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精霊王

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セシルが目を輝かせ、私を見つめる。

「本当にお美しいですわ!」

「ありがとう。でも主役は私じゃないから」

セシルの勢いに押されつつも、やんわり否定する。



「何をおっしゃっているんですか!旦那様がついに国王陛下になられるんですよ!つまり奥様は王妃様になるんです!とんでもない晴れ舞台じゃないですか!」

「そ、そうね…」

今度は勢いに押され、うなずく。



今日ついにギルバートの即位、戴冠式が執り行われる。

国民の前に姿を見せるため、結婚式の時にも使ったテラスの側で待機している。



「綺麗だな」

オーウェンと共にやってきたギルバートが口角をあげる。

「ギル様こそ凛々しいですわ」

国王陛下に相応しい深紅のマントを羽織った彼は眩しい。



ギルバートが手を差し出す。

その手を見て、彼が初めて私の前に現れた時を思い出す。

「行こう」

その時好きになった自信満々な顔で、ギルバートが手を引く。



扉を開け、テラスに出る。

すると空気が揺れるほどあつい歓声が上がった。



「精霊王、誕生!バンザーイ!」

「精霊王、バンザーイ!」



「精霊王?」

歓声はよく聞くと、精霊王と言っているような気がする。

耳馴染みのない言葉に首を傾げる。



「世間では俺はどうやら悪魔の子から、風の精霊を射止めた精霊王になっているらしい」

「風の精霊?」

「お前のことだよ、リーゼ」

ぽかんとした私にギルバートが声を上げて笑う。



やっと意味を理解して顔が赤くなる。

知らぬ間に自分が風の精霊扱いされていたことも驚いた。



「悪魔の子より、よほど威厳があっていい」

「そうですね…素敵だと思います」

満足気なギルバートを見て、嬉しくなる。



お互いを見つめ合うと、より歓声が沸き立った。



*****



その日の夜、二人でベッドに座った。

「なんだか久しぶりですね」

この3ヶ月はバタバタしていて、ゆっくり話す時間もなかった。



「ああ。俺が前に言ったことは覚えているか?」

「あ…」

そういえば抱くと言われていたような…

思い出し顔がぼっと赤くなる。



そんな私を嬉しそうにギルバートが眺めている。

その視線で余計に体温が上がる。



しかしギルバートは息を吸うと、私の瞳を真っ直ぐ見た。

「その前に言っておきたいことがある」

急に真剣な声音で言われ、居住いを正す。



「なんでしょうか?」

恐る恐る聞く。彼のアメジストの瞳に、不安気な私が映っている。



能力目当ての結婚だった。

もう脅威はなくなり、ギルバートは今や立派な国王陛下である。

まさかとは思うが、用済みなのだろうか。



ギルバートはそんな冷たい人間ではない、そう思うが、なかなか話し出さないギルバートに不安が募る。

言いにくいことなのだろうか。



しばらく私の瞳をじっと見つめていたギルバートが、意を決したように口を開く。



「リーゼ、好きだ。お前を唯一の妻として生涯愛し、守り抜く」



ギルバードの言葉をゆっくり頭の中で反芻する。
そして理解すると、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。

ギルバートが口角を上げ、私の涙を拭う。



「能力を目的に結婚したが、お前が嫁になってくれて本当によかった。今はお前自身を愛しいと思う」

ギルバートの言葉に涙が止まらない。

ずっと誰かに必要とされたかった。



「お前の人生を変えると言ったが、俺の方が大きく変えられた。自分がこんなに誰かのことを大切に思える人間だと思っていなかった」

ぷるぷると首を横に振る。



私の方が人生を変えてもらった。

15の頃からずっと引きこもって、もう二度と外には出れないと思っていた。

それなのにこんな風に好きな人と結婚できて、愛してもらえるとは。



「ありがとうございます。私もずっと、一生ギル様が好きです」

私の返事にギルバートが幸せそうに笑った。

そして抱き寄せられ、深いキスをされる。





ながくて甘い、夜が更けていった。





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