが、そうなるとチョコの本体は一体今何処にあって、何処から持ち出されたものであるのかが非常に気になるところなのだ。
婚約指輪がこの家の玄関先に埋められていたことを考えると、この家の敷地内にはチョコのみならず多くの付喪神の礎が埋め込まれていそうな気がしてならないのだが。ならばチョコの本体も、この家のどこかにあるということなのだろうか。
だが、それならばそれで。何故チョコは、記憶を失った状態でこの翠子住宅をさまよっていたのだろう。彼が記憶を失って、久遠正貴の呪縛から逃れたのは――さすがに久遠の計画の内であったとは思えないのだが。
「……私は、敬愛する主を救うことができなかった。同じ、付喪神の仲間たちが攫われることを引き止めるのも……」
唇を噛み締め、はらはらと涙を零しながらアルベリクは告げる。
「幸い、私達は特に先生と結びつきの強い付喪神でした。三人で力を合わせて、今日の今日までどうにか久遠を追い払うことに成功していたのです。私達の本体はこの部屋にあるし、この部屋にいる限り最も力を発揮することができるますからね。ただ、もうこの部屋に残っている付喪神さえ私達だけになってしまった。次に襲来があったら、そして敵になるのがかつての仲間達であったなら……私達はもう防ぐ手立てがなかったかもしれません」
「アルベリク……」
「どれだけ荒れ果てようと、この書斎は私達の故郷。私達はこの部屋だけでも守りぬく義務があるのです。それが今、私達が生きている唯一無二の理由であるようなものですから。そもそもこの書斎を離れてしまったら、私達は本来の力を発揮することができなくなってしまう。……どれほど久遠が憎たらしくても、自分達の手で仇を討つことができなかったのはそういうことです。……ですから、貴女達が……どうやら久遠の仲間ではなさそうだと分かっていながら襲撃させていただきました。その力を試すために」
合点が行った。確かにアルベリク達は貴美華達を襲ってきたが、攻撃の意思はあれ殺意はほとんど感じなかったのである。特に、ほとんど無力であったチョコが無傷で戦闘を終えている理由。それは彼と相対したイレネーが全く本気を出していなかったからに他ならないだろう。
彼らは、本当はずっと待っていたのだ。
自分達の代わりに――久遠正貴を討ち取り、仇討ちを成し遂げてくれる者が現れることを。
だが、その人物が全く戦えない者であったなら意味がない。どうにか自分達は、彼らのお眼鏡に叶うだけの実力を見せることができたということらしい。正直なところ、貴美華がどうのというより、純也が凄かっただけという気がしないでもないけれど。
「……酷い話ですね。一体それのどこがファンなのか。久遠正貴……自分の望みを憧れの人が叶えてくれないからって、強引に儀式の生贄にして操り人形にしようだなんて……!」
純也は、怒りにわなわなと拳を握りしめている。
「それ結局ストーカーの思考でしょ。あるいはモラハラ夫か妻!ええ、現代的に一番許せないタイプです、殴っていいですか、百発くらい!」
「おおう、純也脳筋思考。いいぞもっとやれ」
「わかりました、百発といかず千発行きます!俺も貴美華さんも迷惑かけられてますし、チョコ君を無理やり連れてきたってだけでも万死に値します!」
これがこの子の良いところだよなあ、と貴美華は思う。彼は、人のために喜ぶことも怒ることも躊躇しない。どこまでも素直で真っ直ぐな少年だ。だからこそ、生きていた頃も死んだ後も、いろんな者達に愛されるのだろう。
そう思えば思うほど――彼が既に死者である現実がやるせなくてたまらなくなるのだが。
「……僕のために、怒ってくれるの?」
チョコは少しだけ、眼を潤ませて告げた。そんなチョコの頭を、よしよしと撫でる純也。
「勿論です!ていうか、チョコ君も怒りましょう、一緒に殴りましょう!」
