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行く末

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部屋に招き入れたルーナがしみじみと言う。

『あっという間の3ヶ月だったね』

「そうだね、一瞬だった」

この3ヶ月は本当に慌ただしく過ぎていった。



あの日からすぐロルフは旅立った。

その1ヶ月後マリアンヌが病死したこととなった。

本来王族の葬式は大規模に行われるが、アドルフの意向として、アドルフとアドルフの側近、マリアンヌの侍女、ギルバート、私だけですることが国中に伝えられた。



そうして極秘に真夜中、マリアンヌは迎えに来たロルフと共にこの国を出た。

こっそり見送りに行くと、マリアンヌが微笑んだ。



「お人好しね。私とのいい思い出なんてないのに」

たしかに怖いと思ったことばかりだった。

でも最後に話を聞いて、彼女を嫌いになれない自分がいた。



「お義母様ですから」

その言葉にマリアンヌが目を丸くする。

「たしかに、そうね…」

噛み締めるようにつぶやいた。



「あの子にも謝っておいてくれる?今までのことを。謝って済むことではないし、本当は直接言うべきだけど、顔を見るとうまく言えそうにないから」

ギルバートを思い浮かべているようだ。こくりとうなずく。



「あの子は生まれた瞬間から母親がいなかったから、私が母になるべきだったのに。自分の嫉妬心から何度も殺そうとしたわ」

今思えば、子ができない私にとって唯一、母となるチャンスだったのにね…

そう悲しげにつぶやくマリアンヌを見て、胸が痛くなる。



「私はあなたたち夫婦が羨ましかったわ」

「え?」

「想い合って、幸せそうで…私も今度は人が羨むくらいに幸せになるわ」

マリアンヌが後ろにいたロルフを振り返った。

「はい、そう願っています」

二人を見て微笑む。



「もう行くわ。元気で」

「お義母様も、ロルフ様もお元気で」

ロルフもうなずく。

ロルフも王宮にいた頃は疲労が滲んだ顔をしていたが、今はなんだか精悍な顔つきになっている。



二人が歩き出し、闇夜に溶けていった。



「だそうですよ、ギル様」

柱の影からギルバートが姿を見せる。

見送りに来ていたが、何を話せばいいかわからんと隠れていたのである。



ギルバートは二人が消えていった方向をじっと見つめた。

「リーゼはすごいな。20年間、俺たちには深い溝があったのに、あんな言葉を聞けるとは」

「私は何もしていないですよ」

思い当たる節がなくてきょとんとする。



「リーゼが嫁に来ていなければ、こうはならなかっただろう」

ギルバートが微かに笑い、私の頭をなでた。

「帰ろう」

歩き出したギルバートの背中をを追った。





それから1ヶ月、表面上喪にふした。

そしてアドルフが王座を退き、ギルバートに王位を譲ることを宣言したのである。



そこからはさらに駆け足で日々が過ぎ去った。

ギルバートは多くの引き継ぎや、今後の話し合いに追われ、忙しく、顔を見ない日もあった。



だが、ついに明日でそれも一区切りである。

ギルバートの即位、戴冠式が行われるのである。



「ありがとうね、ルーナ、ウィリアム、アンナ」

『急にどうしたの?』

「ずっと側にいてくれて、私についてきてくれて、本当にありがとう。みんながいてくれなかったら、私はダメだったよ」



『刺激的で楽しかったよ』

ルーナたちがけらけらと笑う。

『これからもずっと一緒だよ』

「うん!ありがとう」



風と会話することによって、不気味がられてしまったこともあった。

でもこの能力はなかった方が、などと思ったことは一度もない。

能力のおかげでギルバートにも見つけてもらったのだ。



室内だが、ふわりと風が吹き、体が浮く。

お得意の空を飛ぶ、である。

久しぶりの感覚に嬉しくなって笑った。



「そういえば、マリアンヌ様とロルフ様の関係、今までよく他の人にバレなかったよね」

ずっと気になっていた疑問を口にする。



『かなり堂々とロルフはマリアンヌの部屋に行っていたよ』

『でも夜で見張も少ないし、ロルフとアドルフは似ているから、堂々としていると、パッと見アドルフに見えていたんだろうね』



『アドルフとマリアンヌも好きの種類は違ったけど、仲の悪い夫婦には見えていなかったから。城のものもアドルフがマリアンヌの部屋に行っても違和感がなかったんだろう』

「なるほど」

ルーナたちの説明に納得し、外を見る。



どうかマリアンヌとロルフが幸せに過ごしていますように。

そう、異国の地に想いを馳せた。



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