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第16話 誰もパーティーに誘ってくれなくなりましたな
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新人冒険者パーティーとのゴブリン討伐クエストから一カ月が過ぎました。
キモヲタは、冒険者ギルド内のテーブル席に一人ポツンと甘い果実汁を啜りながら、どこかの冒険者パーティが声を掛けてくるのを待っていました。
この一カ月、何度か冒険者パーティーからお呼びが掛かって、クエストに参加してきたものの、どのパーティーもクエストから戻った後は、二度とキモヲタを誘ってくることはありません。
彼らはその後、キモヲタと顔を合わせてもぎこちない挨拶を交わすだけで、そそくさとその場を立ち去るようになるのでした。
キモヲタもここに来てようやく、自分の【足ツボ治癒】が、それを受ける者によってはとんでもない恥辱をもたらすものであることを理解したのです。
パーティーに誘われることがないキモヲタですが、ときおりギルドから治癒の依頼が入ることはありました。
「キモヲタさん。先ほど戻った冒険者が重傷を負っていて、ぜひお力をお借りしたいのですが」
受付嬢が申し訳なさそうな笑顔で、キモヲタに治癒の依頼を持ちかけてきました。
キモヲタは受付嬢に訊ねました。
「えっと、その方は我輩の治癒についてご存じなのでござるか? 覚悟はできていると?」
受付嬢は真剣な表情でうなずき返します。
「はい。命を失うよりは……と、すでにお覚悟を決められているそうです」
「なら……わかりましたでござる」
「ありがとうございます! では魔物解体場の地下室へ! 負傷者はもう運んでいます」
受付嬢は、キモヲタを連れて、魔物解体場の地下室へと向かいました。
なぜそんな物騒な感じの場所で治癒を行うのかといえば、解体場が音の漏れにくい構造になっているのと、作業の騒音が大きいためです。
地下室の前では、負傷者の仲間らしき冒険者たちがキモヲタを待っていました。
「キモヲタさん、お願いだ! ギムラッドを助けてやってくれ!」
キモヲタは受付嬢から、負傷者のギムラッドがドワーフ族の男であることは聞いていました。
「わかったでござる。すぐに治癒を始める故、ギムラッド殿を地下室に残して、他の皆さんは上で待っていてくだされ」
「わ、わかった! くれぐれもギムラッドを、ギムラッドを頼む!」
冒険者たちは、重症のギムラッドを地下室に運び入れると、キモヲタを残して全員地上へと戻っていきました。
彼らが去った後、キモヲタはギムラッドの傍らに膝まづいて、彼に語りかけました。
ギムラッドの負傷は大きく、すでに口をきくこともできないほどの重症でした。
僅かな光を宿す瞳が、キモヲタに向けられています。
「ギムラッド殿、これから治癒を行なうでござるが、それにはお互いにとって大きな負担を強いることになるのでござる。だがそれでも命を失うよりはマシではござろう?」
キモヲタの見つめるギムラッドが、一度まばたきをしました。
「わかったでござる。今から起こることは傷が回復する過程で起こる苦痛。ただの悪夢でござる。治療が終わったらお互い忘れる、それでよろしいでござるな」
キモヲタの見つめるギムラッドが、再びまばたきをしました。
「それでは、はじめるでござるよ。【足ツボ治癒】……」
そうつぶやいたキモヲタは、ギムラッドの足裏に親指を押し込むのでした。
「あひぃぃぃいぃぃいいいいん❤」
冒険者ギルドの魔物解体場の地下室に――
ドワーフ族ギムラッド(65歳)、故郷に妻子を残して冒険者として旅立ち、
巨大な両手斧を軽々と振るって敵を屠る剛腕のギムラッドとして名を上げ、
たいそう立派な赤い顎鬚を自慢にしていた男のあられもない声が響き渡るのでした。
「んほぉおおおおおおおおおん❤」
そして治療後、
キモヲタとギムラッドはお互いに目を合わせることも、口を開くこともなく、
それぞれが黙って足元を見つめたまま、地下室を後にするのでした。
そして、その日の晩、
冒険者ギルド付属の居酒屋にギムラッドや彼の仲間たちの姿はなく、
小さな金貨袋を手にしたキモヲタが、飲みなれないエールを何杯もお代わりして酔いつぶれているのでした。
「ちくしょーっ! やってられんでござる! おっさんの治癒なんぞ精神破壊されるだけでござるよ!」
グビッ!
