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第5章 Sleeping Beauty

第39話 資格。

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 ぼくは一人学校に戻った。
 今日はまだ、やり残した事がある。

 あの男に会っていない。
 きっとその辺、学校の中にいるのだろう。

 人気のない場所を探った。
 自然と旧校舎に足が向いた。

 名刺を取り出す。電話をした。
 するとすぐ背後に人気がした。男の影だ。

「資格がない、そう言うつもりなんだろ」
「さすが、未来視を持つ男だ」

 相変わらず胡散臭い奴だ。ぼくの後ろから音も立てずに近付いて。こいつはぼくの寿命をどれだけ縮められるかのミニゲームでもしているのか?

「さて。ちなみに何の資格か聞いていいかな」
「我々と共に来る資格だ」
「共に来る。つまり、機関に行くって事か」
「そうだ」
「……まあ、ぼくなら言いかねないか」

 予知夢はなくても、きっと聞く自信があった。
 この男なら、結愛の居場所も当然知っているだろう。

 名刺に書かれた住所とはまた別の場所なのだろうか?

「結愛の容態は?」
「まだ目覚めてはいない」
「そうか」

 眠り姫を起こすのは、イケメン主人公による奇跡のキスと相場が決まっている。イケメン主人公ねぇ……。

「資格はどうすれば手に入るんだ」
「答えは、対象の中に眠っている」

 対象、つまりはぼくの身体の内、か。このちっぽけな身体のどこにそんなのが眠っているのかね。是非ともご教授願いたい。

「なるほど。で、結局お前は何者……って居ないし」

 男の姿は消えていた。
 逃げ足だけは一丁前に早すぎんだよ。

 □■□

 次の日。部活の部屋にくまのぬいぐるみが飾られていた。しかも何たることか、丁重に椅子に座らされているではないか。

「悠斗さん。今日はどこに行きますか」
「あ。今日も行くんだ。あー……じゃあ」

 適当に映画でも見るか。
 男女二名、学生だからそんなにしない。
 当日の発券だから空いてるやつを選んだ。

 内容は恋愛の感動もの。そこそこ泣ける出来だった。

「疑問ですが、どうしてヒロインはあそこで自分を犠牲に選んだのでしょうか」

 その後はカフェで紅茶を啜りながら感想を言い合った。晴野があの映画にどんな感情を抱くのか普通に気になったしな。

「そりゃ、主人公の事が好きだからだよ。喜んで欲しいし、役に立ちたいってのは当然じゃないかな。だから、自己犠牲をする事に迷いがなかったんだ」

 言いながら気付く。
 結愛のあれは、自己犠牲だったのか?

 ぼくを助けたいとそう願ったから。
 ぼくの役に立ちたいとそう望んだからなのか。

 どうなんだ、結愛。
 結愛ともう一度話したら、分かるのだろうか。

 苦虫を味わうような苦しみが、何とも耐え難い。



 キッパリと、晴野は発言する。
 ぼくは圧倒されて口を噤んだ。

「主人公とヒロインはずっと一緒にいるべきです。ですから自己犠牲を選ぶのは、完全な握手です。どんな形であれ、二人で一緒にいられる形を探すのが最善の策です」

 ハッピーエンド主義者か。それは素晴らしい。泣ける映画って、とりあえずヒロインが重い病気にかかったり、事件に巻き込まれたりで、殺しておけばいいみたいな風潮がある。ぼくもハッピーエンドを望むね。泣くってのは、嬉しい時にも泣けるんだ。

 また次の日……!

「今日はどこに───」
「カラオケに行こう!」

 またまた次の日……!

「今日──」
「友達の誕プレを買いにショッピングだ!」

 そのまた次の日……!

「今……」
「美術館巡りだ!」

 毎日晴野と遊んだ。その度に晴野はちゃんと感情を出してくれた。露骨に出るようなものじゃない、でも確実に自分が導いた正しいと思う答えをぼくに提示してくれている。

 もう十分そうだな。

「本作は、出来は良かったですが一般向けには少し敷居が高いように感じました。ですからより市民に馴染みやすいように出展作をもう一度考え直すか───」
「───美術館にも遂に興味津々か、

 ぼくの方をふと振り返る。
 目線をキョロキョロと泳がせて、

「はい」

 元気よく頷いた。

 □■□

 一週間が経った。
 結愛は学校に来ていない。

 これだけの長期欠席ともなると、只事では無い。
 勿論ぼくは、その事情を知っている。

 だから騒ぐ程の事でもなかった。
 寧ろ騒ぎたいのはもっと別の事だ。

 ぼくの未来視は、今日の最悪をバッチリと捉えた。
 しかも面倒になるのは間違いない。

 その内容とはズバリ、

 、だ。
 結愛関係なのはほぼ間違いないかな。

 中途半端な場面で火山が噴火するのは勘弁だ。
 なのでぼくは寧ろ自分からコンタクトを取った。

『放課後、音楽準備室で会おう。小山悠斗』

 と。内容は完全に結愛のラブレター式だ。
 うちの部活の常套句みたいなものだ。


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