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第3章 冒険者ギルド
第22話 ラケナリア、冒険者ギルドへ。
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「この人とパーティーを組むわね?」
それは、地獄と形容してもまだ生温いドロドロに溶けたマグマに身を投げるような過酷で熾烈な現場だった。
火花を幻視する程の強烈な視線が重なり合う。
一方が試す様な目で相手を見て、一方が心底警戒する様な目付きで相手を睨み付けている。なるほど、これが世に聞く『修羅場』と言うやつなのだと理解した。
「もう一度いいます、お断りします」
「なんでかしら。私はこの人と組みたいと思ったから組むのよ。禁則事項には触れていないわよね」
「それはお互いの合意の上であれば、の話ですが」
魔族の娘ラケナリア。
冒険者ギルドの受付嬢リーリア。
街でも一二を争う美少女の二人が、ここまで険悪さを隠そうともせず言い争う未来を誰が予想しただろうか。
「私はグラジオラスさんの事を誰よりも見てきた自信があります。彼はFランク冒険者として功績を上げ続け、最近になってようやく軌道に乗ってきた所なのです。それなのに、貴女のような人が彼を邪魔していい理由にはなりません」
「邪魔? どこが邪魔なのかしら」
「貴女は、今日冒険者ギルドに加入した新人でしょう。新人冒険者専用の依頼はこちらが用意しますし、彼の手を煩わせる必要は無い。まして、手を借りようなんて言語道断です」
「ふふっ、違うわ。これからずっとパーティーを組んで"協力"しようと思っているから。その場しのぎに手を借りる、なんていうつもりはサラサラないの!」
「余計タチが悪いじゃないですかっ!!」
あーだめだ。収拾がつかねぇ。
事の発端はラケナリアが冒険者になりたいと言い出した事だった。恐らくは俺が彼女を一人にしすぎたのが問題だ。
「ねぇ、グラス。いいでしょ?」
「ぐ、グラス? グラジオラスさんをそんなあだ名でっ」
リーリアの美貌が僅かに歪む。いつもはクールというか無表情なだけに、俺はそれを見逃さなかった。どうやらラケナリアの方が一枚上手らしい。
「まぁ……別にいいけど。呼び方ぐらい好きにしていい」
「当たり前よ!」
嬉しそうな顔を見せるラケナリア。ただ言っておくが当たり前ではない。俺を舐めてるのかこいつ。
その笑顔を見た瞬間、リーリアの顔が絶望に染まった。
「……えぇと、つまり……どういうことでしょうか……」
「何がだ?」
「だって、あの人は……」
そこまで言って、ようやく気付いたのかリーリアがハッとした表情を浮かべた。
「まさか、恋人同士とか!?」
「んなわけあるか」
即答すると、今度はリーリアがホッと胸を撫で下ろした。一体何を考えているんだコイツは……。
しかし、これで一つ分かった事がある。
やはり、彼女は勘違いしているのだ。
「リアは親戚みたいな物だ。だからリーリアが考えているようなやましい関係じゃない。これは誓う」
「やましい関係って何かしら。ねぇ何かしら」
お前は本当に黙っとけ。
「私気になる。気になるわ」
「ええい、離せ。という訳で俺はこいつの面倒を見にゃならん。Fランク冒険者のクエスト内容は誰よりも俺が理解している。だからリーリアは心配しなくていい」
「そう、ですか?」
「ああ。早くこいつもEランクに上げてやらないとうるさいと思う。付き従った方がこの際楽かもしれないな」
という訳で俺はラケナリアのクエストに付き合う事になった。夕方以降はコロッケ屋のバイトがあるそうなので遅くまでするのはNGだ。体力も考えて頑張る事にした。
薬草採取や捜し物系のクエスト。
攻略方法を熟知している俺は次々と解決の糸口を手繰り寄せる。ラケナリアは目を輝かせて「凄い凄い!」と何度も褒めてくれた。自己肯定感が高まるのはいい事だが限度があるな。
このままでは俺が天狗になってしまう。
そうした毎日を約一週間。
のんびりと時間をかけながらこなして行った。
□■□
「最近かなり字が読めるようになってきたの」
「逆に読めてなかったのか……?」
暫くたったある日、衝撃的な発言を聞いた。
「私は人族の言葉をそれはもう勉強したわ。お陰で魔法もなしにこうして話す事が出来る。だけどね、グラス。文字を完璧に理解するのは話す以上に難解なの」
なるほど。俺は半分位の理解で頷いた。
「解析魔法もなしに文字を判読するには、長い月日がかかる。でも遂に私はそれを乗り越えた。私は、魔法なしに文字が読めるようになったのよ!」
「二週間だよ。長い年月」
素直に凄いのだが。
大々的に言うものだから思わず突っ込んでしまった。
「そして今日……Eランク冒険者に昇格します!」
「おー。昇格試験頑張れ」
「見に来てくれるかしら」
「ん、ああ。そうだな一応見ておいてやるよ」
「そう、ふふふ。なら俄然やる気が出るわね」
そういえばこいつの実力を実際に見た事はなかったな。思えば転移魔法だったり、認識阻害の魔法、解析魔法、魔道具生成等多種多様な才能を発揮してきたラケナリア。
ただ、殊更戦闘においての実力はまるで知らない。
「ま、まあ上手くいかなくても落ち込むなよ」
「そうね。手加減できるかしら」