とエールを飲み干したキモヲタ。
「とはいえ女冒険者を治療したとしても、本人からは凌辱オークを見るような目で睨んでくるでござるし! パーティーの男連中からは百年の仇のような目で睨まれるし! いったい何なのでござるか!」
グダを撒くキモヲタを冒険者たちは遠巻きから眺めるだけで、誰も慰めたり励まそうとする者はいませんでした。
キモヲタが治癒師としてとてつもなく優秀な存在であることは彼らも認めてはいるのです。ですが、その代償があまりにも大きかったため、キモヲタに命を救われた者でさえ、感謝と憎悪を相殺すると、ややマイナスに偏ってしまうのでした。
一度キモヲタは、このギルドではもうパーティーから声が掛かることはないと思って、別のギルドに顔を出そうとしたことがありました。ですがその時は、ギルドに入る直前、中にエルミアナがいるのを見かけて慌てて戻ってきたのです。
「このギルドにいてもパーティーは組めない! だからといって他のギルドに行けば狂乱エルフと鉢合わせしかねない! いったい我輩はどうしたらいいのでござるか! チクショーでござるよぉ!」
再びエールを飲み干したキモヲタが、そろそろ宿に帰るかと腰を上げたとき、後ろから声を掛けてくる者がありました。
「ようやく見つけましたよ! キモオタ殿!」
キモヲタは、冒険者ギルド内のテーブル席に一人ポツンと甘い果実汁を啜りながら、どこかの冒険者パーティが声を掛けてくるのを待っていました。
この一カ月、何度か冒険者パーティーからお呼びが掛かって、クエストに参加してきたものの、どのパーティーもクエストから戻った後は、二度とキモヲタを誘ってくることはありません。
彼らはその後、キモヲタと顔を合わせてもぎこちない挨拶を交わすだけで、そそくさとその場を立ち去るようになるのでした。
キモヲタもここに来てようやく、自分の【足ツボ治癒】が、それを受ける者によってはとんでもない恥辱をもたらすものであることを理解したのです。
パーティーに誘われることがないキモヲタですが、ときおりギルドから治癒の依頼が入ることはありました。
「キモヲタさん。先ほど戻った冒険者が重傷を負っていて、ぜひお力をお借りしたいのですが」
受付嬢が申し訳なさそうな笑顔で、キモヲタに治癒の依頼を持ちかけてきました。
キモヲタは受付嬢に訊ねました。
「えっと、その方は我輩の治癒についてご存じなのでござるか? 覚悟はできていると?」
受付嬢は真剣な表情でうなずき返します。
「はい。命を失うよりは……と、すでにお覚悟を決められているそうです」
「なら……わかりましたでござる」
「ありがとうございます! では魔物解体場の地下室へ! 負傷者はもう運んでいます」
受付嬢は、キモヲタを連れて、魔物解体場の地下室へと向かいました。
なぜそんな物騒な感じの場所で治癒を行うのかといえば、解体場が音の漏れにくい構造になっているのと、作業の騒音が大きいためです。
地下室の前では、負傷者の仲間らしき冒険者たちがキモヲタを待っていました。
「キモヲタさん、お願いだ! ギムラッドを助けてやってくれ!」
キモヲタは受付嬢から、負傷者のギムラッドがドワーフ族の男であることは聞いていました。
「わかったでござる。すぐに治癒を始める故、ギムラッド殿を地下室に残して、他の皆さんは上で待っていてくだされ」
「わ、わかった! くれぐれもギムラッドを、ギムラッドを頼む!」
冒険者たちは、重症のギムラッドを地下室に運び入れると、キモヲタを残して全員地上へと戻っていきました。
彼らが去った後、キモヲタはギムラッドの傍らに膝まづいて、彼に語りかけました。
ギムラッドの負傷は大きく、すでに口をきくこともできないほどの重症でした。
僅かな光を宿す瞳が、キモヲタに向けられています。
「ギムラッド殿、これから治癒を行なうでござるが、それにはお互いにとって大きな負担を強いることになるのでござる。だがそれでも命を失うよりはマシではござろう?」
キモヲタの見つめるギムラッドが、一度まばたきをしました。
「わかったでござる。今から起こることは傷が回復する過程で起こる苦痛。ただの悪夢でござる。治療が終わったらお互い忘れる、それでよろしいでござるな」
キモヲタの見つめるギムラッドが、再びまばたきをしました。
「それでは、はじめるでござるよ。【足ツボ治癒】……」
そうつぶやいたキモヲタは、ギムラッドの足裏に親指を押し込むのでした。
「あひぃぃぃいぃぃいいいいん❤」
冒険者ギルドの魔物解体場の地下室に――
ドワーフ族ギムラッド(65歳)、故郷に妻子を残して冒険者として旅立ち、
巨大な両手斧を軽々と振るって敵を屠る剛腕のギムラッドとして名を上げ、
たいそう立派な赤い顎鬚を自慢にしていた男のあられもない声が響き渡るのでした。
「んほぉおおおおおおおおおん❤」
そして治療後、
キモヲタとギムラッドはお互いに目を合わせることも、口を開くこともなく、
それぞれが黙って足元を見つめたまま、地下室を後にするのでした。
そして、その日の晩、
冒険者ギルド付属の居酒屋にギムラッドや彼の仲間たちの姿はなく、
小さな金貨袋を手にしたキモヲタが、飲みなれないエールを何杯もお代わりして酔いつぶれているのでした。
「ちくしょーっ! やってられんでござる! おっさんの治癒なんぞ精神破壊されるだけでござるよ!」
グビッ!
とエールを飲み干したキモヲタ。
「とはいえ女冒険者を治療したとしても、本人からは凌辱オークを見るような目で睨んでくるでござるし! パーティーの男連中からは百年の仇のような目で睨まれるし! いったい何なのでござるか!」
グダを撒くキモヲタを冒険者たちは遠巻きから眺めるだけで、誰も慰めたり励まそうとする者はいませんでした。
キモヲタが治癒師としてとてつもなく優秀な存在であることは彼らも認めてはいるのです。ですが、その代償があまりにも大きかったため、キモヲタに命を救われた者でさえ、感謝と憎悪を相殺すると、ややマイナスに偏ってしまうのでした。
一度キモヲタは、このギルドではもうパーティーから声が掛かることはないと思って、別のギルドに顔を出そうとしたことがありました。ですがその時は、ギルドに入る直前、中にエルミアナがいるのを見かけて慌てて戻ってきたのです。
「このギルドにいてもパーティーは組めない! だからといって他のギルドに行けば狂乱エルフと鉢合わせしかねない! いったい我輩はどうしたらいいのでござるか! チクショーでござるよぉ!」
再びエールを飲み干したキモヲタが、そろそろ宿に帰るかと腰を上げたとき、後ろから声を掛けてくる者がありました。
「ようやく見つけましたよ! キモオタ殿!」
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