「……純也さん。ありがと……」
「だから!純也でいいって言ってるのにー!」
そんな純也の様子に、少しだけ気分が軽くなったのか。アルベリクが涙を拭ってくすくすと笑う。暗い雰囲気をあっさり吹き飛ばしてしまう純也。自分には勿体無いパートナーだなと貴美華は心の底から思う。
「……話を戻すんだけどさ。チョコの本体が、この家の敷地内か、近くにある可能性は高いとアタシも思うんだ」
貴美華はぐるり、と書斎を見回す。
実はさっきチョコがイレネーともみ合いになった時、チョコはイレネーに手加減されていたとはいえ、力負けしていた様子がなかったのである。勿論元々イレネーは力で戦うタイプではなく、物語の設定的にも非力ではあるのだろうが。それでも彼の本体は、書斎の中にあり、最も能力が発揮できる状態であったのは間違いないのだ。本来ならば、それだけでチョコを力でねじ伏せられていてもおかしくなかったはずなのである。
それが、手加減があったとはいえある程度拮抗できたということは。やはりチョコの本体が敷地内にあり、チョコの能力値も上がっていた結果であるような気がしてならないのだ。
この屋敷の中は、瘴気やらいろいろな霊力の気配やらでぐちゃぐちゃになっていて、強く意識をしなければ非常に探知がしづらいのだが。大体のアタリをつければ、貴美華が本体を探し当てることも可能であるはずだ。
「アルベリク。お前はずっとこの家の書斎にいたんだよな?でもって書斎の窓からは庭もしっかり見える位置だ。……付喪神達が攫われると同時に、この家の庭や家の中の他の部分に道具達が埋められる現場とか、目撃してないか?多分何度も、久遠かその部下がこの家に隠しに来てると思うんだけど」
そう口にすると、アルベリクの表情が露骨に曇った。これは、と貴美華は眉を顰める。言いづらい理由があって黙っていた顔だ、と直感的に理解したためだ。
「……実は。この家の道具達を拉致していく時に……久遠はワゴン車に、様々な道具を積み込んで来たんです。持ってきた道具をこの家に置いていって、代わりにこの家の付喪神達やその候補を連れて行くということをしていました」
「やっぱりそうか、それで……」
「この家に置いて行かれる道具達は、みんな共通点があったんです。……私が見る限り、どの道具も……恐らく破損や汚損して、捨てられていたものばかりであったかと」
声を、失った。思わずチョコの方を振り返ってしまう。
くりくりとした可愛らしい見た目の少年は、眼をまん丸に見開いで固まっていた。何故アルベリクが口を噤んでいたのか、それを理解してしまったがために。
「……僕が、捨てられてたってこと?捨てられて、ゴミ捨て場から連れてこられてたってこと?」
自分で口にしてしまった彼は、血の気の引いた顔で、それ以上声も出せずに佇んだ。そんなわけない、と反射的に口にしようとして、貴美華は理解してしまう。
恐らく、久遠正貴は付喪神融合計画を、秘密裏に行おうとしていたのだろう。とすれば、自分達がやっていることがギリギリまで表に出るようなことがあってはならない。よその家庭でまだ使われている道具や、大事にされている道具を盗むようなことがあってはすぐに事態が発覚してしまうだろう。そもそもよくよく考えてみれば、彼らにとっては“人間に愛着があり、人間に反発しにくい”道具が付喪神になっても、自分たちの思い通りに動いてくれる可能性は低いのではないか。
ならば付喪神化させるのは、強い意思を持ちながら――人間に牙を剥いてくれそうな存在。
つまり、捨てられた道具、を選ぶのが筋なのではないか。
――そうだ、なんで気づかなかったんだ。……チョコがいくら綺麗で可愛い姿をしてるからって……本体も今も同じ姿である可能性は低い。そして、久遠からすれば……持ち主が探しに来ない道具を選んだ方が圧倒的に自分達に有利に働くじゃないか……!
