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第3章 冒険者ギルド

第27話 無限回廊。

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 謎を知った俺達は、更に奥へと進んだ。
 この指輪の力の事もそうだが、今の俺には知るべき事が多すぎる。ここで死ぬ事はもちろん、留まる事もあってはならない。何よりラケナリアにもう一度会って確かめるんだ。

「ところで、魔物が大量発生しているのは、この古代遺跡の防衛機構と考えてもいいのか?」
「いえ、恐らくこれらの魔物は別問題ですよ」
「別問題?」
「魔物の習性として、高密度の魔力の下に集まるというものがあります。魔物が大量発生しているのはこの遺跡……いやダンジョンに魔力溜まりが発生したからでしょう」

『クロノリング』関連の問題以外の場合なので、カトレアは上手く遺跡からダンジョンとこの施設を呼び変えた。ここをダンジョンだとする場合、全く別の問題が生じていた。

「最近になって、ドラゴンがここに住み着いたんです」
「ドラゴンだって!?」
「はい。ドラゴンが子育ての時期を迎えると、外敵から卵を守る為になるべく身を隠せる暗がりを探す事になります。坑道に下にある広大な地下空間を運よく見つけたドラゴンは、ここに巣を作ったのでしょう。まあ、存在を微かに感じるだけでどこにいるのかまでは分かりませんが」

 俺も聞いた事がある。
 強力な魔物が居座ると、限界を超えた魔力が極狭い空間で対流を起こして魔力溜まりが発生すると。ドラゴンが魔力溜まりを発生させている原因だとすると、一番簡単な解決方法は、ドラゴンの追い払うか、または討伐する事だ。

 冒険者ギルドからの依頼クエストによると、討伐報酬と成功報酬で二重の支払いを受けるシステム。ここでドラゴンを倒せばかなりの資金になるのは間違いない。

「(カトレアがドラゴンの気配を感じ取っているなら、同じ魔族であるラケナリアも存在に気付いているかもしれない。その場合目指すべきはやはりドラゴンの住処)」

「よし、俺達もそのドラゴンの元に向かおう」
「正気ですか、お兄さん」
「当たり前だ。それに俺もいつまでも足を引っ張っている訳にはいかない」

 土砂の中を探った時、俺が携帯していたポーチが見つかった。この中に心許ないながらも回復薬ポーションを入れておいた。傷ついた患部に液体を振りかけると、じゅっと音を立てて痛みが引いて行った。

「人族の回復薬ポーションは質がいいですね」
「おいおい、これは低級だぞ」

 魔族側のQOLを垣間見た気がした。


「問題はここです。ここの通路を超える事が出来なくて」

 ダンジョンと言えば、心躍るギミックの数々を想像するだろう。
 しかし今の俺はそんな楽しむ余裕なんてない。まして、暫くここに囚われたままだという彼女が言うからには相当の難易度だと予想できる。

「内容は?」
「見れば分かります」

 スタスタと碌に説明もなしに、大きめの門を開いた。

 遠くへと延びる回廊。ひんやりとした空間にオオオ……と動物の鳴き声のような風の音が響いている。その静寂が逆に不気味に感じられた。

?」
「進んでいるはずなのに前に進めないってやつか」
「はい。道の両側から大量の魔物が押し寄せるのですが、それを処理しながら奥へ奥へ進もうとすると必ず限界が来るのです」
「それだけだと、カトレアが諦めるとは思えないけど」
「勿論私は何度となく攻略を試みました。ですが、結果は同じ。絶対に向こうへ辿り着けない。これを何時間、何日と繰り返したところで絶対にこの回廊を渡り切るのは不可能なんです」

 もしこれが本当にダンジョンギミックなら、そんな無理難題を押し付けるとは思えない。絶対に何か攻略法があるのだ。いままで俺はFランククエストを熟し、迷宮入りしそうな難題を幾度となく解決してきた。俺はここでも、この鍛え上げられた洞察力を使う事になりそうだ。

「分かった。俺が何とかする」
「お兄さん、今の話を聞いてなかったんですか?」
「そう疑わしい目を向けるな。何事も冷静に現象を確認するところから始まるものだ。ほら行くぞ、カトレア。魔物が出たらその討伐を任せたい」
「はあ、分かりました。好きにしてください」

 わざと大袈裟にため息をつくカトレア。今のがラケナリアは、「えっ、どうやって攻略するのかしら。こう、ボタンをぽちっと押すとか? 気になる、気になるわ~~!!」って目を輝かせていただろう。容姿は似ているだけに、中身は全然違うのはなんだか見ていて面白い。

「じゃあ突撃するぞ」
「はい。くれぐれも気を付けてくださいね」

 走る。カンカン、と二人分の足音が響き渡る。
 無駄に響く音が少し不安で心臓が震えた。

 魔物が次々と横から現れる。ガタイの大きな奴が次から次へ。
 魔物の名前や特徴なんていちいち気にしていられない数だ、僅かに視線に入るだけで手汗がびっしょりと滲むのが分かる。死が目の前に迫っているのを肌で感じる。

 怖い、怖い……怖い!

「今更逃げるの禁止ですよ、お兄さん」

 服の裾を掴んで、いたずらっぽくカトレアが笑う。
 俺が内心ビビり散らかしているのがバレたのだろうか。

「はんっ、誰が逃げるかよばーか!」
「馬鹿って何ですか……!」

 ぷくぅと頬を膨らませる。案外可愛いな畜生!
 おかげで恐怖が吹き飛んだ。

 俺は目を見開く。奥には次に繋がる道。光が漏れていた。
 その光に手を伸ばし、足を進めても確かに近付く気配がない。

 なるほど、これが無限回廊か……!

 魔物が夥しい数現れる。俺の命を奪おうと接近する魔物が次々とカトレアの短剣で切り裂かれていく。凄い速度、凄い攻防。おかげで俺は俺の仕事に専念できる。


 さあ『視ろ』ッ、そして考えろ!
 この無限回廊の突破口を!

 俺は全力で『思考』を始めた。






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