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それは美しくない出会いであったり 2
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一年と少し前の冬。
スラムで死にかけていたローズを拾ったのが彼、キールス・グレイだった。
「惜しいなぁ、磨けば相当な美女になるだろうに」
頬でかたまった血をローブで拭いて、男は残念そうにつぶやいた。
あの時のローズといったら、娼館でたくさん折檻を受けて、ろくに傷の手当てもうけられないまま捨てられ、生きるか死ぬかのどうしようもない体をしていた。
娼館育ちともなれば、ローズの年のころにはとうに客を取っているのがふつうだ。けれどローズは幸いにも下働きのまま十八を迎えた。
理由はわかっている。自分が、この上なく醜い女だからだ。
ローズは物心ついたときから右腕が不自由で、18になった今でもほとんど動かせない。筋肉のない右半身が極端にやせ細っていて、姿勢が悪い。まるで幽鬼のようだと、女たちが囁いているのを知っている。
オマケに最近では、右脚までもが痛むのだ。
もしかしたら自分はこの先、全身が動かなくなって死ぬのだろうか。
それは恐ろしい想像だった。バレればさすがに捨てられるだろう。最低最悪の生活だが、金も身寄りもない女がひとりで生きるには必要な場所だった。
悪化し続ける体のことはなんとか隠さなければ――そう思って、底辺な暮らしにしがみついて生きていた。
けれど一方で、鬱憤と反抗心でいっぱいのローズは、客に脚を開くよりは死んだ方がましとも思っていたのだった。
自分を見下すあの女たちほど堕ちてない。そう自分に言い聞かせることが、卑小で臆病な心の唯一の支えだった。
だから、物好きな客がローズを寝台に連れ込んだときには全力で抵抗した。
動くほうの手で、脚で、泥酔した客を殴り蹴り、転がるようにして店を逃げ出した。もちろんあっけなく捕まって連れ戻され、ひどい折檻を受けた。骨が折れようが血を吐こうがおかまいなしに鞭を振るわれ、スラムに捨てられた。
冷たい道に倒れこんで見上げた空には、満天の星。
けれどそれもしだいにかすんで、見えなくなった。
ああこのまま死ぬのだ、と思っていた。
目の前に、まぶしい光が現われるまでは。
一年と少し前の冬。
スラムで死にかけていたローズを拾ったのが彼、キールス・グレイだった。
「惜しいなぁ、磨けば相当な美女になるだろうに」
頬でかたまった血をローブで拭いて、男は残念そうにつぶやいた。
あの時のローズといったら、娼館でたくさん折檻を受けて、ろくに傷の手当てもうけられないまま捨てられ、生きるか死ぬかのどうしようもない体をしていた。
娼館育ちともなれば、ローズの年のころにはとうに客を取っているのがふつうだ。けれどローズは幸いにも下働きのまま十八を迎えた。
理由はわかっている。自分が、この上なく醜い女だからだ。
ローズは物心ついたときから右腕が不自由で、18になった今でもほとんど動かせない。筋肉のない右半身が極端にやせ細っていて、姿勢が悪い。まるで幽鬼のようだと、女たちが囁いているのを知っている。
オマケに最近では、右脚までもが痛むのだ。
もしかしたら自分はこの先、全身が動かなくなって死ぬのだろうか。
それは恐ろしい想像だった。バレればさすがに捨てられるだろう。最低最悪の生活だが、金も身寄りもない女がひとりで生きるには必要な場所だった。
悪化し続ける体のことはなんとか隠さなければ――そう思って、底辺な暮らしにしがみついて生きていた。
けれど一方で、鬱憤と反抗心でいっぱいのローズは、客に脚を開くよりは死んだ方がましとも思っていたのだった。
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だから、物好きな客がローズを寝台に連れ込んだときには全力で抵抗した。
動くほうの手で、脚で、泥酔した客を殴り蹴り、転がるようにして店を逃げ出した。もちろんあっけなく捕まって連れ戻され、ひどい折檻を受けた。骨が折れようが血を吐こうがおかまいなしに鞭を振るわれ、スラムに捨てられた。
冷たい道に倒れこんで見上げた空には、満天の星。
けれどそれもしだいにかすんで、見えなくなった。
ああこのまま死ぬのだ、と思っていた。
目の前に、まぶしい光が現われるまでは。
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