9 / 35
9話 兄帰還
しおりを挟む
期待に胸を躍らせながらティアルーナが兄の帰還を待っていると遂にその日はやって来た。本来ならば出迎えるのはティアルーナだけで、家族と言えどロイスより位の高いドーラやアルフは部屋で待って帰還の報告を待つべきなのだが、今回は三人揃って玄関ホールで今か今かとロイスの帰りを待ち侘びていた。
ティアルーナは表情や仕草、その全てから楽しみだと言う気持ちが伝わってくるし、ドーラとアルフも隠そうとしてはいるもののそわそわとした表情から隠しきれていない期待と喜びが溢れ出ていた。そんな主一家を少し離れたところから微笑ましい気持ちでメアリとその他使用人は見守っていた、少し前ならば考えることすら出来ないような暖かな光景で、取り巻く環境が不憫で何時も暗い表情だったティアルーナが笑っているなんて誰も想像できなかった頃が懐かしくさえ思える。
「だ、旦那様、少し落ち着きましょう…」
まだ開かれていない扉を見て落ち着かないようにそわそわと扉が開くのを心待ちにしている様子のアルフにドーラは若干震えている声でそう言うとアルフは緩みきった唇からこれまた震えている声で言い返した。
「それはドーラも同じことだ…それに、もうずっと会っていないのだ、落ち着けと言うのも無理な話だろう。」
「それは、そうですが…」
意味の無い、聞いているとつい頬が緩んでしまいそうな会話の応酬をする公爵夫妻に隅に控えていた扉を開ける執事は小さく咳払いをして、閉じられていた扉の向こうから馬車が止まる馬の嘶きの音を聞き取ると片方を担当する執事とタイミングを合わせて公爵家の玄関ホールの大扉を開けた。公爵家の使用人たる者が間違いなど犯すはずもなく、開かれた扉の向こうには公爵家の紋章が大きく刻まれた馬車がきちんと停まっていた。
「ロイス様のお帰りです。」
「……? 何故御二人が此処に?」
何故か使用人に持たせることなく自ら大量の荷物を抱えて馬車から降りてきたロイスはふと正面を見て居るはずのない自分の両親を見て目を見開いた。ロイスにとって、記憶はおぼろげであるもののアルフとドーラとは仲が良かったり悪かった記憶はなく、あまりに長年関わらないせいでただ事実として親なのだという考えしかなかった。しかし、公爵夫妻ともあろう者が実子で更に嫡男とはいえ出迎えるのはどの家だろうがありえない事だ。だから、ロイスがその考えに至るのはごく自然な流れだった。
「まさか…何か緊急事態ですか?」
ティアルーナは表情や仕草、その全てから楽しみだと言う気持ちが伝わってくるし、ドーラとアルフも隠そうとしてはいるもののそわそわとした表情から隠しきれていない期待と喜びが溢れ出ていた。そんな主一家を少し離れたところから微笑ましい気持ちでメアリとその他使用人は見守っていた、少し前ならば考えることすら出来ないような暖かな光景で、取り巻く環境が不憫で何時も暗い表情だったティアルーナが笑っているなんて誰も想像できなかった頃が懐かしくさえ思える。
「だ、旦那様、少し落ち着きましょう…」
まだ開かれていない扉を見て落ち着かないようにそわそわと扉が開くのを心待ちにしている様子のアルフにドーラは若干震えている声でそう言うとアルフは緩みきった唇からこれまた震えている声で言い返した。
「それはドーラも同じことだ…それに、もうずっと会っていないのだ、落ち着けと言うのも無理な話だろう。」
「それは、そうですが…」
意味の無い、聞いているとつい頬が緩んでしまいそうな会話の応酬をする公爵夫妻に隅に控えていた扉を開ける執事は小さく咳払いをして、閉じられていた扉の向こうから馬車が止まる馬の嘶きの音を聞き取ると片方を担当する執事とタイミングを合わせて公爵家の玄関ホールの大扉を開けた。公爵家の使用人たる者が間違いなど犯すはずもなく、開かれた扉の向こうには公爵家の紋章が大きく刻まれた馬車がきちんと停まっていた。
「ロイス様のお帰りです。」
「……? 何故御二人が此処に?」
何故か使用人に持たせることなく自ら大量の荷物を抱えて馬車から降りてきたロイスはふと正面を見て居るはずのない自分の両親を見て目を見開いた。ロイスにとって、記憶はおぼろげであるもののアルフとドーラとは仲が良かったり悪かった記憶はなく、あまりに長年関わらないせいでただ事実として親なのだという考えしかなかった。しかし、公爵夫妻ともあろう者が実子で更に嫡男とはいえ出迎えるのはどの家だろうがありえない事だ。だから、ロイスがその考えに至るのはごく自然な流れだった。
「まさか…何か緊急事態ですか?」
79
お気に入りに追加
6,642
あなたにおすすめの小説
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
元カレの今カノは聖女様
abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」
公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。
婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。
極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。
社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。
けれども当の本人は…
「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」
と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。
それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。
そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で…
更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。
「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」
私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
【完結】妹ざまぁ小説の主人公に転生した。徹底的にやって差し上げます。
鏑木 うりこ
恋愛
「アンゼリカ・ザザーラン、お前との婚約を破棄させてもらう!」
ええ、わかっていますとも。私はこの瞬間の為にずっと準備をしてきましたから。
私の婚約者であったマルセル王太子に寄り添う義妹のリルファ。何もかも私が読んでいたざまぁ系小説と一緒ね。
内容を知っている私が、ざまぁしてやる側の姉に転生したって言うことはそう言うことよね?私は小説のアンゼリカほど、気弱でも大人しくもないの。
やるからには徹底的にやらせていただきますわ!
HOT1位、恋愛1位、人気1位ありがとうございます!こんなに高順位は私史上初めてでものすごく光栄です!うわーうわー!
文字数45.000ほどで2021年12月頃の完結済み中編小説となります。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!
Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。
転生前も寝たきりだったのに。
次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。
でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。
何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。
病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。
過去を克服し、二人の行く末は?
ハッピーエンド、結婚へ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる