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8話 団らん

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ティアルーナの両親であるヴェルガム公爵夫妻が屋敷に帰ってきてからおよそ一週間。それだけ時間があれば若干残っていた気まずげな雰囲気もなくなりすっかり仲の良い親子関係になっており、今は公爵家自慢の庭園の中で団らん中だった。

「そうだ、ティアルーナ。もうすぐ貴方の兄が帰ってくるのよ。知ってるかもしれないけれど、ロイスという名で歳は貴方の三つ上、小さい頃から隣国の王立の『学園』に入学していて今年卒業なの。」

隣国の王立『学園』と言えば誰でも入れるようなものではなく、身分年齢出身一切問わずただ能力のみ評価される場所だ。大陸で最難関と言われるその学園に入れば、卒業後は輝かしい人生が約束されている。平民でも入ることが出来たなら卒業と共に爵位を賜ることが多く、まさしく憧れの場所だ。
そんな場所にティアルーナの兄、ロイスは僅か六歳の時に入学し、定められた在籍年月を終えても国に戻ってくることはなく研究機関に身を置いていた為、今年卒業となっていた。

「お母様。その…お兄様と私はどのくらい仲が良かったのでしょうか?」

そんな実兄、ロイスだがメアリからの以前のティアルーナの身辺情報に載っていた情報は僅かでティアルーナが知っているのは名前と年齢、そして秀才だということだけだった。果たして仲が良いのか悪いのかすら分からない状態だったので恐らく知っているだろうドーラとアルフ公爵夫妻に聞きたくてそわそわとしていた。

「そう、ね…一緒に暮らしていたのは三年間で、それ以降は会ってないわ。だから、あなたが三歳の時以来ね。」

さっと視線を逸らしながらドーラがそう答える。きちんと詳しく答えてやりたいのは山々なのだが、如何せんドーラは子供たちを放置していた時期思い出したくない黒歴史があるのでそれ以上はあまり答えられないのだ。その答えとも怪しい回答にティアルーナはさらに質問を重ねた。

「私は手紙などはやり取りしていなかったのですか…?」

していたのか、していないのか分からないドーラが半ばパニックで助けを求めるように夫であるアルフを見つめるとその視線を受けたアルフがドーラの代わりに口を開いた。

「ああ、ティアルーナが手紙を書けるようになってから一通だけ、あちらに送っていたがロイスから返事は来ていなかったな。これがそのうつしだ。」

以前よりも、大分言葉の綾というべきものがなくなってきたアルフは執事から渡された黒い箱を開けると中からさも当然といった顔で丁寧にガラス板で劣化しないように保管されていた一枚の紙を取り出す。それはティアルーナが幼い頃、隣国にいるロイスに向けて書いたらしい手紙をそっくりそのまま写し取らせたものらしく、それを聞いたティアルーナは何も考えず嬉しそうに受け取るがドーラは若干怖いものを見るような顔でアルフを見た。

「旦那様…娘の手紙を勝手に写取らせるというのは……。」

「役立っているのだから問題なかろう…まあ仲が良いとも悪いとも言えんな。三年共に生活していたと言っても殆ど接触はなかったからな、初対面とそう変わらんだろう。」

手紙をティアルーナから受け取ると再びガラス板に挟んで丁寧に仕舞いながらアルフがそう素直な意見をいえばティアルーナは少しばかり落ち込んだように視線を下げた。

「そう、ですか…」

「仲良くしたいのならロイスが帰ってきてから話をしてみればいい。」

アルフが若干照れながらそう慰めるような言葉を零すとティアルーナとドーラは嬉しそうに笑った。
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