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第10話 キモヲタ乗せて~♪ 捕虜馬車揺~れ~る~♪
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キモヲタを乗せた移送隊の馬車は、途中で魔族軍の襲撃を受けることもなく、無事にカリヤットに到着。
カリヤットを取り囲む巨大な城壁の門に到着すると、3台の馬車は停止しました。移送隊の先頭にいたユリアスが門番に帰還を告げると、城壁の門がゆっくりと開かれました。
その後、二台の馬車がそのまま城壁の中へと消えてきましたが、残る一台の馬車だけは城壁から引き返して別の方向へと進みはじめました。
魔族軍の捕虜が乗せられた馬車で、行く先はカリヤットの郊外に設置された魔族捕虜収容所だったのです。
ガタゴトガタゴト。
揺れる馬車のなかで、魔族軍の捕虜たちが何かボソボソとささやいていましたが、キモヲタには彼らの言葉を理解することはできませんでした。
(勉強しなくてもすぐに使える言語能力は異世界チートの定番でござろうに、せめてググレカス翻訳機能くらい付けて欲しかったでござるブツブツ)
などと文句を言っているキモヲタは、異世界チートによって、この大陸の共通言語を習得させてもらっていることについては完全に失念しているのでした。
「フーッ、ガゥア!」
キモヲタから一番近い場所に座っている魔族軍の捕虜が、キモヲタに向って突然大きな声をあげました。それはガタイの大きな黒い毛並みの狼獣人でした。
「ひぃぃぃ! なんでござるか!? 我輩なぞ食べても美味しくないでござるよ!」
「フーッ、ガゥア! ガゥア! ガゥア?」
狼獣人は恐ろしい牙を向き出しにしながら、キモヲタに向って吼え続けます。
「うひぃぃぃ!」
「オ、オマエ、ニンゲン、ニンゲンダ、ヨナ?」
狼獣人は、キモヲタが自分の言葉を理解していないことに気づいて、たどたどしい大陸共通語で語りかけてきました。
「そ、そうでござる! そうなのでござるよ! 我輩は人間なのでござる! 助けて欲しいでござる!」
自分のことを人間と認識してくれた相手に、キモヲタは感激のあまり涙を流してしまいました。さっきまで自分が食べられるに違いないと思っていたことをすっかりと忘れて、今では狼獣人に対する好感度をMAXにまで引きあげておりました。
「オマエ、ナゼ、ココ、イル?」
「ここの騎士が、我輩のことをオークと間違えているのでござる!」
キモヲタの言葉を少し時間をかけて咀嚼した後、狼獣人は顎に手をやりながらキモヲタを上から下まで眺めました。
「フーッ、タシカニ、オマエ、ガゥアヨリ、ドフトゥニ、チカイ」
そう言ってしばらくの間、狼獣人はキモヲタをジッと見つめた後、突然笑いだしました。
「ガハハハハ、オマエ、ガゥアナノニ、ドフトゥニサレタ、マ……マーヌケ? マヌケダ、ガハハハ!」
「我輩が間抜けなのではござらん! 間抜けなのは騎士たちの方ですぞ! デュフコポー」
狼獣人にバカにされたと思ったキモヲタが腹を立てて反論します。
「フーッ、オ、オコルナ、フーッ、マヌケチガウ、マヌケハ、アイツラ」
狼獣人は、御者台と馬車の周囲で護衛している女騎士たちを指差しました。
「おぉ、そういうことでござったか! まったく兄者とは気が合いそうですな! 我輩はキモヲタというケチな異世界人でござる。ぜひ兄者のご尊名をお伺いしたいでござるよ!」
そう早口でまくしたてるキモヲタの言葉を、狼獣人はほとんど聞き取ることができませんでした。しかし、キモヲタの身振り手振りから、キモヲタが自分の名を名乗り、そして狼獣人である自分の名前を尋ねていることは理解することができました。
「オッ、オレハ、ロボ……オオカミゾクノ、オ、オウサマ。フーッ、キモヲタ、デ、イイカ?」
バッ!
突然、キモヲタは身を翻すと、狼獣人ロボの目の前に片膝をついて頭を下げました。
「ハハァ! 偉大なる狼族の王ロボに拝謁できたこと、我輩キモヲタの生涯において輝かしい栄誉を伴なう喜びでござります」
キモヲタとしては、単なるノリと、ともすれば本当にこのロボがエライ狼族だった場合に、仲良くなっておけば色々とおいしい汁が啜れるかもしれないという、ゲスな打算が働いただけでした。
しかしロボの方は、キモヲタの態度に驚き、丁寧な礼を受けた嬉しさを隠すことができませんでした。
「フーッ、キモヲタ、オオゲサ、ダガ、ウレシイ、カンシャ……スル」
アシハブア王国を始め人類軍に属する国の人間は、大なり小なり人間至上主義者であり、魔族に対しては差別的な憎悪を向けるか、命乞いの際に向ける卑屈な態度しか取らない者ばかり。
しかしキモヲタと言えば、いくらノリとはいえ、自分のことを人間と認識してくれたロボに対しては既に好感を抱いており、もし王を名乗るロボがただの小さな村の長だったとしても、最大の敬意を払うことに決めていたのでした。
ガタゴト、ガタゴト。
魔族収容所に向かうなか、二人はこれまでに自分に降りかかった出来事を、お互いに語り合いました。お互い語っている内容の半分も理解することはできませんでしたが、ただお互い相当大変な目に遭ったことだけは理解しあうことができたのでした。
そして、キモヲタにとってはもうひとつ良いことがありました。
それは、キモヲタが狼獣人ロボと仲良くなったことで、馬車のなかにいる他の魔族たちが、キモヲタに威嚇することがなくなったことです。
