イレブン

九十九光

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エピローグ3

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が不利になるような真似は絶対にしないこと。

二つ、私たちの懲戒免職は三年生の卒業後にすること。進路決めが本格的に始まるこの時期に担任が変わることは、間違いなく彼らに悪影響を与えることになる。以上」

「や、山田先生!」

 自分を制止する佐久間校長を無視して、山田先生は校長室を勝手に出ていった。

 その後、しばらくの静寂のあとで、ほかの先生たちも、ほぼ年齢順に無断で部屋から出ていく。誰一人として、自分の後方から聞こえてくる上司の声に耳を傾けようとはしなかった。新貝先生や三島先生といった表情豊かな人たちも含めて、全員揃って無表情という始末。聖職者と呼ばれたこの仕事に心の底から幻滅し、今にも転職先を探しに行きそうな顔である。

 やがて校長室に残ったのは、佐久間校長と私だけになった。五月の二十五日以来の状況である。その時は内田のいじめを保護者が仕向けたということについての指示であり、それ相応の緊張感を持って立っていたことを覚えている。しかし今は違った。自分がたどることになる未来を知っているせいで、肩の力は抜け、落ち着いている自分がいた。

 佐久間校長が言葉を投げかける。

「樋口先生は……」

 今にも消えてしまいそうな、私の今後のあり方に関する質問だった。いちいち誰かに教えられなくとも理解できそうなものを。

「当然、私も教師を辞めますよ。そもそも私、この仕事あんまり好きじゃなかったですし。WordとExcelの知識を活かして、故郷の山口で適当な仕事でも見つけましょうかね」

 私はそう言うと、佐久間校長に背中を向けて、廊下へ続く出入り口へと歩いていった。私がほかの七人と違ったのは、退室前に「失礼しました」と言ったことだった。

 財布などの手荷物を取るために職員室に行くと、案の定室内は騒然としていた。とっくに帰った三年生の担当を除くほかの教員たちが、今日の異常事態の説明と翌日の体育祭の中止を、各家庭と町内会に電話で伝えていたのだ。まるで通信障害が起こったケータイ会社のコールセンターのごとく(そんなもの見たことないけど)、そこかしこから固定電話や携帯電話の呼び出しベルの音が鳴り響いている。

 さすがにこれに罪悪感を覚えた私は、東側の出入り口近くにある自分の席からカバンを持ち出し、そそくさと自分の車に向かおうとした。

「樋口! なんてことしてくれたんだ、あんたらは!」

 私を呼び捨てで怒鳴りつけたのは、固定電話の受話器を置いた西川先生だった。
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