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14話 兄との会話

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よく晴れた日のこと、ティアルーナは公爵邸の広大な庭の南に位置する温室に、最近の日課である水やりをしに出向いていた。ティアルーナの為に、とアルフが大変に張り切り王国でも指折りの素晴らしい温室を作らせて贈ったのだ。今回はドーラも止めるのではなく寧ろ嬉々として外装などを追加で指示していた為、外から見ても中から見てもきらきらと光り輝いて美しい温室だった。

「お嬢様、それは以前王太子殿下にいただいた薬草ですか?」

「ええ、あの時頂いた種子が育ったのよ。」

そんな温室でティアルーナが一生懸命に手ずから世話をしているのは少し前にルードルフがティアルーナに贈ったヒュロ草の種子だった。落としてしまっては見つけられなさそうな大きさだったが、今は種が芽吹き、葉をこれでもかと山ほど生やしている。

「へえ…なんだか持ってこられた薬草とは随分、見た目が変わるのですね。 あら、でもこの国では芽吹かないと仰ってませんでしたか?」

「ええ、本来はそうなのだけど私が少し手を加えて改良したの。そしたら本来は二枚しか生えない薬草になる部分の葉がこんなに沢山芽吹いたの!」

ヒュロ草は本来、薬草として機能する葉の部分は小さく二枚生えるのみで、中々量産の難しい種類の植物だ。風邪などに即効性があり、ヒュロ草を身体に取り入れれば、小一時間後には熱が引いているという中々高い効果が見込めるにも関わらず流通していないのは、大陸の極北に位置する小国でしか芽吹かず、しかもその量も微々たるものだからという理由だったのだが、興味を持ってあれやこれやとティアルーナが手を加えるとなんと王国のこの地でも見事に芽吹いたばかりか、量産が可能な形に変化していたのだ。

「え、改良…ですか? お嬢様が?」

驚きでもって言葉に詰まるメアリにへらりと笑いかけると、ティアルーナは心底楽しそうに葉をさわと撫でた。

「そうなの。なんだかとっても楽しくて、今は趣味のようなも「ティアルーナ。」

「ひゃあっ…! お、おにい、様…?」

ぬっ、とまるで影から出てきたかのように突如背後に現れたロイスにティアルーナは恐怖と驚きから悲鳴を上げ、メアリは思わず出かかった声を手で抑えた。ぱくぱくと口を開け閉めしていたティアルーナの顔を見ずにロイスはしげしげとヒュロ草を見つめて、指を指す。

「ティアルーナ、これはお前がやったのか?」

「ヒュロ草のことでしょうか…?」

「ああ、これは『学園』でも研究対象になっていた薬草だ。気温や土、湿度が関係してその土地でしか芽吹かない植物は多々あるが、これは特別でどんなに現地の条件を似せても芽吹かず研究は中止された。それが、何故ここで大きく形を変えて葉を生している?」

他にもヒュロ草に関する膨大な知識をすらすらと喋るロイスにティアルーナの表情は次第に明るくなっていき、彼が話終える頃には手をぱちんと合わせて興奮したようにヒュロ草について話し出した。

「まあ!お兄様もご存知でいらっしゃったのですか? それはですね、こちらをご覧ください。この植物はそもそも育つ条件が……」

────────

「それで私はこれを────で、──したのです。」

「なるほど、その可能性があったか。では他のものはど「…ロイス様、お嬢様。御夕食のお時間です。」

ロイスが現れた時にはまだまだ高かった日もどんどんと落ちて、今はもう明かりがなければ辺りは真っ暗な時間になっていた。こんな時間までほんの少しも休憩せず喋り続けていたふたりだったが、流石に話しかけられると集中も途切れ、二人でふと揃って空を見上げる。

「暗いわ…メアリ。ごめんなさい、もう夕食の時間だなんて。」

「いいえ、料理長にも少し時間を遅らせるよう申し伝えておきましたので。それに、今日は旦那様と奥様もお忙しくてどうしてもお帰りになれないそうですから、今日くらいはどうぞお気になさらず。」

普段、ヴェルガム公爵家は夕食の時間が終わるとすぐに湯浴みをしてそのまま就寝となる。メアリの言う通り、もう既に普段の晩餐の時間が過ぎているのだとすれば何時もの今頃は湯浴みを終えて部屋に入っている時間だろう。まだまだ話したいとは思うもののこれ以上は不可能だ。
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