GIGA・BITE

鵤牙之郷

文字の大きさ
上 下
17 / 40
第4話【Under control…】

#4

しおりを挟む
 気がつくと、メロは大きなカプセルの中に寝かされていた。

『おはよっ! よく眠れた?』

 カプセルの中でノーラの声がした。ここは地下研究所らしい。


「これは?」

『メロ君、だいぶお疲れだったから、今メンテナンスしてたの』



 研究所には広い部屋がひとつあり、メロが横たわっているものと同じカプセルが複数設置されている。
 ここは「メンテナンスルーム」ということになっている。戦いで消耗しきったメロの体を回復させるためのもの。超獣計画が完成する前からあったもののようだ。

 他のカプセルには、この数時間でメロが弱毒化した4名のトキシムが眠らされている。ここで体内の群体の活動状況を調べている。ある程度沈静化したと確認出来た際には、病棟の病室に移送するらしい。
 今は眠ったまま。目覚めた時、人間に戻っているか、トキシムのままか、それはわからない。



「取り敢えずひと安心っすね。じゃあ、俺、もう大丈夫なので」

『メロ君が飛び出してった後、アタシ、一生懸命カメラの映像を調べて、あのおばあさん見つけて、その後も、君のことが心配で心配で、熱暴走しかけたんだよねぇ』

 ノーラの声が、いつもの明るいものから、段々と暗くなっていく。


『次、無茶したら……ただじゃ済まねぇからな?』

「すみません。すみませんでした!」

『わかればよし! じゃ、開けまーす』

 カプセルの天井がスライドして開いた。だが、メロは言いようのない恐怖を感じ、すぐには起き上がれなかった。

 迷路のように広い研究所。ノーラに案内され、メロは博士が待つモニタールームに入った。博士はあの仮面を外していた。目の下にくまが出来ている。



「起きたか」


 メロが黙って頷くと、博士は鷹海市の現状を説明した。

 組織の幹部らが飛び出した後、彼等は群体を市民に寄生させていった。
トキシム化するまでの潜伏期間にはばらつきがあるらしい。
 普段通り過ごしている民間人が、ある日突然変異を起こす可能性もあり得る。現状この町にどれくらいのトキシム予備軍がいるか、判別するのは容易ではない。



 トキシム化の経緯についてどうやって調べたのか博士は明言しなかった。
だが、トキシムが現れても、今は彼等を抑える力がある。完治するかはわからないが、今はそれを信じて動く他ない。

「お前には、しばらくここに住んでもらう」

「え?」

「お前のコンディションを整えるため、トキシムの出現にすぐに対処するためだ。それから、その左腕もどうにかして隠さないとな」

 明らかに不自然な左腕。確かにこの姿では気軽に外も歩けない。

 少し考えた末、メロはここに留まることを決めた。
 だが、その前に、

「叔母さんに連絡させてほしい」

◇◇◇

 廃病棟エントランス。


 研究所にあった服を着せてもらい、メロは地上に上がって翠に電話をかけた。電話は研究所にあったものを使った。


 時刻は朝6時。
約2週間ぶりの甥からの電話。
当然、電話口の翠から質問攻めを受けた。今どこにいるのか、無事なのか、何があったのか。

「実は、大怪我しちゃってさ」

 嘘をついた。


「家から離れた病院にいるんだけど、まだ入院してなきゃ、その、ダメっぽくて」

『入院? どこの病院? 今からそっちに行く』

「いや、駄目なんだ」

『駄目って何よ?』

「いや、その、何かヤバいウイルスが見つかってさ。感染を防がなくちゃいけないんだ」


 何かの映画で観たシーンを思い出し、嘘を広げる。


 翠が不安そうな声をあげると、申し訳ない気持ちで一杯になった。


「また元気になったら、絶対戻るから。今は安心して」

『せめて病院の場所くらい教えなさい』

「病院……あっ、あれ? 何か電波が」


 下手な芝居を打って電話を切る。
 絶対に嘘だとバレている。長年共に暮らしてきたメロの勘がそう告げている。
とは言え、こんな状態で喫茶店に帰るわけにもいかないし、トキシムらを、引いては旧組織の幹部らを止めたい気持ちがあるのも事実だ。


「ごめんな、叔母さん」

◇◇◇

 メロが電話をかけている間、博士は彼の経歴を調べていた。

 運ばれて来た時に名前や住所、直近の健康診断の結果などは調べたが、彼の過去についてまだしっかりチェックしていなかった。


 博士が見つけたのは、ある事故のニュース。メロの両親が巻き込まれた事故だった。
 これはただの記事。メロの気持ちについては記されていない。それでも、他人のために体を張る強い正義感はここから来ているのだろう、と博士は悟った。


「準備は進んでいるか?」


 開いていたページを閉じ、博士がノーラに尋ねたのは、メロの左腕を隠す方法。

 手っ取り早いのは、服やら包帯やらで物理的に隠すことだが、形が歪なので不自然に見えてしまう。
研究所に遺された技術を用いて、もっと特殊な方法で隠さなければ。

『それならまずは、メロ君のコンディションを整えないとね~』


 超獣システムの力を解放したメロ。今後も激しい戦いが繰り広げられるだろうし、その都度メロの体に負担がかかる。
 
最も危惧しているのは暴走。銃撃を受けた際、間違いなくその兆候はあった。今後暴走しないという保証はどこにもない。



「課題は山積みだな。……ところでさ」

 ここで、博士が抱いていた疑問を投げかける。

「あいつ、お前には敬語使うのに、俺にはタメ口だろ? あれ、何でかなと思ってさ」

『あー、人望無いんじゃね?』

 ノーラが適当に返した。
冷たいひと言。それも、人間ではなくAIが言い放った。

「俺、人望無いの? 機械に負けてんの?」

『うるさいなぁ、もう! 気が散るから黙ってて!』

《警告、警告。システムの熱暴走を検知。冷却を行います》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...