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それは美しくない出会いであったり 1
しおりを挟む「ホントに行っちゃうのぉ、キールス?」
酒とタバコの香りがするあたたかなオレンジ色の光を振り返って、男は朗らかに微笑んだ。
「そう言われると、後ろ髪をひかれる思いがするよ」
「せめてもう一晩だけ、どう?」
見送りの女たちはあとからあとから尽きない。それを嫌がるふうでもなく、甘い顔をしたキールスは彼女らに向き直る。
「けれどもう充分に世話になったからね」
「ずっとずっとこの街にいればいいのにぃ。家がないならあたしたちのとこに来なって。あの子も一緒でかまわないからさぁ」
「ありがとう。けど、人を探しているんだ」
「この街にはいなかったのね。いつまで探すつもりなの? あんまりのんびりしていると、すーぐ、おじいちゃんになっちゃうわよ」
「それほど遅くはならないつもりなんだけどね。まぁ、星の導きのままに行くさ」
「嫌よ、つらいわ……私たち、貴方なしの夜なんてもう考えられないのに」
「僕だって。ターニャ、カレン、リラ、アリー、レイン、ロワンヌ、フレイア、ミレイユ、ミーナにゾフ、みんなありがとう」
十日も滞在しなかった街なのに、まさか全員の名前を憶えたのか。ローズは苛々と足元の土を蹴りつつ待ち続けた。
(毎度毎度この茶番、いつまでやるつもりなんだか)
呼ばれた女たちはとろんと甘ったるい目で愛しそうに男を見上げている。
一度でも彼を知ったら戻れなくなるの、と、どこかの街の女性が教えてくれた。彼女たちにとってキールス・グレイという男は、甘くてたちの悪いクスリなのだ。
「それからマダム・アーリーには格別の感謝を」
キールスが酒場の女主人を呼ぶと、彼を囲っていた女たちはキャッと飛び上がった。
「マダム!」
「ほら、仕事に戻るんだよ。お前たちがこれじゃあ商売にならなんだろう」
女たちは女主人に睨まれて、しぶしぶ店内に戻っていった。
「すみません、マダム。つい長居してしまって」
「まったく。あんたが来てからこの界隈の雰囲気もずいぶん変わっちまって。これからどうなることか」
気丈な女主人は鼻を鳴らし、キールスの頬に宝石だらけの指をそえた。
「ま、景気の良い客はいつでも大歓迎だけどね。また来な」
「ええ、ありがとう」
ようやく静かになったか。ローズは地面に置いていた重い荷物を片腕でよいしょと背負った。
「おまたせ、ローズ。行こうか」
彼が並び立ったころには、ローズの足元にアナウサギの巣みたいな小さな穴ができあがってしまっていた。
「うわっ!?」
つまづいたキールスがみっともなく尻もちをつく。いい気味だと思いながらも、「キールスはどんくさいね」と左手を差し出した。
「ははは、そうなんだよねえ。ローズがいないとね」
「……行くよ、夜明けまでに国境こえないと。検問でむだに時間食うの、私ぜったい嫌だからね」
「はいはい」
ふたりは夜の街道を星の導くままに進む。
西へ東へ、街から街へ。
不揃いなふたりが旅をはじめて、もうすぐ一年になる。
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