既に相手の心配をしているぞこいつ。
「じゃあ、行くわよ」
「遠足を控える小学生か。はいはい、焦るな焦るな」
それは、地獄と形容してもまだ生温いドロドロに溶けたマグマに身を投げるような過酷で熾烈な現場だった。
火花を幻視する程の強烈な視線が重なり合う。
一方が試す様な目で相手を見て、一方が心底警戒する様な目付きで相手を睨み付けている。なるほど、これが世に聞く『修羅場』と言うやつなのだと理解した。
「もう一度いいます、お断りします」
「なんでかしら。私はこの人と組みたいと思ったから組むのよ。禁則事項には触れていないわよね」
「それはお互いの合意の上であれば、の話ですが」
魔族の娘ラケナリア。
冒険者ギルドの受付嬢リーリア。
街でも一二を争う美少女の二人が、ここまで険悪さを隠そうともせず言い争う未来を誰が予想しただろうか。
「私はグラジオラスさんの事を誰よりも見てきた自信があります。彼はFランク冒険者として功績を上げ続け、最近になってようやく軌道に乗ってきた所なのです。それなのに、貴女のような人が彼を邪魔していい理由にはなりません」
「邪魔? どこが邪魔なのかしら」
「貴女は、今日冒険者ギルドに加入した新人でしょう。新人冒険者専用の依頼はこちらが用意しますし、彼の手を煩わせる必要は無い。まして、手を借りようなんて言語道断です」
「ふふっ、違うわ。これからずっとパーティーを組んで"協力"しようと思っているから。その場しのぎに手を借りる、なんていうつもりはサラサラないの!」
「余計タチが悪いじゃないですかっ!!」
あーだめだ。収拾がつかねぇ。
事の発端はラケナリアが冒険者になりたいと言い出した事だった。恐らくは俺が彼女を一人にしすぎたのが問題だ。
「ねぇ、グラス。いいでしょ?」
「ぐ、グラス? グラジオラスさんをそんなあだ名でっ」
リーリアの美貌が僅かに歪む。いつもはクールというか無表情なだけに、俺はそれを見逃さなかった。どうやらラケナリアの方が一枚上手らしい。
「まぁ……別にいいけど。呼び方ぐらい好きにしていい」
「当たり前よ!」
嬉しそうな顔を見せるラケナリア。ただ言っておくが当たり前ではない。俺を舐めてるのかこいつ。
その笑顔を見た瞬間、リーリアの顔が絶望に染まった。
「……えぇと、つまり……どういうことでしょうか……」
「何がだ?」
「だって、あの人は……」
そこまで言って、ようやく気付いたのかリーリアがハッとした表情を浮かべた。
「まさか、恋人同士とか!?」
「んなわけあるか」
即答すると、今度はリーリアがホッと胸を撫で下ろした。一体何を考えているんだコイツは……。
しかし、これで一つ分かった事がある。
やはり、彼女は勘違いしているのだ。
「リアは親戚みたいな物だ。だからリーリアが考えているようなやましい関係じゃない。これは誓う」
「やましい関係って何かしら。ねぇ何かしら」
お前は本当に黙っとけ。
「私気になる。気になるわ」
「ええい、離せ。という訳で俺はこいつの面倒を見にゃならん。Fランク冒険者のクエスト内容は誰よりも俺が理解している。だからリーリアは心配しなくていい」
「そう、ですか?」
「ああ。早くこいつもEランクに上げてやらないとうるさいと思う。付き従った方がこの際楽かもしれないな」
という訳で俺はラケナリアのクエストに付き合う事になった。夕方以降はコロッケ屋のバイトがあるそうなので遅くまでするのはNGだ。体力も考えて頑張る事にした。
薬草採取や捜し物系のクエスト。
攻略方法を熟知している俺は次々と解決の糸口を手繰り寄せる。ラケナリアは目を輝かせて「凄い凄い!」と何度も褒めてくれた。自己肯定感が高まるのはいい事だが限度があるな。
このままでは俺が天狗になってしまう。
そうした毎日を約一週間。
のんびりと時間をかけながらこなして行った。
□■□
「最近かなり字が読めるようになってきたの」
「逆に読めてなかったのか……?」
暫くたったある日、衝撃的な発言を聞いた。
「私は人族の言葉をそれはもう勉強したわ。お陰で魔法もなしにこうして話す事が出来る。だけどね、グラス。文字を完璧に理解するのは話す以上に難解なの」
なるほど。俺は半分位の理解で頷いた。
「解析魔法もなしに文字を判読するには、長い月日がかかる。でも遂に私はそれを乗り越えた。私は、魔法なしに文字が読めるようになったのよ!」
「二週間だよ。長い年月」
素直に凄いのだが。
大々的に言うものだから思わず突っ込んでしまった。
「そして今日……Eランク冒険者に昇格します!」
「おー。昇格試験頑張れ」
「見に来てくれるかしら」
「ん、ああ。そうだな一応見ておいてやるよ」
「そう、ふふふ。なら俄然やる気が出るわね」
そういえばこいつの実力を実際に見た事はなかったな。思えば転移魔法だったり、認識阻害の魔法、解析魔法、魔道具生成等多種多様な才能を発揮してきたラケナリア。
ただ、殊更戦闘においての実力はまるで知らない。
「ま、まあ上手くいかなくても落ち込むなよ」
「そうね。手加減できるかしら」
既に相手の心配をしているぞこいつ。
「じゃあ、行くわよ」
「遠足を控える小学生か。はいはい、焦るな焦るな」
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