「……私は、全ての道具を確認したわけじゃない。だから、もしかしたらゴミ捨て場から拾われたわけではない道具も混じっていたかもしれません」
そんなチョコを憐れむように、それでも僅かな希望を持たせたいとでもいうかのようにアルベリクは口を開いた。
「恐らく全ての道具が付喪神になれたわけではないし、付喪神になれても力の弱い者が殆どだったのでしょう。だから気配も弱い。しかし……あの男が道具達の多くを何処に隠していたのかは、窓から見ていたので知っています。……庭の池の中に、もしかしたらチョコさんの本体もいるのかもしれません」
貴美華はぎゅっと拳を握り締めた。自分はアルベリクの話を聞いただけの立場だが、それでも充分伝わってくるものはある。彼らは、心の底から創造主である真田孝之介を愛していた。そして、彼が幸せであることを、その物語が人々に愛され続けることを、ただそれだけを祈っていたに過ぎなかったのだと。
ところが、狂信者の手によってその希望はあっさりと打ち砕かれた。
さらには、主亡き後に取り残されていた付喪神のことさえも、彼らは奪っていったのである。恐らく、久遠がこの部屋から勝手に持ち出していったものは、既に付喪神化したものか付喪神になる可能性が高いと見込まれた物であったのだろう。
どうやって付喪神化させるのか?恐らく、それは儀式によって殺害した真田孝之介の力を使って、ということになるのだろう。恐らく、真田孝之介は“物語”を書くことで物に魂を与え、意思を目覚めさせ、付喪神として短期間で顕現させる才能を持っているのだ。拘束した真田孝之介を使役霊として物語を書かせ続けることにより、付喪神達を増やしていく――恐らくそれが、久遠正貴の狙いなのだろう。
全ては、真田孝之介の物語――付喪神融合計画を実行するために。
「ぼ、僕も……真田孝之介って人の手によって付喪神になったのかな……力を与えられて、付喪神融合計画を行う一人として。殺し合いを、させられるために……」
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だが、それならばそれで。何故チョコは、記憶を失った状態でこの翠子住宅をさまよっていたのだろう。彼が記憶を失って、久遠正貴の呪縛から逃れたのは――さすがに久遠の計画の内であったとは思えないのだが。
「……私は、敬愛する主を救うことができなかった。同じ、付喪神の仲間たちが攫われることを引き止めるのも……」
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「幸い、私達は特に先生と結びつきの強い付喪神でした。三人で力を合わせて、今日の今日までどうにか久遠を追い払うことに成功していたのです。私達の本体はこの部屋にあるし、この部屋にいる限り最も力を発揮することができるますからね。ただ、もうこの部屋に残っている付喪神さえ私達だけになってしまった。次に襲来があったら、そして敵になるのがかつての仲間達であったなら……私達はもう防ぐ手立てがなかったかもしれません」
「アルベリク……」
「どれだけ荒れ果てようと、この書斎は私達の故郷。私達はこの部屋だけでも守りぬく義務があるのです。それが今、私達が生きている唯一無二の理由であるようなものですから。そもそもこの書斎を離れてしまったら、私達は本来の力を発揮することができなくなってしまう。……どれほど久遠が憎たらしくても、自分達の手で仇を討つことができなかったのはそういうことです。……ですから、貴女達が……どうやら久遠の仲間ではなさそうだと分かっていながら襲撃させていただきました。その力を試すために」
合点が行った。確かにアルベリク達は貴美華達を襲ってきたが、攻撃の意思はあれ殺意はほとんど感じなかったのである。特に、ほとんど無力であったチョコが無傷で戦闘を終えている理由。それは彼と相対したイレネーが全く本気を出していなかったからに他ならないだろう。
彼らは、本当はずっと待っていたのだ。
自分達の代わりに――久遠正貴を討ち取り、仇討ちを成し遂げてくれる者が現れることを。
だが、その人物が全く戦えない者であったなら意味がない。どうにか自分達は、彼らのお眼鏡に叶うだけの実力を見せることができたということらしい。正直なところ、貴美華がどうのというより、純也が凄かっただけという気がしないでもないけれど。
「……酷い話ですね。一体それのどこがファンなのか。久遠正貴……自分の望みを憧れの人が叶えてくれないからって、強引に儀式の生贄にして操り人形にしようだなんて……!」
純也は、怒りにわなわなと拳を握りしめている。
「それ結局ストーカーの思考でしょ。あるいはモラハラ夫か妻!ええ、現代的に一番許せないタイプです、殴っていいですか、百発くらい!」
「おおう、純也脳筋思考。いいぞもっとやれ」
「わかりました、百発といかず千発行きます!俺も貴美華さんも迷惑かけられてますし、チョコ君を無理やり連れてきたってだけでも万死に値します!」