ガタゴト、ガタゴト。
それから間もなく、キモヲタたちを乗せた馬車は、魔族収容所に到着したのでした。
カリヤットを取り囲む巨大な城壁の門に到着すると、3台の馬車は停止しました。移送隊の先頭にいたユリアスが門番に帰還を告げると、城壁の門がゆっくりと開かれました。
その後、二台の馬車がそのまま城壁の中へと消えてきましたが、残る一台の馬車だけは城壁から引き返して別の方向へと進みはじめました。
魔族軍の捕虜が乗せられた馬車で、行く先はカリヤットの郊外に設置された魔族捕虜収容所だったのです。
ガタゴトガタゴト。
揺れる馬車のなかで、魔族軍の捕虜たちが何かボソボソとささやいていましたが、キモヲタには彼らの言葉を理解することはできませんでした。
(勉強しなくてもすぐに使える言語能力は異世界チートの定番でござろうに、せめてググレカス翻訳機能くらい付けて欲しかったでござるブツブツ)
などと文句を言っているキモヲタは、異世界チートによって、この大陸の共通言語を習得させてもらっていることについては完全に失念しているのでした。
「フーッ、ガゥア!」
キモヲタから一番近い場所に座っている魔族軍の捕虜が、キモヲタに向って突然大きな声をあげました。それはガタイの大きな黒い毛並みの狼獣人でした。
「ひぃぃぃ! なんでござるか!? 我輩なぞ食べても美味しくないでござるよ!」
「フーッ、ガゥア! ガゥア! ガゥア?」
狼獣人は恐ろしい牙を向き出しにしながら、キモヲタに向って吼え続けます。
「うひぃぃぃ!」
「オ、オマエ、ニンゲン、ニンゲンダ、ヨナ?」
狼獣人は、キモヲタが自分の言葉を理解していないことに気づいて、たどたどしい大陸共通語で語りかけてきました。
「そ、そうでござる! そうなのでござるよ! 我輩は人間なのでござる! 助けて欲しいでござる!」
自分のことを人間と認識してくれた相手に、キモヲタは感激のあまり涙を流してしまいました。さっきまで自分が食べられるに違いないと思っていたことをすっかりと忘れて、今では狼獣人に対する好感度をMAXにまで引きあげておりました。
「オマエ、ナゼ、ココ、イル?」
「ここの騎士が、我輩のことをオークと間違えているのでござる!」
キモヲタの言葉を少し時間をかけて咀嚼した後、狼獣人は顎に手をやりながらキモヲタを上から下まで眺めました。
「フーッ、タシカニ、オマエ、ガゥアヨリ、ドフトゥニ、チカイ」
そう言ってしばらくの間、狼獣人はキモヲタをジッと見つめた後、突然笑いだしました。
「ガハハハハ、オマエ、ガゥアナノニ、ドフトゥニサレタ、マ……マーヌケ? マヌケダ、ガハハハ!」
「我輩が間抜けなのではござらん! 間抜けなのは騎士たちの方ですぞ! デュフコポー」
狼獣人にバカにされたと思ったキモヲタが腹を立てて反論します。
「フーッ、オ、オコルナ、フーッ、マヌケチガウ、マヌケハ、アイツラ」
狼獣人は、御者台と馬車の周囲で護衛している女騎士たちを指差しました。
「おぉ、そういうことでござったか! まったく兄者とは気が合いそうですな! 我輩はキモヲタというケチな異世界人でござる。ぜひ兄者のご尊名をお伺いしたいでござるよ!」
そう早口でまくしたてるキモヲタの言葉を、狼獣人はほとんど聞き取ることができませんでした。しかし、キモヲタの身振り手振りから、キモヲタが自分の名を名乗り、そして狼獣人である自分の名前を尋ねていることは理解することができました。
「オッ、オレハ、ロボ……オオカミゾクノ、オ、オウサマ。フーッ、キモヲタ、デ、イイカ?」
バッ!
突然、キモヲタは身を翻すと、狼獣人ロボの目の前に片膝をついて頭を下げました。
「ハハァ! 偉大なる狼族の王ロボに拝謁できたこと、我輩キモヲタの生涯において輝かしい栄誉を伴なう喜びでござります」
キモヲタとしては、単なるノリと、ともすれば本当にこのロボがエライ狼族だった場合に、仲良くなっておけば色々とおいしい汁が啜れるかもしれないという、ゲスな打算が働いただけでした。
しかしロボの方は、キモヲタの態度に驚き、丁寧な礼を受けた嬉しさを隠すことができませんでした。
「フーッ、キモヲタ、オオゲサ、ダガ、ウレシイ、カンシャ……スル」
アシハブア王国を始め人類軍に属する国の人間は、大なり小なり人間至上主義者であり、魔族に対しては差別的な憎悪を向けるか、命乞いの際に向ける卑屈な態度しか取らない者ばかり。
しかしキモヲタと言えば、いくらノリとはいえ、自分のことを人間と認識してくれたロボに対しては既に好感を抱いており、もし王を名乗るロボがただの小さな村の長だったとしても、最大の敬意を払うことに決めていたのでした。
ガタゴト、ガタゴト。
魔族収容所に向かうなか、二人はこれまでに自分に降りかかった出来事を、お互いに語り合いました。お互い語っている内容の半分も理解することはできませんでしたが、ただお互い相当大変な目に遭ったことだけは理解しあうことができたのでした。
そして、キモヲタにとってはもうひとつ良いことがありました。
それは、キモヲタが狼獣人ロボと仲良くなったことで、馬車のなかにいる他の魔族たちが、キモヲタに威嚇することがなくなったことです。
ガタゴト、ガタゴト。
それから間もなく、キモヲタたちを乗せた馬車は、魔族収容所に到着したのでした。
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