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舞踏会

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ギルバートにエスコートされて会場に入ると、人々の視線が注がれた。

思わずギルバートの腕に通した手に力を込める。

「大丈夫だ、落ち着け」

いつもと変わらないギルバートの声を聞いて、深呼吸する。



視線が怖かったが、落ち着いてみると敵意ではなく、好奇心の目が多い。

茶会にいた令嬢たちもいたが、公爵が罰されたばかりなので、自分たちに火の粉が飛んでくることを恐れてか、遠巻きに私たちを眺めている。



「まずは国王陛下に挨拶だ」

ギルバートに連れられ、最奥に座る国王陛下とマリアンヌの元へと向かう。



「此度の活躍ご苦労だったな。今日は存分に羽を伸ばせ」

国王陛下がギルバートと同じ紫の瞳を細め、にこにこと言う。

こうして見るとすっと通った鼻筋もギルバートと似ているかもしれない。



ちらりとマリアンヌを見る。

扇で顔を隠し、表情はわからないが、私のドレスを見つめている気がする。



「諸君。本日は我が息子の活躍を讃える祝賀会にようこそ。楽しんでくれたまえ」

国王陛下の言葉に会場が盛り上がる。

ギルバートが頭を下げるので、一緒に頭を下げる。



今まで社交場に出た事がなかったので知らなかったが、貴族たちの舞踏会とはこういう雰囲気なのか。

煌びやかなドレスを着た令嬢や彼女らをエスコートする令息たち。

みなご馳走様やお酒を片手に楽しんでいる。



あまりの人の多さと華やかさに眩暈がする。

「曲が始まる。せっかく練習していたのだから一曲踊るぞ」

ギルバートが広間へと誘う。



その手に導かれ、ついていくが、会場に入った時以上に視線を感じ、緊張する。

どきまぎしながら、ギルバートとゆっくりと踊り始める。



緊張で始めは動きが硬かったが、ギルバートのリードがうまく徐々に曲に合わせて体が動く。

ギルバートと目線が合い、恥ずかしい気持ちもあるが自然と顔がほころぶ。



すると急にぐいっと体を寄せられ、耳元でギルバートがささやく。

「お前の父親がリーゼたちを社交場に出さなかった意味がよくわかる。礼を言いたいくらいだ」

「どういう意味ですか?何かおかしいですか?」



不安になってダンスをやめようと足を止める。

「違う。会場中がお前に見惚れている。結婚前にこんなところに来ていたら、ダンスの申し込みが後を絶たなかっただろうな」

足を止めた私をもう一度リードしながら、ギルバートが言う。



そんなことはないと思うが、ギルバートがそう感じてくれたことが気恥ずかしく、嬉しかった。



「そういや練習相手は誰が務めていたんだ?先生は女だっただろう」

「そうですね、私の動きを先生に教えていただいて、相手役はハリーがしてくれていました」

「またあいつか」

ギルバートは眉を寄せた。



「これから練習の時も俺を呼べ」

「はぁ…」

ギルバートは忙しいので難しいのではないだろうか。曖昧にうなずくと

「俺だと不満か」

不機嫌な顔になるので、慌てて首を振る。

「いえ、ギル様と踊れるのが一番うれしいです」



その返答に満足したようにギルバートが口角をあげる。

「もう一曲踊りたいところだが、俺は挨拶回りをせねばならん」

すでにギルバートに声をかけようと伯爵などが近づいてきている。



「お前は休憩していろ。くれぐれも王妃や茶会に来ていた連中に近づくなよ」

「はい。ちょっと気分転換に外の空気を吸いに行きます」

ちょうど会場の視線に疲れていたところだ。

ギルバートの言葉に甘え、外に休憩しに行こう。



曲が終わり、ギルバートがうなずいたので外に向かう。

背中越しに

「奥様ともぜひお話ししたかったのですが」

という声が聞こえ、ぎくりとする。

礼儀を分かっていなかったが、こういう場合妻も挨拶するのが普通なのだろうか。



人の視線に疲れて、つい離れてしまったが戻るべきだろうか。

逡巡しているとギルバートが背中の後ろであっちに行けというように手を振っている。

その合図を確認し、外に向かって歩みを続けた。



戻っても私ではうまく会話できないし、役に立たないだろう。

少し落ち込みながら歩いていると、ギルバートの声が聞こえる。

「失礼。私が妻を大切にしすぎるあまり、他の方との会話は控えてもらっているのです」



思わず振り返りそうになるが、ぐっと堪える。

一体どんな表情でそれを言っているのだろう。

私を守るための嘘だろうが、言われた言葉に心臓がうるさく波打つ。



「これはこれは。王子の惚気話を聞く日が来ようとは」

悪魔の子だと言われているギルバートの思わぬ人間味に、周りの人間は好意的に受け取ったようだ。

笑いが起きている。



絶対に今私の顔は赤い。

手で顔を仰ぎながら外に出る。

ひんやりとした空気が今はちょうどいい。

ほっと息をつく。





そうして惚けていた私は先客がいたことに気がつかなかったのである。



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