これがこの子の良いところだよなあ、と貴美華は思う。彼は、人のために喜ぶことも怒ることも躊躇しない。どこまでも素直で真っ直ぐな少年だ。だからこそ、生きていた頃も死んだ後も、いろんな者達に愛されるのだろう。
そう思えば思うほど――彼が既に死者である現実がやるせなくてたまらなくなるのだが。
「……僕のために、怒ってくれるの?」
チョコは少しだけ、眼を潤ませて告げた。そんなチョコの頭を、よしよしと撫でる純也。
「勿論です!ていうか、チョコ君も怒りましょう、一緒に殴りましょう!」
「……純也さん。ありがと……」
「だから!純也でいいって言ってるのにー!」
そんな純也の様子に、少しだけ気分が軽くなったのか。アルベリクが涙を拭ってくすくすと笑う。暗い雰囲気をあっさり吹き飛ばしてしまう純也。自分には勿体無いパートナーだなと貴美華は心の底から思う。
「……話を戻すんだけどさ。チョコの本体が、この家の敷地内か、近くにある可能性は高いとアタシも思うんだ」
貴美華はぐるり、と書斎を見回す。
実はさっきチョコがイレネーともみ合いになった時、チョコはイレネーに手加減されていたとはいえ、力負けしていた様子がなかったのである。勿論元々イレネーは力で戦うタイプではなく、物語の設定的にも非力ではあるのだろうが。それでも彼の本体は、書斎の中にあり、最も能力が発揮できる状態であったのは間違いないのだ。本来ならば、それだけでチョコを力でねじ伏せられていてもおかしくなかったはずなのである。
それが、手加減があったとはいえある程度拮抗できたということは。やはりチョコの本体が敷地内にあり、チョコの能力値も上がっていた結果であるような気がしてならないのだ。
この屋敷の中は、瘴気やらいろいろな霊力の気配やらでぐちゃぐちゃになっていて、強く意識をしなければ非常に探知がしづらいのだが。大体のアタリをつければ、貴美華が本体を探し当てることも可能であるはずだ。
「アルベリク。お前はずっとこの家の書斎にいたんだよな?でもって書斎の窓からは庭もしっかり見える位置だ。……付喪神達が攫われると同時に、この家の庭や家の中の他の部分に道具達が埋められる現場とか、目撃してないか?多分何度も、久遠かその部下がこの家に隠しに来てると思うんだけど」
そう口にすると、アルベリクの表情が露骨に曇った。これは、と貴美華は眉を顰める。言いづらい理由があって黙っていた顔だ、と直感的に理解したためだ。
「……実は。この家の道具達を拉致していく時に……久遠はワゴン車に、様々な道具を積み込んで来たんです。持ってきた道具をこの家に置いていって、代わりにこの家の付喪神達やその候補を連れて行くということをしていました」
「やっぱりそうか、それで……」
「この家に置いて行かれる道具達は、みんな共通点があったんです。……私が見る限り、どの道具も……恐らく破損や汚損して、捨てられていたものばかりであったかと」
声を、失った。思わずチョコの方を振り返ってしまう。
くりくりとした可愛らしい見た目の少年は、眼をまん丸に見開いで固まっていた。何故アルベリクが口を噤んでいたのか、それを理解してしまったがために。
「……僕が、捨てられてたってこと?捨てられて、ゴミ捨て場から連れてこられてたってこと?」
自分で口にしてしまった彼は、血の気の引いた顔で、それ以上声も出せずに佇んだ。そんなわけない、と反射的に口にしようとして、貴美華は理解してしまう。
恐らく、久遠正貴は付喪神融合計画を、秘密裏に行おうとしていたのだろう。とすれば、自分達がやっていることがギリギリまで表に出るようなことがあってはならない。よその家庭でまだ使われている道具や、大事にされている道具を盗むようなことがあってはすぐに事態が発覚してしまうだろう。そもそもよくよく考えてみれば、彼らにとっては“人間に愛着があり、人間に反発しにくい”道具が付喪神になっても、自分たちの思い通りに動いてくれる可能性は低いのではないか。
ならば付喪神化させるのは、強い意思を持ちながら――人間に牙を剥いてくれそうな存在。
つまり、捨てられた道具、を選ぶのが筋なのではないか。
――そうだ、なんで気づかなかったんだ。……チョコがいくら綺麗で可愛い姿をしてるからって……本体も今も同じ姿である可能性は低い。そして、久遠からすれば……持ち主が探しに来ない道具を選んだ方が圧倒的に自分達に有利に働くじゃないか……!
「……私は、全ての道具を確認したわけじゃない。だから、もしかしたらゴミ捨て場から拾われたわけではない道具も混じっていたかもしれません」
そんなチョコを憐れむように、それでも僅かな希望を持たせたいとでもいうかのようにアルベリクは口を開いた。
「恐らく全ての道具が付喪神になれたわけではないし、付喪神になれても力の弱い者が殆どだったのでしょう。だから気配も弱い。しかし……あの男が道具達の多くを何処に隠していたのかは、窓から見ていたので知っています。……庭の池の中に、もしかしたらチョコさんの本体もいるのかもしれません」
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